• 民法親族・相続ー13.遺言
  • 3.遺言の効力
  • 遺言の効力
  • Sec.1

1遺言の効力

堀川 寿和2022/01/06 15:15

遺言の効力の発生

(1) 遺言の効力発生時期

 遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる(民法985条1項)。


(2) 条件・期限付の遺言

 遺言に条件・期限を付けることも可能である。

遺言に停止条件が付されている場合で、その条件が遺言者の死亡後に成就したときは、遺言は、条件が成就した時からその効力を生ずる(民法985条2項)。

 例えば、司法書士試験に合格することを停止条件に建物の遺贈がなされたような場合、遺言者の死亡後に司法書士試験に合格すれば、合格の時に遺贈の効力が生じることになる。遺言者が死亡する前にその条件が成就していた場合は、遺言者が死亡した時から遺言の効力が生ずることになる。よって遺言者が死亡する前に、すでに司法書士試験に合格していれば、その後遺言者の死亡と同時に遺贈の効力が生じる。


遺贈

(1) 遺贈の意義

遺贈とは、遺言によって遺産の全部または一部を他人に与える行為をいう(民法964条)。


(2) 遺贈の種類

遺贈には、包括遺贈と特定遺贈がある。


① 包括遺贈

包括遺贈とは、特定の具体的な財産を遺贈するのではなく、「遺産の全部」や「遺産全体の3分の1」といったように、割合的に遺贈するものである。積極財産だけでなく、債務等の消極財産も包括的に承継されることになる。


② 特定遺贈

特定遺贈とは、ある特定の具体的財産を指定してなされる遺贈である。例えば、特定の土地や一定の金額を遺贈するような場合である。


(3) 受遺者

① 受遺者の意義

遺贈を受ける者を、受遺者という。法人も受遺者となることができるし、胎児も受遺者となることができる(民法965条→886条)。

(イ) 包括受遺者

包括遺贈を受ける者を包括受遺者という。

(ロ) 特定受遺者

特定遺贈を受ける者を特定受遺者という。


② 包括受遺者の地位

包括受遺者は、遺産の全部または割合的な一部を取得する。積極財産だけでなく、消極財産も承継することになるため、包括受遺者は相続人と立場が非常に似ている。そこで、包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する(民法990条)と規定されている。その結果、包括受遺者は相続人と共に遺産分割協議に参加することができる。ただし、相続人そのものになるわけではないため、代襲相続の規定は適用されない。


(4) 遺贈義務者

① 意義

 遺贈義務者とは、遺言の効力発生後(つまり遺言者の死亡後)に、遺贈の履行をする義務を負う者である。遺贈義務者は、原則として相続人であるが、包括受遺者や相続財産の管理人が遺贈義務者となることもある。また、遺言執行者がいるときは、遺言執行者が遺贈義務者となる。


② 遺贈義務者の引渡義務

 遺贈義務者は、遺贈の目的である物または権利を、相続開始の時(その後に当該物または権利について遺贈の目的として特定した場合にあっては、その特定した時)の状態で引き渡し、または移転する義務を負う(民法998条本文)。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う(同条ただし書)。


(5) 遺贈の効果

 遺贈は遺言者が死亡した時から効力を生じ(民法985条)、財産は受遺者に帰属することになる。

 ただし、不動産の遺贈の効果を第三者に対抗するためには、受遺者は登記を備えておかなければならない(最判昭39.3.6)。

(6) 特定遺贈の承認・放棄

① 特定遺贈の放棄

 受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、特定遺贈の放棄をすることができる(民法986条1項)。特定遺贈の放棄は、遺言者の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる(同条2項)。


② 受遺者の相続人による特定遺贈の放棄

 受遺者が遺贈の承認または放棄をしないで死亡したときは、その相続人は、自己の相続権の範囲内で、遺贈の承認または放棄をすることができる(民法988条本文)。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う(同条ただし書)。


③ 放棄の方法

 特定遺贈の放棄をするのに、特に方式は定められていないため、遺贈義務者に対して放棄の意思表示をすれば足りる。相続放棄の場合のように、家庭裁判所に申述する必要はない。


④ 放棄の期間

 特定遺贈を受けた者は、遺言者の死亡後、いつでも遺贈の放棄をすることができる(民法986条1項)。期間の制限はない。

cf.包括遺贈の放棄

この民法986条の規定は、特定遺贈についてのみ適用があり、包括遺贈については適用がない。包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有するため(民法990条)、包括受遺者が遺贈を放棄する場合は、相続の放棄と同様に家庭裁判所に申述することを要する。


