- 権利関係ー5.債権各論
- 5.不法行為
- 不法行為
- Sec.1
1不法行為
民法では、故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負うと規定している。つまり他人によって損害を受けた被害者は、損害賠償請求によって救済が図られるということである。
■不法行為
(1) 不法行為とは
不法行為とは、故意または過失によって、他人の権利・利益を侵害することにより、他人に損害を生じさせる行為をいう。
不法行為により損害を生じさせた者を加害者といい、損害を受けた者を被害者という。
(2) 不法行為の成立要件
① 加害者に故意または過失があること
② 加害行為が違法であること ③ 被害者に損害が発生していること ④ 加害行為と損害との間に因果関係があること ⑤ 加害者に責任能力があること |
Point1 故意とは「わざと」、過失とは「うっかり」のことをいう。故意・過失があることについては被害者が立証しなければならない。
Point2 他人の不法行為に対し、自己または第三者の権利・利益を防衛するため、やむを得ずする加害行為を正当防衛という。このような場合は、加害行為に違法性が認められない。
Point3 「損害」には、財産的損害だけではなく、精神的損害も含む。精神的損害に対する賠償を慰謝料という。
Point4 「因果関係」とは、加害行為が原因となって損害の発生という結果が生じている関係である。因果関係があることについては、被害者が立証しなければならない。
Point5 「責任能力」とは、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能をいう。一般的には12歳程度の知能と解されている(判例)。
■不法行為の効果
(1) 損害賠償請求権の発生
不法行為が成立すると、被害者は加害者に対してその損害の賠償を請求することができる。
損害賠償は、原則として、金銭賠償である。
Point1 被害者の損害賠償請求権が発生するのは、不法行為により損害が発生した時である。また、加害者の損害賠償債務は、不法行為により損害が発生した時から遅滞となる(催告不要)。
Point2 胎児は、損害賠償の請求権については、既に生まれたものとみなされる。したがって、胎児にも損害賠償請求権が認められる。
(2)過失相殺
被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。つまり、被害者に過失があったために損害が発生・拡大したような場合は、裁判所の裁量によって損害賠償の額が減額されることがある。これを過失相殺という。
Point 被害者が幼児であっても、被害者側に過失があれば、過失相殺が考慮される。
(3) 不法行為による損害賠償請求権の消滅時効
次の①または②に該当する場合は、不法行為による損害賠償の請求権は、時効によって消滅する。
① 被害者またはその法定代理人が損害および加害者を知った時から3年間行使しないとき
② 不法行為の時から20年間行使しないとき |
Point 人の生命または身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効については、上記の①が「被害者またはその法定代理人が損害および加害者を知った時から5年間行使しないとき」となる。
■特殊の不法行為
民法は一般の不法行為以外に特殊の不法行為を規定している。
① 使用者責任 ② 共同不法行為 ③ 注文者の責任 ④ 土地工作物責任 等
(1) 使用者責任
ある事業のために他人を使用する者(使用者)は、被用者が、その事業の執行について、不法行為によって第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。この責任を、使用者責任という。
Point1 使用者責任が成立するためには、被用者の行為が不法行為の成立要件を満たす(被用者に不法行為責任が成立する)必要がある。
Point2 使用者責任が成立する場合、被害者は使用者・被用者のいずれに対しても、損害賠償を請求することができる。
Point3 損害を賠償した使用者は、被用者に求償することができる。ただし、判例では、使用者は、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対して求償することができるとして、求償権の制限を認めており、必ずしも全額求償できるとは限らない。
Point4 使用者と被用者との間に事実上の指揮・監督関係が認められれば、使用者責任が成立する。例えば、マンション管理業者から再委託を受けた清掃業者の従業員が、マンション管理業者の事業の執行について他人に損害を与えた場合は、マンション管理業者が使用者責任を負うことがある。
Point5 使用者が被用者の選任・監督について相当の注意をしたとき(過失がないとき)、または相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、使用者責任が成立しない。
Point6 使用者に代わって事業を監督する者も使用者と同様の責任を負う。
(2) 共同不法行為
数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。
共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。
Point1 共同不法行為が成立する場合、被害者は、各行為者のいずれに対しても、全額の損害賠償請求をすることができる。
Point2 共同不法行為者の一人が全部の賠償をしたときは、本来負担すべき責任の割合(原則として平等)に応じて、他の共同不法行為者に求償することができる。
(3) 注文者の責任
請負人がその仕事について、不法行為により第三者に損害を加えた場合、請負人のみが損害を賠償する責任を負い、注文者は責任を負わない。
ただし、注文または指図についてその注文者に過失があったときは、注文者も損害賠償責任を負う。
(4) 土地の工作物の占有者および所有者の責任(土地工作物責任)
土地の工作物の設置または保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
この場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者または所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。
Point 土地の工作物から生じた損害については、第1次的には「占有者」が、第2次的には「所有者」が、その損害賠償責任を負う。なお、所有者は、故意または過失がなくても、損害賠償責任を負わなければならない(無過失責任)。
事例 B所有の建物をAが賃借していたところ、その建物の設置に瑕疵があり、瓦が落下して通行人のCが重傷を負ってしまった。
まず、①建物の賃借人Aが被害者Cに対して損害賠償責任を負う。②賃借人Aが損害の発生を防止するために必要な措置をしていたときは、Aは責任を免れ、建物の所有者Bが被害者Cに対して損害賠償責任を負う(無過失責任)。そして、③建物の屋根に欠陥があったことの原因が、建物の建築工事を請け負った建築会社の欠陥工事にあったときは、Cに損害を賠償したAまたはBは、建築会社に求償することができる。