• 民法親族・相続ー5.後見、保佐および補助
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1後見

堀川 寿和2022/01/05 15:42

後見の開始

 後見とは、親権を行う者がいない未成年者や精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある成年被後見人のために、国家機関の監督の元にその身上および財産上の保護を行うことを目的とする制度をいう。このうち未成年者のための後見を未成年後見、成年被後見人のための後見を成年後見という。


(1) 未成年後見の開始

 未成年者に対して親権を行う者がないとき、または親権を行う者が管理権を有しないときに後見が開始する(民法838条1号)。


① 未成年者に対して親権を行う者がないとき

「未成年者に対して親権を行う者がないとき」とは、親権者の死亡あるいは親権の喪失・停止の審判、辞任により未成年者に対する親権者が存在しないときのほか、親権者がいる場合でも、法律上または事実上の理由により親権を行うことができないときをいう。

(イ) 父母が離婚した後に、親権者と定められた一方が死亡した場合

この場合は、未成年後見が開始する(大阪高決昭28.9.3、昭23.8.12-2370)。生存する父母の他方が親権者としてふさわしいとは限らないからである。

(ロ) 養父母の双方が死亡した場合

この場合、実父母がいてもその親権は復活することなく、未成年後見が開始する(東京高決昭56.9.2、昭23.8.12-2370)。

(ハ) 養親の一方が死亡した後、他方の親権者と未成年者の養子が離縁した場合

この場合も、実父母の親権は復活することなく、未成年後見が開始する(昭25.3.30-859)。

(ニ) 養親が養親の一方を親権者と定めて離婚した後、未成年者である養子が養親と離縁した場合

この場合、他方の養親が生存していても、後見が開始する。他方の養親が親権者としてふさわしいとは限らないし、また、他方の養親との養親子関係は依然として存続しているから、実親の親権が回復する余地はないためである。

(ホ) 養父母双方と未成年者の養子が離縁した場合

この場合には、実父母の親権が回復し、未成年後見は開始しない。

② 未成年者に対して親権を行う者が管理権を有しないとき

「未成年者に対して親権を行う者が管理権を有しないとき」とは、単独親権者または共同親権者の双方が、管理権の喪失の審判を受けた場合や、管理権を辞した場合をいう。これらの場合には、未成年者の財産管理のためだけに未成年後見が開始する。


(2) 成年後見の開始

 成年後見は、後見開始の審判があったときに開始する(民法838条2号)。


後見の機関

 後見の機関には、執行機関としての後見人と、監督機関としての後見監督人および家庭裁判所がある。

後述するが、後見監督人は必置の機関ではないので、それが置かれていない場合には家庭裁判所のみが後見人を監督することになる。


(1) 未成年後見人

未成年者の後見人は第1順位が「指定未成年後見人」、第2順位が「選定未成年後見人」である。


① 指定未成年後見人

 未成年者に対して最後に親権を行う者は、遺言で未成年後見人を指定することができる(民法839条1項)。ただし、その者が管理権を有しないときは未成年後見人を指定することはできない(同項ただし書)。指定は必ず遺言によらなければならない。


② 選定未成年後見人

a) 指定未成年後見人がないときは、未成年被後見人またはその親族その他の利害関係人の請求によって家庭裁判所が未成年後見人を選任する。未成年後見人が欠けたときも同様とする(民法840条1項)。

b) 未成年後見人がある場合においても、家庭裁判所は、必要があると認めるときは、未成年被後見人またはその親族その他の利害関係人もしくは未成年後見人の請求によりまたは職権で、更に未成年後見人を選任することができる(民法840条2項)。

c) 未成年後見人を選任するには、未成年被後見人の年齢、心身の状態ならびに生活および財産の状況、未成年後見人となる者の職業および経歴ならびに未成年被後見人との利害関係の有無(未成年後見人となる者が法人であるときは、その事業の種類および内容ならびにその法人およびその代表者と未成年被後見人との利害関係の有無)、未成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮しなければならない(民法840条3項)。法人が未成年後見人になることも可能ということである。

d) 父もしくは母が親権もしくは管理権を辞し、または父もしくは母について親権喪失、親権停止もしくは管理権喪失の審判があったことによって未成年後見人を選任する必要が生じたときは、その父または母は、遅滞なく未成年後見人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない(民法841条)。

③ 未成年後見人の人数

未成年後見人は、1人に限られず、複数人であってもよい。また、未成年後見人は、法人であってもよい。


(2) 成年後見人

① 成年後見人の選任

a) 家庭裁判所は、後見開始の審判をするときは、職権で、成年後見人を選任する(民法843条1項)。

b) 成年後見人が欠けたときは、家庭裁判所は、成年被後見人もしくはその親族その他の利害関係人の請求によりまたは職権で、成年後見人を選任する(民法843条2項)。

c) 成年後見人が選任されている場合においても、家庭裁利所は、必要があると認めるときは、民法843条2項に規定する者もしくは成年後見人の請求により、または職権で、更に成年後見人を選任することができる(民法843条3項)。


