- 不動産登記法ー2.所有権に関する登記
- 8.買戻権に関する登記
- 買戻権に関する登記
- Sec.1
1買戻権に関する登記
■買戻特約の意義
不動産の売買契約と同時に、売主のために買戻しの特約をしたときは、売主は、買主が現実に支払った売買代金及び契約費用を返還して、その売買を解除することができる。(民法579条)
■買戻特約の登記
買戻特約がされたときは、買戻特約の登記を申請することができる。買戻特約の登記は、売買による所有権の移転の登記の申請と同時に、別個の申請情報をもって申請する。(S35.3.31民甲712号)
つまり「売買による所有権の移転の登記」と「買戻特約の登記」という2件の登記を同時に申請する。
買戻特約に関する登記 同時申請(1件目)
同時申請(2件目)
(*1)買戻特約の原因日付は、同時申請する売買による所有権移転登記の原因日付と同じ日となるのが原則であるが、所有権移転時期について特約をした場合(例えば売買契約締結後、買主が代金を支払ったときに所有権が移転する等)には、買戻特約の原因日付と所有権移転登記の原因日付が異なることになる。買戻特約の原因日付は売買契約と同時に買戻特約をした日である。
(*2)付記登記として、不動産1個につき1000円である。(登録免許税法別表一、一、(十四))
(完了後の登記記録) (一部記載省略)
■登記申請手続
(1) 同時申請
前述のとおり、買戻特約の登記は、売買による所有権移転登記の申請と同時に、別個の申請情報によってする。(S35.3.31民甲712号)
① 所有権保存登記との同時申請
未登記新築不動産が買戻特約付で売買された場合、新所有者名義の所有権保存登記の申請と同時に買戻特約の申請をすることができる。(S38.8.29民甲2540号)例えば、表題登記すらなされていない建物を乙が甲から買受け、同時に甲を買戻権者とする買戻特約をした場合、買主乙名義での表題登記、所有権保存登記をし、併せて甲を買戻権者とする買戻特約の登記をすることができる。この場合も、所有権保存登記と同時に買戻特約の登記を申請することを要する。
② 買戻特約の仮登記
(イ)仮登記の可否
所有権移転又は移転請求権の仮登記と同時に、買戻特約の仮登記をすることもできる。ただし、この仮登記は必ずしも同時申請の必要はなく、所有権などの仮登記後、買戻特約の仮登記を申請することもできる。(S36.5.30民甲1257号)
(ロ)仮登記の本登記
しかし、買戻特約の本登記は、所有権移転の本登記と同時に申請しなければならない。所有権の本登記と同時に買戻特約の本登記も申請すれば、同時に申請されたことになるからである。
先例 | (S37.1.10民甲1号) |
代物弁済を原因とする所有権移転登記と同時に、買戻特約登記をすることはできない。 |
登研 | (質疑登研322号) |
譲渡担保を原因とする所有権移転登記と同時に買戻特約の登記を申請することもできない。 |
(2) 買戻特約の申請情報
買戻特約の登記に特有な登記事項として、①売買代金、②契約費用、③買戻期間 がある。
①②は、絶対的登記事項であるため、必ず申請情報の内容として提供しなければならないが、③については、買戻特約で買戻期間を定めた場合のみ提供すれば足りる。
① 売買代金
買主が現実に支払った額を提供する。買戻しの際に売主が支払うべき利息等を併せた額を提供することはできない。(S35.8.1民甲1934号)
先例 | (S43.2.21民甲335号) |
数個の不動産を一括売却し、同時に買戻特約をした場合、その買戻代金及び契約費用は各不動産ごとに定めるべきであり、数個の不動産の売買代金等を一括して定めた買戻特約によりその旨の登記をすることはできない。 |
登研 | (質疑登究531号) |
一方、敷地権の表示のある区分建物につき買戻特約登記をするときは、敷地権及び専有部分一括
の売買代金と契約費用を登記すべきであり、建物と敷地権とを各別に登記することはできない。 |
② 契約費用
契約の費用とは、契約書作成の費用、その他売買契約締結のための費用、例えば契約書に貼る印紙代、公正証書作成手数料、不動産の測量又は鑑定の費用などで買主が現実に支払った金額をいう。必ず登記事項としなければならない。
もし、契約費用の返還の必要がないときは「契約費用 返還不要」とする。契約費用がないときは、「契約費用なし」とする。
③ 買戻期間
買戻特約に買戻の期間の定めがあるときは、これを申請情報として提供しなければならない。
買戻期間は10年を超えることができず(民法580条1項)、もしこれより長い期間を定めて登記の申請をしたときには、却下事由となる。
(3) 登記申請手続
① 申請人
1件目で申請する売買による所有権移転登記と逆で、売主が「登記権利者」、買主が「登記義務者」となって共同申請による。所有権移転と買戻特約の登記は同一の申請情報によることはできない。(S35.3.31民甲712号通達)
② 登記原因及び日付
登記原因は「特約」であり、その日付は特約成立の日である。1件目の売買による所有権移転登記と同じ日になるのが原則である。ただ、前述のとおり所有権移転時期についての特約をした場合には、それぞれの日付による。
③ 添付情報
(イ)登記原因証明情報
買戻特約の登記も権利に関する登記なので、登記原因を証する情報の提供を要する。
(ロ)登記義務者の登記識別情報
買戻特約の登記義務者は1件目の売買による所有権移転登記の買主であるため、未だ所有権登記名義人として登記識別情報の通知を受けていない。(これから2連件で登記の申請をする)ため、登記識別情報の提供は不要である。
(ハ)印鑑証明書
未だ所有権登記名義人となっていないため、所有権登記名義人が登記義務者となる場合に当たらず、印鑑証明書も提供不要である。
(ニ)登記上の利害関係を有する第三者の承諾等を証する情報
農地の場合でも、買戻特約の登記の際には、農地法の許可は不要であるため、許可書の提供は不要である。その後、買戻権を行使して、所有権を再度移転する際に必要となる。
(ホ)代理権限証明情報
司法書士に買戻登記の申請を委任する場合には、司法書士への委任状を提供する。
④ 登録免許税
付記登記として、不動産1個につき1000円である。(登録免許税法別表一、一、(十四))
(4) 登記の実行
買戻特約登記の申請は、売買登記の申請と同一の受付番号で受け付けられ、売買登記の付記登記として登記される。なお、売買による所有権移転登記を却下するときは、買戻特約の登記申請も却下すべきである。(不登法25条2項)