- 民法親族・相続ー10.相続の承認および放棄
- 1.総則
- 総則
- Sec.1
1総則
■相続の承認放棄の意義
被相続人が死亡したときは、相続が開始し、相続人は、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継するのが原則である(民法896条)。しかし、相続人は、被相続人の残した積極財産だけでなく借金等の消極財産も承継することになるため、場合によっては、相続人に相続を強制することは妥当でないこともあり得る。そこで、相続人にその相続を受け入れるか拒絶するかの選択権が与えられている。これが相続の承認・放棄である。相続人は、一定期間内に相続を承認するか、放棄するか、もしくは限定承認するかの選択をすることになる。
■相続の承認・放棄の性質
(1) 行為能力の要否
相続の承認・放棄は財産行為であるため、財産法上の行為能力が必要である。
① 未成年者
法定代理人の同意を得て自ら承認または放棄するか、または法定代理人が代わって承認または放棄をすることになる。
② 成年被後見人
成年後見人が相続人に代わって承認または放棄をすることになる。
③ 被保佐人、相続の承認・放棄につき17条1項の審判を受けた被補助人
保佐人または補助人の同意を得て自ら承認または放棄する
(2) 相続の承認・放棄の時期
相続の承認・放棄は、相続開始後にしなければならない。相続開始前の承認・放棄は無効である。
(3) 条件・期限付き相続の承認・放棄の可否
相続の承認・放棄には、条件または期限を付すことはできない。
(4) 代位、詐害行為取消の可否
相続人の債権者が代位で相続の承認または放棄をすることはできないし、相続人の債権者は、相続人の承認・放棄によって債権者の債権が害されるおそれがあるとしても、これを詐害行為として取り消すこともできない(最判昭49.9.20)。
■熟慮期間
(1) 承認または放棄できる期間
相続人は、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月以内に承認または放棄をしなければならない(民法915条1項本文)。この期間を徒過すると「単純承認」となる(民法921条2号)。
(2) 期間の起算点
① 原則
3か月の期間は、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から起算する(民法915条1項)。相続開始の原因たる事実(被相続人の死亡)を知っただけではなく、自己が相続人となったことを覚知した時から起算する(大決大15.8.3)。
判例 | (最判昭59.4.27) |
さらに、相続人が、相続財産が全く存在しないと信じたために熟慮期間を徒過したものである場合には、そう信じたことについて相当の理由があるときは、相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識し得べき時から起算するとされている。 |
② 相続人が複数存在する場合
熟慮期間は、相続人ごとに各別に進行する(最判昭51.7.1)。
よって、ある相続人については熟慮期間が満了して単純承認したものとみなされた場合でも、他の相続人についてまだ熟慮期間が満了していない場合には、その相続人は放棄をすることができる。また、自己のために相続の開始があったことを知らない場合には、相続の開始の時から3か月を経過しても、単純承認をしたものとはみなされない(民法921条2号)。
③ 相続人が未成年者または成年被後見人である場合
相続人は未成年者または成年被後見人であるときは、熟慮期間は、その法定代理人(親権者、成年後見人等)が未成年者または成年被後見人のために相続の開始があったことを知った時から起算する(民法917条)。なお、相続人が被保佐人であるときは、被保佐人自身が保佐人の同意を得て相続の承認または放棄をするので、本条の適用はなく、被保佐人自身が、自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する。
(3) 熟慮期間の伸長
相続財産の状態が複雑であったりして、3か月以内に調査して承認・放棄をすることが困難な場合もある。このような場合には、利害関係人または検察官の請求によって、家庭裁判所は、熟慮期間を伸長することができる(民法915条1項ただし書)。