- 不動産登記法ー3.用益権に関する登記
- 6.賃借権に関する登記
- 賃借権に関する登記
- Sec.1
1賃借権に関する登記
■意義
賃借権とは、賃借人が賃貸人に対して賃料を支払い、目的物を使用収益することを請求できる権利である。(民法601条)賃借権は債権であり、物を排他的に使用することのできる権利ではないが、不動産の場合、利用権の一種として登記をすることが認められている。ただし、賃借人は賃貸人に対して当然に賃借権の設定の登記の請求権を有するものではなく(大T10.7.11)、賃借権の設定契約等において賃借権の登記をする旨の特約によって、はじめて賃借権設定登記請求権が発生する。
■賃借権の登記事項
賃借権の登記の登記事項は、不登法59条各号の一般的登記事項(登記の目的、原因及びその日付等)のほか、賃借権特有の登記事項がある。(不登法81条各号)
(1) 絶対的登記事項(設定契約で必ず定めて登記しなければならない事項)
①賃料
民法601条で、賃料は賃貸借の要素であるから必ずこれを登記しなければならない。これを欠く申請は却下されることになる。ただ、賃料は必ずしも金銭に限られない。
先例 | (S41.4.15民三193号) |
「甲土地を使用収益する」旨の賃料を定めた賃借権設定登記の申請も認められる。 |
先例 | (S54.4.4民三回答) |
数筆を合わせて賃料を定めた賃借権設定登記は、却下される。 |
先例 | (S41.9.29民三1010号) |
賃料の定めは明確なものであることを要するため、例えば「3年目までは年100万円、4年目以降の分については双方協議の上定める」といったような定めを提供することはできない。 |
(2) 任意的登記事項(設定契約で定めたときには登記しなければならない事項)
① 存続期間の定め
賃貸借契約において賃借権の存続期間を定めたときは、それを申請情報の内容として提供する。
民法上、存続期間は20年を超えることができないが、建物所有を目的とする土地の賃貸借(借地権)の場合には、存続期間は最低30年以上でなければならない。
先例 | (S38.11.22民甲3116号) |
存続期間を、「賃貸人が死亡するまで」とする賃借権設定登記の申請は受理される。 |
② 賃料の支払時期の定めがあるときは、その定め
設定契約に賃料の支払時期の定めがあれば、それを登記する。
「支払時期 毎月末日」「支払時期 毎年何月何日」とする。賃料の前払いをしたときも、支払時期としてその登記ができる。
③ 賃借権の譲渡又は賃借物の転貸を許す旨の特約があるときは、その定め
賃借権は賃貸人の承諾がなければこれを譲渡・転貸することができない。承諾なく行えば、賃貸借契約が解除原因となる。しかし賃貸人があらかじめこれを許しているときは、賃借人は自由に賃借権の譲渡•転貸することができる。(民法612条1項)この特約も登記することができ、これによって譲渡・転貸できる旨の特約を第三者に対抗することができることになる。
④ 建物所有を目的とする旨
賃借権の設定の登記においては、地上権と異なり、原則として「設定の目的」を提供することを要しない。ただし、建物所有を目的とする土地の賃貸借の場合には、特別に「目的 建物所有」申請情報に提供する必要がある。建物の所有を目的とした土地の賃借権については借地借家法の規定が適用されるため、その規定が適用される賃借権であることを明らかにする必要があるからである。
⑤ 敷金の定めがあるときは、敷金の額
⑥ 賃貸人が財産の処分につき行為能力の制限を受けた者(ex 被保佐人)又は財産の処分の権限を有しない者(ex 不在者財産管理人)であるときは、その旨
これらの者は、短期賃貸借の設定権限しか有しないため、その旨が登記事項とされる。
ex「不在者財産管理人 (住所)甲野太郎の設定した賃貸借」