② 成年後見人の選任方法

 成年後見人を選任するには、成年被後見人の心身の状態ならびに生活および財産の状況、成年後見人となる者の職業および経歴ならびに成年被後見人との利害関係の有無(成年後見人となる者が法人であるときは、その事業の種類および内容ならびにその法人およびその代表者と成年被後見人との利害関係の有無)、成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮しなければならない(民法843条4項)。


③ 成年後見人の人数

 成年後見人も、1人に限られず、複数人であってもよいし、また法人であってもよい。


(3) 後見人の欠格事由

 次に掲げる者は、後見人の職務を行うのに適しない事由(欠格事由)のある者として、後見人になることができず(民法847条)、これらの者を後見人にしても無効である。また、後見人に就職した後に欠格事由に該当した場合は、当然に後見人としての資格を失う。

① 未成年者(1号)

② 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人または補助人(2号)

③ 破産者(3号)

④ 被後見人に対して訴訟をし、またはした者ならびにその配偶者および直系血族(4号)

後見人が原告であるか被告であるかは問わない。

⑤ 行方の知れない者(5号)

(4) 後見監督人

① 未成年後見監督人

a) 指定未成年後見監督人

未成年後見人を指定することができる者は、遺言で、未成年後見監督人を指定することができる(民法848条)。

b) 選定未成年後見監督人

家庭裁判所は、必要があると認めるときは、被後見人、その親族もしくは後見人の請求によりまたは職権で、未成年後見監督人を選任することができる(民法849条)。


② 成年後見監督人

家庭裁判所は、必要があると認めるときは、被後見人、その親族もしくは後見人の請求によりまたは職権で、後見監督人を選任することができる(民法849条)。なお、未成年後見の場合のように、指定後見監督人は存在しない。


③ 後見監督人の欠格事由

次の者は後見監督人になることができない。b)は後見監督人特有の欠格事由である。

a) 後見人の欠格事由に該当する者

b) 後見人の配偶者、直系血族、兄弟姉妹(民法850条)


後見の事務

(1) 後見人の就職時の事務

 後見人の就職時の事務として、①財産の調査および目録の作成(民法853条)②財産の目録の作成前の権限(民法854条)③後見人の被後見人に対する債権または債務の申出義務(民法855条)が規定されている。


① 財産の調査および目録の作成

 後見人は、遅滞なく被後見人の財産の調査に着手し、1か月以内に、その調査を終わり、かつ、その目録を作成しなければならない(民法853条1項)。ただし、この期間は、家庭裁判所において伸長することができる(同項ただし書)。

財産の調査およびその目録の作成は、後見監督人があるときは、その立会いをもってしなければ、その効力を生じない(民法853条2項)。


② 財産の目録の作成前の権限

 後見人は、財産の目録の作成を終わるまでは、急迫の必要がある行為のみをする権限を有する。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない(民法854条)。

③ 後見人の被後見人に対する債権または債務の申出義務

 後見人が、被後見人に対し、債権を有し、または債務を負う場合において、後見監督人があるときは、財産の調査に着手する前に、これを後見監督人に申し出なければならない(民法855条1項)。後見人が、被後見人に対し債権を有することを知ってこれを申し出ないときは、その債権を失う(民法855条2項)。


(2) 後見人の在職中の事務

① 被後見人の身上に関する事務

(イ) 未成年後見人

a) 未成年後見人は、未成年者の身上に関し、親権者と同じく、監護・教育の権利義務、居所指定権、職業許可権を有する(民法857条)。

ただし、親権者が定めた教育の方法および居所を変更し、営業を許可し、その許可を取り消し、またはこれを制限するには、未成年後見監督人があるときは、その同意を得なければならない(同条ただし書)。

b) 未成年後見人は、被後見人たる未成年者に子がある場合には、未成年被後見人に代わって親権を行う(民法867条1項)。

(ロ) 成年後見人

成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護および財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態および生活の状況に配慮しなければならない(民法858条)。


② 被後見人の財産に関する事務

(イ) 善管注意義務

後見人は財産の管理につき、委任の受任者と同様に善管注意義務を負う(民法869条→644条)。

(ロ) 財産管理、代理権

後見人は被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為につき被後見人を代表(代理)する(民法859条1項)。ただし、被後見人自身の行為を目的とする債務を生ぜしめる法律行為を後見人がなす場合には被後見人の同意が必要である(民法859条2項→824条ただし書)。親権を行う者が管理権を有しない場合には、未成年後見人は、財産に関する権限のみ有する(民法868条)。

