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1実子

堀川 寿和2022/01/05 13:32

実子の意義

 実子とは、自然の血統のある子をいい、婚姻関係にある父母から生まれた子(嫡出子・嫡出である子)と婚姻関係にない父母から生まれた子(非嫡出子・嫡出でない子)の2種類がある。


嫡出子

(1) 推定される嫡出子

 妻が婚姻中懐胎した子は夫の子と推定される(民法772条1項)。これを「推定される嫡出子」という。しかし、妻が婚姻中懐胎したことを直接証明することは困難な場合もあるため、民法は婚姻の成立の日から200日を経過した後または婚姻の解消もしくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する(同条2項)。なお、「200日を経過した後」は200日目を含まず、「300日以内」は300日目を含む。「婚姻の成立の日」とは、婚姻の届出の日をいい、内縁が成立した日から200日を経過して生まれても、婚姻の届出の日から200日以内に生まれた子は、嫡出の推定を受けるわけではない(最判昭41.2.15)。


(2) 嫡出否認の訴え

 民法772条によって夫の子と推定される場合に、夫は子が嫡出であることを否認することができる(民法774条)。つまり、生まれてきた子が自分の子でないことを主張することができる。これはは、嫡出否認の訴えによってのみすることができる(民法775条)。


① 提訴権者

 嫡出否認の訴えを提起することができるのは、原則として「夫」だけである(民法774条)。

ただし、夫が成年被後見人であるときは成年後見人が(人訴14条)、嫡出否認の訴えを提起することなく死亡したときは、「その子のために相続権を害される者その他夫の3親等内の血族」(人訴41条)も嫡出否認の訴えを提起することができる。


② 訴えの相手方

 嫡出否認の訴えの相手方は、子または親権を行う母であり、親権を行う母がないときは、家庭裁判所は、特別代理人を選任しなければならない(民法775条)。母に対してこの訴えを提起できるのは、子に意思能力がない場合に限られる。また胎児に対してこの訴えを提起することはできない。

③ 提訴期間

 否認の訴えは、夫が子の出生を知った時から1年以内に提起しなければならない(民法777条)。

夫が成年被後見人であるときは、後見開始の審判の取消しがあった後、夫が子の出生を知った時から起算する(民法778条)。


④ 嫡出性の承認

 夫が子の出生後においてその嫡出であることを承認したときは、否認権を失う(民法776条)ため、もはや嫡出否認の訴えの提起はできない。ただ、父は否認の訴えを提起したときでも戸籍法の定めるところに従い、出生の届出義務があり、父が命名したことや出生届を出したことが嫡出性承認となる訳ではない(明32.1.10-2289号)。


(3) 推定されない嫡出子

① 意義

 推定されない嫡出子とは、婚姻成立後200日が経過しないうちに出生した子で、民法772条によっては嫡出子の推定は受けないが、婚姻関係にある父母から生まれた子であることから嫡出子としての身分を有する子をいう。判例は、婚姻に先行する内縁関係の継続中に懐胎があれば、婚姻成立後200日が経過しないうちに生まれた子でも、認知がなくても当然に生来の嫡出子としての身分を取得するとしている(大連判昭15.1.23)。


② 父子関係否認の方法

 推定されない嫡出子は、嫡出子ではあるが、嫡出の推定を受けるわけではないので、嫡出の事実を争う者は、「嫡出否認の訴え」ではなく、「親子関係不存在確認の訴え」によることにことになる。この訴えは、提訴権者や提訴期間の制限がある嫡出否認の訴えと異なり、利害関係人であれば誰からでも、いつでも提訴することができる。よって内縁中に懐胎した子であっても婚姻成立後200日以内に生まれた子は「推定されない嫡出子」となり、父子関係を否認するには、「親子関係不存在確認の訴え」による。


