• 民法親族・相続ー9.相続の効力
  • 5.共同相続における権利・義務の承継と第三者の保護
  • 共同相続における権利・義務の承継と第三者の保護
  • Sec.1

1共同相続における権利・義務の承継と第三者の保護

堀川 寿和2022/01/06 13:41

共同相続における権利の承継の対抗要件

 遺言によって相続分の指定や遺産分割方法の指定がされていると、法定相続分とは異なる権利の承継が生じることになる。しかし、相続人以外の第三者は遺言の存在やその内容を容易に知ることはできないため、法定相続分に従って権利の承継があったものと信頼した第三者は、不測の損害を被るおそれがある。そこで、第三者の取引の安全を図るため、相続による権利の取得のうち、法定相続分を超える部分の取得については、対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができないことになっている。


(1) 原則

 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、法定相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない(民法899条の2第1項)。

 例えば、Aが配偶者Bおよび実子Cを残して死亡し、遺言によりBにつき4分の3、Cにつき4分の1の相続分の指定をしていたとする。その後、Aの遺産である甲土地につき、BおよびCが遺言に従った登記を備える前に、Cの債権者Dが法定相続分に従った相続登記をしてCの持分を差し押さえた場合、本来であれば、Cの指定相続分を超える持分の差押えは無効であり、持分を侵害されたBはDに自己の持分を対抗できるはずだが、Bは対抗要件である登記を備えていないため、法定相続分を超えて指定された相続分をDには対抗できないことになる。


(2) 債権の承継の場合の対抗要件の特則

「相続による権利の承継」には債権の取得も含まれる。したがって、法定相続分を超える債権を取得する場合も、対抗要件を備えなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。


① 債権の承継の場合の対抗要件

 債務者に対する対抗要件は「譲渡人から債務者への通知」または「債務者の承諾」であり、債務者以外の第三者に対する対抗要件は、確定日付のある証書によってなされたこれらの通知または承諾である(民法467条)。

 なお、「譲渡人から債務者への通知」の「譲渡人」に相当するのは、被相続人を包括承継した共同相続人「全員」である。特則は、この対抗要件の要件を緩和するものである。


② 対抗要件の特則

 相続により承継した権利が債権である場合において、法定相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなされる(民法899条の2第2項)。つまり、債権の取得を債務者その他の第三者に対して対抗することができる(なお、債務者以外の第三者に対抗するためには、確定日付のある証書によって通知をする必要がある)。


cf.債権の遺産分割

 債権については、原則どおり自由に遺産分割して、一部の相続人に帰属させることができる。



 法定相続分どおりに、a1、a2、aが各300万円ずつ取得してもよいし、遺産分割によって一部の相続人に帰属させてもよい。この場合、債務者Bの同意を得る必要はない。



相続分の指定がある場合の債権者の権利行使

(1) 原則

 被相続人が、遺言で、共同相続人の相続分を指定した場合は(民法902条)、原則として、相続債務もその相続分の割合に応じて承継されることになる(民法899条)。しかし、債権者もこれに拘束されることになると、資力のない者に債務が集中したような場合に、債権者に不利益が及んでしまう。

そこで、被相続人が相続開始の時において有した債務の債権者は、相続分の指定がされた場合であっても、各共同相続人に対し、法定相続分に応じてその権利を行使することができる(民法902条の2本文)。


(2) 例外

 債権者が共同相続人の1人に対してその指定された相続分に応じた債務の承継を承認したときは、それ以降は、指定相続分に応じてしか、その権利を行使することができない(同条ただし書)。