(ハ) 取消権

後見人は、日用品の購入その他日常生活に関する行為を除き、成年被後見人の法律行為を取り消すことができる(民法9条)。

(3) 後見人の権限の制限

① 後見人と被後見人の利益相反行為

後見人と被後見人間の利益相反行為については、後見監督人があるときはその者が被後見人を代表し、それがないときは家庭裁判所が選任した「特別代理人」が被後見人に代わって行為する(民法860条→826条)。


② 法定代理権・同意権の制限

(イ) 後見人が被後見人に代わって営業もしくは民法13条1項に規定された重要な財産上の行為を行い、または未成年被後見人がこれをすることに同意するには、後見監督人があるときはその同意を得なければならない(民法864条)。ただし、元本の領収についてはこの限りでなく、同意は不要である(同条ただし書)。

(ロ) 後見人が後見監督人の同意なくして行った代理行為、後見監督人の同意なくして与えた同意に基づいてした未成年者の行為は、被後見人または後見人がこれを取り消すことができる(民法865条1項)。

(ハ) この場合、制限行為能力者の相手方の催告権(民法20条)の規定を準用するため、行為の相手方には「催告権」が与えられる。


③ 被後見人の財産の譲受けの制限

(イ) 後見人が被後見人の財産または被後見人に対する第三者の権利を譲り受けたときは、被後見人はこれを取り消すことができる(民法866条)。

(ロ) この場合も、制限行為能力者の相手方の催告権(民法20条)の規定を準用するため、行為の相手方には「催告権」が与えられる。


④ 未成年後見人が複数の場合

(イ) 未成年後見人が数人あるときは、共同してその権限を行使する(民法857条の2第1項)。

(ロ) 未成年後見人が数人あるときは、家庭裁判所は、職権で、その一部の者について、財産に関する権限のみを行使すべきことを定めることができる(民法857条の2第2項)。また、未成年後見人が数人あるときは、家庭裁判所は、職権で、財産に関する権限について、各未成年後見人が単独でまたは数人の未成年後見人が事務を分掌して、その権限を行使すべきことを定めることができる(民法857条の2第3項)。

家庭裁判所は、職権で、これらの規定による定めを取り消すことができる(民法857条の2第4項)。

(ハ) 未成年後見人が数人あるときは、第三者の意思表示は、その一人に対してすれば足りる(民法857条の2第5項)。

⑤ 成年後見人が複数の場合

(イ) 成年後見人が数人あるときは、家庭裁判所は職権で、数人の成年後見人が共同してまたは事務を分掌してその権限を行使すべきことを定めることができる(民法859条の2第1項)。

(ロ) 家庭裁判所は職権で、(イ)の定めを取り消すことができる(民法859条の2第2項)。

(ハ) この場合、第三者の意思表示は、その一人に対してすれば足りる(民法859条の2第3項)。


⑥ 成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可

成年後見人が成年被後見人に代わって、その居住の用に供する建物またはその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除または抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない(民法859条の3)。


(4) 支出金額の予定および後見の事務の費用

 後見人は、その就職の初めにおいて、被後見人の生活、教育または療養看護および財産の管理のために毎年支出すべき金額を予定しなければならない(民法861条1項)。

後見人が後見の事務を行うために必要な費用は、被後見人の財産の中から支弁する(民法861条2項)。


(5) 後見人の報酬

 後見人は、無報酬が原則であるが、家庭裁判所は、後見人および被後見人の資力その他の事情によって、被後見人の財産の中から相当な報酬を後見人に与えることができる(民法862条)。


(6) 後見監督人の職務

① 後見監督人の職務の内容

後見監督人の職務は、次のとおりとする(民法851条)。

(イ) 後見人の事務を監督すること

(ロ) 後見人が欠けた場合に、遅滞なくその選任を家庭裁判所に請求すること

(ハ) 急迫の事情がある場合に、必要な処分をすること

(ニ) 後見人またはその代表する者と被後見人との利益が相反する行為について被後見人を代表すること


② 後見監督人の注意義務

後見監督人はその職務を善管注意義務をもって行わなければならない(民法852条→644条)。


③ 後見監督人の報酬

後見監督人の報酬については、後見人の報酬に関する民法862条が準用される。

④ その他、委任および後見人の規定の準用(民法852条)

(イ) 後見監督人に準用

民法654条(委任終了後の処分)

民法655条(委任終了の対抗要件)

民法844条(後見人の辞任)

民法846条(後見人の解任)

民法847条(後見人の欠格事由)

民法861条2項(後見事務の費用)

(ロ) 未成年後見監督人に準用

民法840条3項(未成年後見人の選任)

民法857条の2(未成年後見人が数人ある場合の権限の行使等)

(ハ) 成年後見監督人に準用

民法843条4項(成年後見人の選任)

民法859条の2(成年後見人が数人ある場合の権限の行使等)

民法859条の3(成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可)