⑤ 効果

 遺贈の放棄がされたときは、遺言者の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずるため、最初から遺贈がなかったことになる。


⑥ 遺贈の承認および放棄の撤回および取消し

 遺贈の承認および放棄は、撤回することはできない(民法989条1項)。

民法919条2項および3項の規定は、遺贈の承認および放棄に準用される(民法989条2項)ため、民法総則および親族編の規定によって取り消すことはできる。この取消権は、追認をすることができる時から6か月、承認または放棄の時から10年を経過すると、消滅する。


⑦ 受遺者に対する遺贈の承認または放棄の催告

 特定受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも遺贈の放棄をすることができ、受遺者がいつまでも遺贈の承認も放棄もしない場合、相続人や遺贈義務者にとって酷な場合もある。そこで、遺贈義務者その他の利害関係人は、受遺者に対し、相当期間を定めて、その期間内に遺贈の承認または放棄をすべき旨の催告をすることができる(民法987条前段)。この場合において、受遺者がその期間内に遺贈義務者に対してその意思を表示しないときは、遺贈を承認したものとみなされる(同条後段)。 


(7) 包括遺贈の承認・放棄

 包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有するため(民法990条)、包括遺贈の承認・放棄については、相続の承認・放棄の規定が適用される。つまり、包括受遺者は、自己のために遺贈の効力が生じたことを知った時から3か月以内に、その遺贈の承認、限定承認、放棄をすることを要する(民法915条1項)。限定承認、放棄をすることなくこの期間を経過したら、包括遺贈を単純承認したものとみなされる(民法921条2号)。また、受遺者が包括遺贈を受けていることを知りながら、包括遺贈に係る財産の全部または一部を処分したときも、単純承認したとみなされる(民法921条1号)。包括遺贈の放棄をするときは、その旨を家庭裁判所に申述することを要する(民法938条)。cf.特定遺贈の放棄


(8) 受遺者が遺言者よりも先に死亡した場合



① 遺贈の効力

 遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない(民法994条)。

遺言者の「死亡以前」には遺言者と受遺者が同時に死亡した場合も含まれるので、同時に死亡したと推定される場合(民法32条の2)も遺贈は効力を生じない。


② この場合の遺贈財産の帰属

 遺贈が、その効力を生じないとき、または放棄によってその効力を失ったときは、受遺者が受けるべきであったものは、相続人に帰属する(民法995条本文)。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う(同条ただし書)。


負担付遺贈

(1) 意義

 負担付遺贈とは、受遺者に一定の義務を負担させる遺贈である。負担は特定遺贈にも包括遺贈にも付けることができる。


(2) 負担の限度

 負担付き遺贈を受けた者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負うにとどまる(民法1002条1項)。よって遺贈の目的たる財産の価額が100万円で、負担の価額が200万円であるような場合は、受遺者は100万円を超えない限度においてのみ、義務を履行すればよい。

 また、負担付遺贈の目的の価額が相続の限定承認または遺留分回復の訴えによって減少したときは、受遺者は、その減少の割合に応じて負担した義務を免れる(1003条本文)。ただし、遺言者が遺言で別段の意思表示をしたときはその意思に従う(同条ただし書)。


(3) 負担の不履行

①意義

 負担付遺贈を受けた者がその負担した義務を履行しないときは、相続人は、相当の期間を定めてその履行の催告をすることができる(民法1027条前段)。この場合において、その期問内に履行がないときは、その負担付遺贈に係る遺言の取消しを家庭裁判所に請求することができる(同条後段)。

 取消しの請求をするのは、家庭裁判所に対してであって、受遺者にではない点に注意。また、負担の履行がされないからといって、当然に遺贈が無効となるようなことはなく、家庭裁判所の取消しの審判が必要である。


②取消しの効果

 遺贈が負担不履行で取り消されたときは、遺言者が遺言で別段の意思を表示していない限り、目的財産は相続人に帰属する(民法995条)。


(4) 受遺者が負担付遺贈を放棄した場合の効果

 受遺者は負担付遺贈を放棄することができ、その場合は、遺言で別段の意思表示がなされていない限り、負担の利益を受けるべき者が自ら受遺者となることができる(民法1002条2項)。

 例えば、AがBに1000万円遺贈するがAの死後Aの子Cの面倒をみるという負担がある場合、Bが当該遺贈を放棄したときは、Cが1000万円の遺贈の受遺者となれる。