(4) 推定の及ばない嫡出子

① 意義

 推定の及ばない嫡出子とは、形式的には民法772条の嫡出の推定を受けるが、実質的には妻が夫の子を懐胎することが不可能な事実がある場合の子をいう。例えば、妻の懐胎期間中に夫が長期海外出張に出掛けていたり、刑務所に収監されているような場合にも、民法772条によって嫡出推定が及ぶことになり、そのような場合にも、その子の出生から1年以内に嫡出否認の訴えを提起しなければ、もはや嫡出性を争うことができなくなるとするのは不当な結果を生じることになる。そこで、判例は、「推定の及ばない嫡出子」という概念を設けて、実質上、嫡出推定を受けない嫡出子として取り扱うことにしている(最判昭44.5.29)。

② 父子関係否認の方法

 推定の及ばない子と父との父子関係を否定するには、「親子関係不存在確認の訴え」による(大判昭15.9.20)。


(5) 父を定めることを目的とする訴え

 女が民法733条の再婚禁止期間の制限を遵守しないで再婚し、その届出が誤って受理された場合に、その子には前夫と後夫の両者につき嫡出の推定が及ぶことになり、父が前夫か後夫いずれか不明な場合がある。そこで、このような場合に、その子の父を確定する必要があることから、「父を定めることを目的とする訴え」が定められたのである(民法773条)。裁判所は一切の事情を審査して、その子の父を定めることになる。ただし、この場合でも、その子は、前夫または後夫の推定される嫡出子であることには変わりないため、前夫もしくは後夫またはその双方から嫡出否認の訴えを提起することもできる。なお、前婚と後婚の嫡出推定が重複しない場合は、父を定めることを目的とする訴えによることはない。

嫡出子の種類

(*1)婚姻成立後200日後に生まれた以上、後に婚姻が重婚を理由に取り消されたとしても、婚姻の取り消しに遡及効はなく嫡出性に影響はないため、嫡出否認の訴えによることになる。


各種訴えの対比



非嫡出子

(1) 非嫡出子の意義

 婚姻関係にない父母から生まれた子を「嫡出でない子」または「非嫡出子」という。嫡出でない子と父の間に法律上の親子関係を生じさせるためには、「認知」が必要となる。なお、母子関係は分娩の事実によって客観的に明らかであるから、原則として、母の認知は必要でない(最判昭37.4.27)。


(2) 認知

① 認知の意義

 認知とは、嫡出でない子と父または母との間に、法律上の親子関係を発生させる制度をいう。


② 認知の種類

(イ) 任意認知

 任意認知とは、嫡出でない子に対して、父または母が任意に行う認知をいう(民法779条)。

(ロ) 強制認知

 強制認知とは、父または母が任意に認知をしないときに、裁判によって認知を強制することをいう。裁判認知ともいう。


③ 任意認知

(イ) 要件

a) 認知者と被認知者との間に真実の親子関係が存在すること

任意に認知がされても、真実の親子関係が存在しないときにはその効力は生じない(民法786条)。よって、他人の夫婦間に生まれた子を、自己の妻との間の嫡出子として届け出て、その旨が戸籍に記載されたとしても、その戸籍の記載は無効であり、何らの血族関係も生じない。

b) 父または母がこれを認知すること

民法779条で「嫡出でない子は、その父または母がこれを認知することができる。」と規定しているが、前述のとおり、母子関係は分娩の事実によって客観的に明らかであるから、原則として、母の認知は必要でない(最判昭37.4.27)。

c) 認知者が意思能力を有すること

認知をするには意思能力さえあれば足り、父または母が未成年者または成年被後見人であるときであっても、法定代理人の同意を要しない(民法780条)。制限行為能力者(未成年者または成年被後見人)に代わってその法定代理人が認知をすることはできない。

d) 認知される者の承諾を要する場合

原則として、認知をするのに認知される者の承諾は不要であるが、例外として、次の場合はその承諾を得なければならない。

i) 成年の子を認知する場合

子が成年に達しているときはその承諾がなければこれを認知することができない(民法782条)。子の養育を必要とする間は放置しておきながら、子が成人して一人前になってから認知し、子に扶養を要求するといった身勝手を防ぐためである。 

ii) 胎児を認知するには母の承諾を得なければならない(民法783条1項)。

母の名誉・利益を守るためと誤った認知を防ぐためである。

iii) 死亡した子を認知する場合

死亡した子については、直系卑属があるときに限りこれを認知することができるが、この場合その直系卑属が成年者であるときはその承諾が必要である(民法783条2項)。

(ロ) 任意認知の方式

a) 生前認知

任意認知は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによってしなければならない(民法781条1項、戸籍法60条・61条)。任意認知は、認知の届出の受理によって効力が生ずる(創設的届出)。


