- 不動産登記法ー2.所有権に関する登記
- 4.所有権移転登記(相続、合併等の包括承継による場合)
- 所有権移転登記(相続、合併等の包括承継による場合)
- Sec.1
1所有権移転登記(相続、合併等の包括承継による場合)
■申請人
(1) 相続人等の単独申請
相続又は法人の合併による権利の移転の登記は、登記権利者が単独で申請することができる。(不登法63条2項)相続の場合、被相続人は既に死亡しているから、そもそも共同申請によることはできず、単独申請によっても、相続の事実は戸籍等により明らかであり、登記の真正も担保できるためである。合併の場合も同様に、法人の登記事項証明書等によって合併の事実は明らかであるためである。
「相続」による所有権移転登記 申請書 記載例
Aが死亡し、その子である甲・乙・丙が不動産を共同相続した場合(法定相続分による場合)
(*1)被相続人Aの死亡の日を記載する。
(*2)相続人全員が申請人になるのが原則であるが、一部の相続人のみが保存行為として申請することも可能である。例えば、甲のみが上記の相続登記を申請することもできる。 次貢で後述するが、登記原因が相続の場合、所有権一部移転をすることができず、他の相続人が登記に協力しない場合、自己の相続分についてのみ登記することができないため、特別に認められている。 cf 売買等による所有権移転登記の場合(登研577号)
(*3)登記原因証明情報として①被相続人の出生から死亡するまでの戸籍全部と②相続人の現在戸
籍を添付する。①はAの死亡の事実とAの相続人の範囲を証明するために、②は甲・乙・丙
がAの相続開始時点で現に存在していたことを証明するために提供する。
(*4)相続登記は相続人の単独申請であるので、本来であれば登記義務者が提供すべきである登記識別情報(登記済証)や印鑑証明書の添付は不要である。
(完了後の登記記録)
先例 | (S30.10.15民甲2216号) |
共同相続人中の一部の者が、自己の相続分についてだけ相続の登記をすることはできない。これを認めると登記上、被相続人と相続人の一部の者との共有であるかの如き記録が出現し、公示上望ましくないためである。 |
⇒ よって、相続を原因とする所有権一部移転や被相続人持分一部移転の登記はすることができないことになる!
cf
登研 | (登研577号) |
不動産の共同購入者の一人は、買主全員のために保存行為として売主と共同して所有権移転登記をできない。 |
所有権登記名義人が法人で、合併により消滅した場合
「合併」による所有権移転登記 申請書 記載例
不動産登記名義人である株式会社Aが株式会社Bに合併し消滅した場合
(*1)吸収合併の場合は、吸収合併契約で定めた効力発生日に、新設合併の場合は新設会社の設立登記の日を原因日付とする。
(*2)具体的には合併後の存続会社である株式会社Bの登記事項証明書を添付するが、会社法人等番号を提供すれば省略できる。
Aが土地の2分の1をXに遺贈する遺言を残して死亡した場合
①Aから甲・乙に「相続」を原因として2分の1の移転登記と、②AからXに「遺贈」を原因として2分の1の移転登記をそれぞれすることになるが、①の登記を先にすることはできない!なぜなら「相続」を原因とする所有権一部移転登記をすることになってしまうからである。よってこの場合、②の「遺贈」を原因とするAからXへの所有権一部移転登記を先に申請し、次いで①の「相続」を原因とするA持分全部移転登記を申請することになる。
[発展論点]
このように相続による所有権一部移転登記を申請することはできない。しかし共有者の持分につき抵当権などの第三者の権利の登記や処分制限の登記(差押・仮差押・仮処分)の登記があるときは別件で申請し各別に登記しなければならないとする先例(S37.1.23民甲112号通達)がある。
それでは被相続人が数回にわたって持分を取得しその一部の持分に第三者の権利の登記がなされている場合、相続による所有権移転登記をどのようになすべきか?
①~④は登記の順番を指す。
Bは上記のとおり2回にわたってAから所有権全部を買い受け、その一部である甲区3番で取得した持分のみに甲銀行株式会社のため抵当権を設定している。その後Bが死亡し、b1が相続人である場合、本来ならば甲銀行株式会社の抵当権が設定されている甲区3番で取得した持分と抵当権が設定されていない甲区2番の持分を別々に移転登記すべきである。(所有権一部移転登記、B持分全部移転登記)しかし相続を原因とする所有権一部移転登記ができないとされている関係上、この場合例外的に1回の申請で所有権の全部の移転登記を認めることになる。
その後、b1が相続によって取得した所有権全部のうち、甲銀行株式会社の1番抵当権の設定のされていない甲区2番から取得した持分のみをCに売却した場合。
(2) 相続人の一部の者が不動産を相続した場合
遺産分割や相続放棄があったり、特別受益者がいたりして相続人中の一部の者がその不動産を取得した場合には、その不動産を取得した者だけが申請すれば足りる。
■添付情報(添付書類)
(1) 登記原因証明情報
相続による所有権の移転の登記を申請するときは、申請情報と併せて、相続を証する市区町村長その他の公務員が職務上作成した情報及びその他の登記原因を証する情報を提供することを要する。(不登令別表22添付情報欄)相続登記は、相続人による単独申請であるため、公的な情報を提供させることによって、登記の真正を担保するためである。
具体的には次の事項を確認するため、それに必要な情報の提供が要求される。
(イ)相続が開始したこと
(ロ)申請人が相続人であること
(ハ)他に相続人が存在しないこと
(ニ)相続放棄、欠格、廃除などにより、相続人となるべき者に変更が生じていないか
