• 民法親族・相続ー12.相続人の不存在
  • 3.相続財産の管理と清算
  • 相続財産の管理と清算
  • Sec.1

1相続財産の管理と清算

堀川 寿和2022/01/06 14:16

相続財産管理人の選任と公告

(1) 相続財産管理人の選任

 相続人のあることが明らかでないため、相続財産が法人となったときは、家庭裁判所は、利害関係人または検察官の請求によって、相続財産の管理人を選任しなければならない(民法952条1項)。


(2) 公告(第1の公告)

 相続財産の管理人を選任したときは、家庭裁判所は、遅滞なくこれを公告しなければならない(民法952条2項)。この公告は、相続財産管理人が選任された(つまり相続人が不存在である)ということを知らせると同時に、相続人の捜索のための公告でもある。


(3) 相続財産管理人の地位と権限

① 地位

 相続財産管理人は相続財産法人を代表する(大判昭5.6.28)。後に現れるかも知れない相続人の法定代理人でもある(大判昭14.11.18)。したがって、後日相続人が出現して相続財産法人が存在しないことになってもその間に管理人がその権限内でした行為は有効である(民法955条ただし書)。


② 権限

 相続財産の管理につき、相続財産管理人は「不在者の財産管理人」と同一の権利義務を有する(民法953条→民法27条、28条、29条)。よって、民法103条で定める保存行為や(物や権利の性質を変えない)利用、改良行為をすることはできるが、それを超える行為(処分行為)をするためには、家庭裁判所の許可を得ることを要する。


相続財産の清算

(1) 債権申出の公告(第2の公告)

 民法952条2項の公告(第1の公告)がされてから2か月以内に相続人のあることが明らかにならなかったときは、相続財産の管理人は、遅滞なく、すべての相続債権者および受遺者に対し、一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、2か月を下ることができない(民法957条1項)。

(2) 相続債権者および受遺者への弁済

 上記の2か月を下らない公告の期間が満了したときは、相続財産管理人は、相続財産をもって、期間内に申し出た債権者、その他知れたる債権者、受遺者に対し、弁済をすることを要する(民法957条2項→929条)。すべての債権について弁済できないときは、債権額の割合に応じて弁済をする。

 ただし、優先権を有する債権者の権利を害することはできない(929条ただし書)。ここでいう「優先権を有する債権者」とは、例えば、抵当権等の担保権を有する者である。この「優先権を有する債権者の権利」に該当するためには、対抗要件を必要とする権利については、被相続人の死亡の時までに対抗要件を具備していることを要する。


判例(最判平11.1.21)
 被相続人の死亡の時点において抵当権等の設定の登記がされていなければ、たとえ被相続人の死亡後に設定の登記がされたとしても、他の相続債権者及び受遺者に対して抵当権に基づく優先権を対抗することができない。

 公告期間内に申し出なかった債権者、受遺者で管理人に知れなかった者は、残余財産についてのみその権利を行うことができる(民法957条2項→935条)。

相続人の捜索(第3の公告)

(1) 3回目の相続人捜索公告

 上記 ■2(1)の債権申出期間経過後、なお相続人のあることが明らかでないときは、家庭裁判所は相続財産管理人または検察官の請求によって、相続人があるならば6か月を下らない一定期間内にその権利を主張すべき旨を公告しなければならない(民法958条)。この公告は第3の相続人捜索の機能をもつ。


(2) 相続人として権利を主張する者が現れない場合

 民法958条の期間内(6か月を下らない一定期間)に相続人として権利を主張する者がないときは、相続人ならびに相続財産の管理人に知れなかった相続債権者および受遺者は、その権利を行使することができない(民法958条の2)。つまり相続人や相続財産の管理人に知れなかった相続債権者および受遺者は失権し、相続人の不存在が確定することになる。