判例(最判昭53.2.24)
 父が愛人との間に生まれた子を自己の妻との子として虚偽の嫡出子の出生届をした場合でも、それによってその子が嫡出子となることはないが、その無効な出生届には認知の効力が認められる。


b) 遺言認知

認知は、遺言によってもすることができる(民法781条2項)。遺言による認知は、認知者(遺言者)の死亡の時に認知がされたものとみされる(民法985条1項)。この場合、遺言執行者は、就職の日から10日以内に戸籍法による届出をしなければならない(戸籍法64条)。

この届出は、報告的届出である。なお、遺言による認知は、(遺言の効力発生前であれば)いつでも遺言の方式に従って撤回することができる(民法1022条)。

(ハ)任意認知の取消し

認知をした父または母は、その認知を取り消すことができない(民法785条)。ここでいう「取消し」とは、「撤回」を意味する。

(ニ)任意認知の無効

a) 意義

いったん認知がされると、認知に無効原因があっても、判決によってその無効が確認されない限り、認知は無効とならない(大判大11.3.27)。

b) 無効原因

任意認知行為は、認知者と被認知者との間に自然血縁関係が存在するという客観的事実を表示する行為であるから、次の場合は無効となる。

i) 認知者と被認知者との間に真実の親子関係がないとき

ii) 認知者が認知をしたときに意思能力を欠いていたとき

iii) 認知届が認知者の意思に基づかないとき

c) 無効の主張

子その他の利害関係人は、認知に対して反対の事実(認知が事実に反し無効である旨)を主張することができる(民法786条)。具体的には、子その他利害関係人から「認知無効の訴え」を提起していくことになる。 


④ 強制認知

(イ) 意義

「強制認知」とは、父が任意に認知しない場合に、子の側から裁判によって認知を強制することをいう。

(ロ) 訴えの当事者

a) 原告

提訴権者は、子、その直系卑属(子が死亡している場合)またはこれらの者の法定代理人である(民法787条)。子は行為能力がなくても、意思能力があれば、法定代理人の同意を得ることなく単独で訴えを提起することができる。また、法定代理人は、代理人としての資格で訴えを提起することができ、子が意思能力を有するときでも、子を代理して訴えを提起することができる(最判昭43.8.27)。

なお、胎児およびその母は、強制認知を求めることはできない(大判明32.1.12)。

b) 被告

被告になるのは原則として父であり、意思能力を欠く場合は法定代理人が代理して被告となる。被告となるべき父が死亡した後は検察官を相手として認知の訴えを提起することができる(人訴42条1項)。

(ハ) 出訴期間

認知の訴えは、父の生存している限り、いつでも提起することができる(最判昭37.4.10)。ただし、父の死亡後3年を経過すると、訴えの提起はできなくなる(民法787条ただし書)。



判例(最判昭57.3.19)
 死亡が判明しない場合には、その死亡が客観的に明らかになった時点から、この3年の出訴期間が起算される。


⑤ 認知の効果

(イ) 認知の遡及効

認知は、出生の時にさかのぼってその効力を生ずる。つまり認知によって認知した父と子との間に非嫡出子としての法的な父子関係が発生し、親子間に扶養義務や相続権が発生することになる。ただし第三者が既に取得した権利を害することはできない(民法784条)。

(ロ) 親権

父の認知後も母の親権に服する。ただし、父母の協議または家庭裁判所の審判によって父を親権者と定めることができる(民法819条4項)。

(ハ) 氏と戸籍

父の認知があっても、子は母の氏を称し母の戸籍に入ったままである。ただし、子は家庭裁判所の許可を得て父の氏を称することができ(民法791条1項)、その場合は父の戸籍に入る。