(ホ)特別受益、相続分の譲渡などにより、相続分に変更が生じていないか
① 戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)等
具体的には、被相続人出生から死亡までの戸籍(戸籍謄本、改製原戸籍、除籍謄本)と各相続人の現在戸籍を提供する。
② 相続欠格・廃除を証する情報
相続欠格者がある場合において、その者を除いて相続登記を申請するときは、欠格者自身の作成した相続欠格者である旨の証明書(印鑑証明書付)又は欠格を証する確定判決の謄本を添付しなければならない。(S 33.1.10民甲4号)
それに対し、廃除の場合は、戸籍に廃除された旨が記載されるので、戸籍謄本の提供のみで足りる。
③ 特別受益を証する情報
被相続人から自己の相続分と同等か、又はそれを超過する遺贈や生前贈与を受けている者(特別受益者)は、相続分がないので、その者の特別受益証明書と印鑑証明書とを添付して他の相続人が登記申請をすることができる。(S30. 4 .23民甲742号)
登研 | (質疑登研370号) |
特別受益者が特別受益の証明を作成する前に死亡したときは.その相続人の全員が特別受益の証明を作成することができる。 |
先例 | (S23.12.18民甲95号) |
親権者とその親権に服する未成年の子数人が共同相続人である場合において、その子の全部又は一部につき親権者が特別受益証明書を作成することは利益相反行為にならない。過去の事実の証明にすぎず,新たな利益相反がないからである。 |
先例 | (S49.1.8民三242号) |
共同相続人となるべき乙が、被相続人甲から相続分を超える生前贈与を受け、甲より先に死亡した場合、この代襲相続人丙が「乙は甲から特別受益を受けている」旨の証明書を作成して、丙を除く他の相続人から相続登記を申請することができる。 |
④ 相続放棄申述受理証明書
共同相続人中に相続放棄をした者があるときは、それを証する家庭裁判所の「相続放棄申述受理証明書」の提供が必要である。(登研24号)。相続放棄した本人が作成した相続の放棄を証する書面をもって代えることはできない。
⑤ 遺産分割協議書
共同相続の登記がされる前に遺産分割がされ、その遺産分割の内容に従った形で相続の登記を申請するときは、遺産分割がされたことを証する情報を提供する。
先例 | (S30.4.23民甲742号) |
遺産分割の協議書を提供するときは、相続の登記の申請人以外の協議者全員の印鑑証明書を提供することを要する。 |
登研 | (質疑登研129号) |
この印鑑証明書は、作成後3か月以内のものであることを要しない。 |
登研 | (質疑登研146号) |
遺産分割協議書が公正証書により作成されている場合、協議者の印鑑証明書を提供することを要しない。 |
先例 | (S55.11.20民三6926号) |
遺産分割協議が成立して協議書が作成され、押印はしたが、印鑑証明書を交付しない者が存在するときは、その者に対して遺産分割協議書の真否確認の訴えを提起し、その確定勝訴判決をもってその者の印鑑証明書に代えることができる。 |
先例 | (H4.11.4民三6284号) |
遺産分割協議が成立して協議書が作成されたが、遺産分割協議書への押印を拒む者が存在するときは、遺産分割により不動産を取得することになった者は、押印を拒んでいる者に対して所有権確認訴訟を提起し、その勝訴判決及び遺産分割協議書(他の協議者の印鑑証明書付)を提供して、登記を申請することができる。 |
先例 | (S37.5.31民甲1489号) |
調停により遺産分割がされた場合、申請情報と併せて遺産分割調停調書を提供すれば足り、別途戸籍謄本等を提供することを要しない。 |
⇒ 調停手続きの際に家庭裁判所によって相続人の確認がなされているため、改めて登記官が調査する必要がないためである。
⑥ 寄与分を証する情報
共同相続人全員が作成した寄与分の協議を証する情報又は家庭裁判所の審判等があったことを証する情報を提供する。
⑦ 相続分の指定を証する遺言書
被相続人が遺言で相続分を指定した場合の相続登記には、「遺言書」が必要となる。この遺言書は、公正証書遺言以外の遺言書であれば、家庭裁判所の検認を受けたものでなければならない。(登研464号、登研505号) ex「甲土地をAに3分の2、B3分の1の割合で相続させる。」
⑧ 相続分譲渡証明情報
共同相続登記前に、相続人間で相続分の譲渡があったため、相続分譲渡後の相続分の割合で相続登記をするときは、相続分譲渡証明書(印鑑証明書付)の提供が必要となる。
(2) 住所証明情報
相続による所有権移転登記を受ける相続人の住所を証する市町村長、登記官その他の公務員が職務上作成した情報(公務員が職務上作成した情報がない場合にあっては、これに代わるべき情報)を提供する。(令別表三十添付ロ)具体的には、住民票の写し又は戸籍の附票である。
(3) 相続関係説明図
相続関係説明図を提供すれば、登記原因証明情報として提供した相続を証する情報を記載した書面(戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍等)については当該相続関係説明図を謄本として原本還付請求をすることができる。(H17.2.25民二457号)
(4) 印鑑証明書、登記識別情報の提供不要
相続による移転登記には、登記義務者の概念がないため、本来ならば登記義務者が提供すべき印鑑証明書や登記識別情報の提供は不要である。ただし、登記原因証明情報として、戸籍謄本等の他に遺産分割協議書や特別受益証明書等を提供する場合には、当該書面の押印者と印鑑証明書の提供が必要となる点に注意!