• 民法親族・相続ー14.配偶者の居住の権利
  • 2.配偶者短期居住権
  • 配偶者短期居住権
  • Sec.1

1配偶者短期居住権

堀川 寿和2022/01/06 15:55

配偶者短期居住権制度の趣旨

 配偶者が被相続人所有の建物に居住していた場合に、被相続人が死亡し、その建物を配偶者以外の第三者に遺贈する遺言があったときは、その建物はその第三者の所有となる。このような場合に、その配偶者が直ちに居住建物を退去しなければならなくなると、配偶者の大きな負担となってしまう。そこで、このような場合であっても、被相続人の死亡後の一定期間、その配偶者に居住建物を無償で使用する権利を認めている。これが、配偶者短期居住権の制度である。

配偶者短期居住権の成立

(1) 配偶者短期居住権

 配偶者短期居住権とは、相続人の配偶者が、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合において、一定の期間、その居住していた建物(以下「居住建物」という。)について無償で使用する権利をいう(民法1037条1項)。なお、配偶者が居住建物の一部のみを無償で使用していた場合は、その部分について無償で使用する権利をいう。相続人の配偶者は、配偶者短期居住権を、居住建物の所有権を相続または遺贈により取得した者(以下「居住建物取得者」という。)に対して有する。


(2) 配偶者短期居住権の成立要件

 配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合において、配偶者短期居住権を取得する(民法1037条1項本文)。

配偶者居住権が成立する配偶者は、法律上被相続人と婚姻をしていた配偶者をいい、内縁の配偶者は含まれない。

 また、配偶者居住権が成立する建物は、被相続人の財産に属した建物である。配偶者が所有権を有している場合だけでなく、共有持分を有するにすぎない場合も、配偶者短期居住権は成立する。

 ただし、配偶者が、相続開始の時において居住建物に係る配偶者居住権を取得したときは、配偶者短期居住権は成立しない(同項ただし書)。この場合は、配偶者短期居住権は不要だからである。また、相続の欠格事由に該当しまたは廃除によってその相続権を失ったときも、配偶者居住権は成立しない(同項ただし書)。このような配偶者までは、保護する必要がないからである。


配偶者短期居住権の内容

(1) 配偶者短期居住権の存続期間

① 居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合

存続期間は、次の(イ)または(ロ)いずれか遅い日までの間である。

(イ) 遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日

(ロ) 相続開始の時から6箇月を経過する日


② ①の場合以外の場合

存続期間は、居住建物取得者による配偶者短期居住権の消滅の申入れの日から6か月を経過する日までの間である。


(2) 配偶者による使用

① 居住建物の使用

配偶者短期居住権は、配偶者に使用権のみを認め(民法1037条1項本文)、配偶者居住権と異なり、収益権を認めていない。居住建物取得者は、第三者に対する居住建物の譲渡その他の方法により配偶者の居住建物の使用を妨げてはならない(民法1037条2項)。


② 用法遵守義務・善管注意義務

配偶者短期居住権を有する配偶者は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用をしなければならない(民法1038条1項)。


③ 配偶者短期居住権の譲渡禁止

配偶者短期居住権は、譲渡することができない(民法1041条→1032条2項)。


④ 無断で第三者に使用させることの禁止

配偶者は、居住建物取得者の承諾を得なければ、第三者に居住建物の使用をさせることができない(民法1038条2項)。


(3) 居住建物の修繕等

 居住建物の修繕等については、配偶者居住権の規定が準用される(民法1041条→民法1033条)


(4) 居住建物の費用の負担

 居住建物の費用の負担については、配偶者居住権の規定が準用される(民法1041条→民法1034条)。


(5) 損害賠償および費用の償還の請求権についての期間の制限

 損害賠償および費用の償還の請求権についての期間の制限は、配偶者居住権におけるものと同様である(民法1041条→民法600条)。