- 民法親族・相続ー13.遺言
- 2.遺言の方式
- 遺言の方式
- Sec.1
1遺言の方式
■遺言の方式の種類
遺言は要式行為であり、民法に定める方式に従わなければ効力を生じない(民法960条)。
遺言の方式は、まず普通方式と特別方式の遺言に分類することができる。原則としては普通方式の遺言をすべきであるが、特殊な事情により普通方式で遺言をすることが不可能または困難な事情があるときは、特別方式の遺言をすることができる。
■証人・立会人
(1) 証人・立会人の立会の要否
自筆証書遺言以外の方式では、遺言に際し、一定数以上の証人または立会人の立会が必要である。
(2) 証人・立会人の欠格事由
次に掲げる者は、遺言の証人または立会人となることはできない(民法974条)。
①未成年者(1号)
15歳以上であっても、未成年者は、遺言の証人・立会人になることはできない。
②推定相続人および受遺者ならびにこれらの配偶者および直系血族(2号)
③公証人の配偶者、4親等内の親族、書記および使用人(3号)
■普通方式の遺言
(1) 自筆証書遺言
① 意義
「自筆証書遺言」とは、遺言者が遺言書の全文、日付および氏名を自書し、これに印を押して作成する方式の遺言である(民法968条)。
② 要件
(イ) 遺言の全文を自書すること
本人の筆跡が重要であるため、夕イプライターやパソコン、点字機で書かれたものは自書の要件を満たさない。カーボン紙を用いて複写の方法で記載されているときは、自書の要件を満たす(最判平5.10.19)。
判例 | (最判昭62.10.8) |
遺言者が他人の手に支えられて書いた遺言書でも、遺言者に自筆能力があり、他人の手を支えに借りたことが筆記を容易にするためであるときは有効である。 |
(ロ) 日付が自書されていること
作成日付のない遺言は無効である(大判大7.4.18)。年月の記載はあるが日の記載を欠く場合(最判昭52.11.29)、「昭和何年何月吉日」と記載している場合(最判昭54.5.31)はいずれも無効である。
ただ、日付は必ずしも年月日で記載する必要はなく、「私の還暦の日」「私の結婚式の日」「2003年阪神タイガースがリーグ優勝した日」など、一定の年月日を特定しうる記述でもよい。
(ハ) 氏名が自書されていること
氏名の記載のない遺言は、たとえその筆跡から自書されたものと認められても無効となる。氏と名の両方がきちんと書かれているのが望ましいが、遺言者が本人であることが分かれば、氏だけ、名だけでもよい。さらに、遺言者を特定できれば、通称名、芸名、ペンネーム等でも差し支えない。
(ニ) 押印がなされていること
自筆証書遺言の方法で遺言をするときは、押印をする必要がある。ただ実印である必要はなく、認印でもよく、さらに指印でもよい(最判平1.2.16)。
それに対して、いわゆる花押を書くことは、印章による押印と同視することはできないとされ(最判平28.6.3)、押印の代わりに花押を用いることはできない。
判例 | (最判平1.2.16) |
遺言書が数葉にわたる場合、全体として1通の遺言書として作成されたことが確認できるときは、そのうちの1枚に日付、氏名の記載があり、押印がされていれば、遺言として有効である。 |
③ 自筆証書遺言に目録を添付する場合の要件の緩和(目録は自書によることを要しない)
自筆証書にこれと一体のものとして相続財産の全部または一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない(民法968条2項前段)。
自筆証書遺言に自書によらない目録を添付する場合には、遺言者は、その目録の毎葉(各ページ)に署名し、印を押さなければならない(民法968条2項後段)。なお、自書によらない記載が各ページの両面にある場合には、その両面に署名・押印をしなければならない。
④ 遺言書の訂正
自筆証書(自書によらない目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない(民法968条3項)。その効力を生じないとは、訂正が無効になるということである。遺言そのものが無効になるわけではない。
判例 | (最判昭56.12.18) |
ただし、自筆証書遺言における証書の記載自体から見て明らかな誤記の記載については、たとえ本条2項所定の違背があっても、遺言者の意思を確認するについては支障はないから、遺言の効力に影響を及ぼさない。 |
⇒すべて無効にしてしまうと、逆に遺言者の意思が反映されないことになってしまうからである。
(2) 公正証書遺言
① 意義
公正証書遺言とは、公証人が作成する公正証書によって遺言をすることをいう。
② 要件
公正証書によって遺言をするには、次の方式に従わなければならない(民法969条)。
(イ) 証人2人以上の立会いがあること
証人は遺言書作成中、終始立ち会わなければならない。遺言が、遺言者の意思に基づいて作成されたこと、その内容が遺言者の意思に合致していることを確認するためである。
(ロ) 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること
口授とは、口頭で遺言する内容を伝えることである。ロがきけない者が公正証書遺言をするときは、遺言者は、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述し、または自書して、口授に代えなければならない(民法969条の2第1項)。
(ハ) 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者および証人に読み聞かせ、または閲覧させること
遺言者または証人が耳の聞こえない者である場合には、公証人は口述を筆記した内容を通訳人の通訳により遺言者または証人に伝えて、読み聞かせに代えることができる(民法969条の2第2項)。
(ニ) 遺言者および証人が筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと
ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる(民法969条4号ただし書)。証人にはこのような代替措置はなく、は必ず署名しなければならない。
(ホ) 公証人が、その証書は上記の方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと
(3) 秘密証書遺言
① 意義
秘密証書遺言とは、遺言の内容は秘密にしておきたいが、遺言の存在は明確にしておきたい場合に用いられる遺言の方式である。公正証書遺言の場合、遺言内容が第三者である公証人や証人に知られてしまうため、それが嫌な場合にこの方式が利用されることがある。
② 要件
秘密証書によって遺言をするには、次の方式に従わなければならない(民法970条)。
(イ) 遺言者が、その証書に署名し、押印すること
遺言書の筆記は遺言者の直筆ですることを要しない。ワープロや夕イプライターでよく、他人の代筆でもよい。押印は必要であるが、認め印でも拇印でも差支えない。
なお、日付の記載は必要がない。あとで公証人が封紙に日付を記載するからである。
(ロ) 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること
遺言者の遺言書、封紙に対する署名・押印は欠くことができないので、署名のできない者はこの方式の遺言は利用できないことになる。
(ハ) 遺言者が、公証人1人および証人2人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨ならびにその筆者の氏名および住所を申述すること
ロがきけない者が秘密証書によって遺言をする場合には、上記の事項を、通訳人の通訳によりそれらを申述し、または遺言者が封紙に自書して申述に代えなければならない(民法972条1項)。
(ニ) 公証人が、その証書を提出した日付および遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者および証人とともにこれに署名し、印を押すこと
ロがきけない者が自己の申述に代えて、通訳人の通訳により申述した場合や封紙に自書した場合は、公証人はその旨を封紙に記載しなければならない(民法972条2項、3項)。
③ 自筆証書遺言への転換
秘密証書による遺言は、その方式に欠けるものがあっても、自筆証書遺言について定める方式を具備しているときは、自筆証書による遺言としてその効力を有する(民法971条)。
例えば、遺言書に押した印と、封印に使った印が違っているような場合は、秘密証書遺言としての効力を有しないが、遺言者が証書に全文、日付、氏名を自書し、押印がされていれば、自筆証書遺言としての方式は満たしているので、自筆証書遺言としての効力を有する。いわゆる無効行為の転換である。