- 民法親族・相続ー14.配偶者の居住の権利
- 1.配偶者居住権
- 配偶者居住権
- Sec.1
1配偶者居住権
■配偶者居住権制度の趣旨
遺産分割において配偶者が居住用建物の所有権を取得すると、居住建物の評価額が高額となって、配偶者が預貯金などのその他の財産を十分に取得できない場合がある。
例えば、Aの夫が遺言を残さず死亡し、その相続財産が、Aが夫と同居していた自宅の土地建物(評価額1500万円)と預貯金1500万円だったとする。亡き夫は再婚で、相続人には、妻Aのほかに、夫と前妻との間の子Bがいて、Bが法定相続分どおり1500万円の財産の取得を主張してきた場合、Aが自宅の土地建物を取得すれば、預貯金は全く取得できないことになる。
そこで、居住建物自体を取得するよりも低い価額で配偶者の居住権を確保できるようにするために、使用収益権のみの配偶者居住権という権利を認めている。
■配偶者居住権の成立
(1) 配偶者居住権
配偶者居住権とは、被相続人の配偶者が、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、その居住していた建物(以下「居住建物」という。)の全部について無償で使用収益をする権利をいう(民法1028条1項)。
(2) 配偶者居住権の成立要件
配偶者は、①被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、②次の(イ)または(ロ)のいずれかに該当する場合に、配偶者居住権を取得する(民法1028条1項本文)。
① 配偶者が被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していたこと
配偶者居住権が成立する配偶者は、法律上被相続人と婚姻をしていた配偶者をいい、内縁の配偶者は含まれない。
また、配偶者居住権が成立する建物は、被相続人の財産に属した建物である。したがって、被相続人が賃借していた建物に配偶者が居住していても、配偶者居住権は成立しない。また、被相続人の財産に属した建物であっても、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、配偶者居住権は成立しない(民法1028条1項ただし書)。それに対して、居住建物がもともと被相続人の単独所有であれば、配偶者居住権は成立し、これと同時に相続や遺贈で居住建物が共有となっても、配偶者居住権は消滅しない(民法1028条2項)。
② 次の(イ)または(ロ)のいずれかに該当すること
(イ) 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。
配偶者は、配偶者居住権を、遺産分割で取得することができる。
(ロ) 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。
被相続人は、遺言で、配偶者に配偶者居住権を与えることができる。被相続人が、配偶者に対し、配偶者居住権について遺贈をしたときは、当該被相続人は、その遺贈について持戻しを免除する旨の意思を表示したものと推定される(民法1028条3項→903条4項)。
(3) 審判による配偶者居住権の取得
遺産の分割の請求を受けた家庭裁判所は、次の①または②に該当する場合に限り、配偶者が配偶者居住権を取得する旨を定めることができる(民法1029条)。
① 共同相続人間に配偶者が配偶者居住権を取得することについて合意が成立しているとき。
② 配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において、居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき(①に該当する場合を除く。)。
■配偶者居住権の内容
(1) 配偶者居住権の存続期間
① 原則
配偶者居住権の存続期間は、配偶者の終身の間である(民法1030条本文)。
② 例外
遺産の分割の協議もしくは遺言に別段の定めがあるとき、または家庭裁判所が遺産の分割の審判において別段の定めをしたときは、その定めるところによる(民法1030条ただし書)。
(2) 配偶者居住権の登記等
① 配偶者居住権の対抗力
配偶者居住権は、これを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる(民法1031条2項→605条)。したがって、居住建物の引渡しでは、対抗することができない。
② 居住建物の所有者の義務
居住建物の所有者は、配偶者居住権を取得した配偶者に対し、配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負う(民法1031条1項)。
③ 配偶者による妨害の停止の請求等
配偶者居住権の設定の登記を備えたときは、配偶者は、次の(イ)または(ロ)の請求をすることができる(民法1031条2項→605条の4)。
(イ) 居住建物の占有を第三者が妨害しているとき
配偶者は、その第三者に対して妨害の停止の請求をすることができる。
(ロ) 居住建物を第三者が占有しているとき
配偶者は、その第三者に対して返還の請求をすることができる。
(3) 配偶者による使用および収益
① 用法遵守義務・善管注意義務
配偶者は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用収益をしなければならない(民法1032条1項)。ただし、従前居住の用に供していなかった部分について、これを居住の用に供することを妨げない(同項ただし書)。
② 配偶者居住権の譲渡の禁止
配偶者居住権は、譲渡することができない(民法1032条2項)。
③ 無断増改築の禁止・無断で第三者に使用収益させることの禁止
配偶者は、居住建物の所有者の承諾を得なければ、居住建物の増改築をし、または第三者に居住建物の使用収益をさせることができない(民法1032条3項)。
(4) 居住建物の修繕等
① 配偶者の修繕権
配偶者は、居住建物の使用収益に必要な修繕をすることができる(民法1033条1項)。
② 居住建物の所有者の修繕権
居住建物の修繕が必要である場合において、配偶者が相当の期間内に必要な修繕をしないときは、居住建物の所有者は、その修繕をすることができる(民法1033条2項)。
③ 配偶者の通知義務
次の(イ)または(ロ)の場合は、配偶者は、居住建物の所有者に対し、遅滞なくその旨を通知しなければならない(民法1033条3項)。
(イ) 居住建物が修繕を要するとき(配偶者が自らその修繕をするときを除く。)
(ロ) 居住建物について権利を主張する者があるとき
ただし、居住建物の所有者が既にこれを知っているときは、通知をする必要はない(同項ただし書)。
(5) 居住建物の費用の負担
① 通常の必要費
配偶者は、居住建物の通常の必要費を負担しなければならない(民法1034条1項)。
② 特別の必要費および有益費
居住建物の所有者は、配偶者が特別の必要費を支出したときはその償還をしなければならず、また配偶者が有益費を支出したときは、その価格の増加が現存する場合に限り、居住建物の所有者の選択に従い、その支出した金額または増価額の償還をしなければならない(民法1034条2項→583条2項本文)。ただし、有益費については、裁判所は、居住建物の所有者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる(民法1034条2項→583条2項ただし書)。
(6) 損害賠償および費用の償還の請求権についての期間の制限
配偶者の善管注意義務違反等によって生じた損害の賠償および配偶者が支出した費用の償還は、居住建物の所有者が居住建物の返還を受けた時から1年以内に請求しなければならない(民法1036条→民法600条1項)。そして、この損害賠償の請求権については、居住建物の所有者が居住建物の返還を受けた時から1年を経過するまでの間は、時効は、完成しない(民法1036条→民法600条2項)。