• 民法債権ー2.債権各論
  • 12.不法行為
  • 不法行為
  • Sec.1

1不法行為

堀川 寿和2021/12/28 15:03

 民法では、故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負うと規定している。つまり他人によって損害を受けた被害者は、損害賠償請求によって救済が図られるということである。

不法行為

(1)不法行為とは

 不法行為とは、故意または過失によって、他人の権利・利益を侵害することにより、他人に損害を生じさせる行為をいう(709条)。

 不法行為により損害を生じさせた者を加害者といい、損害を受けた者を被害者という。




(2)不法行為の成立要件

 次のすべての要件を満たす場合に、不法行為は成立する。

① 加害者に故意または過失があること
② 加害行為が違法であること
③ 被害者に損害が発生していること
④ 加害行為と損害との間に因果関係があること
⑤ 加害者に責任能力があること


① 加害者に故意または過失があること

 故意とは「わざと」、過失とは「うっかり」のことをいう。故意・過失があることについては被害者が立証しなければならない。


② 加害行為が違法であること

 他人の不法行為に対し、自己または第三者の権利または法律上保護される利益を防衛するため、やむを得ず加害行為をした者は、損害賠償の責任を負わない(720条1項)。このような加害行為を正当防衛といい、正当防衛となる加害行為には違法性が認められない。

③ 被害者に損害が発生していること

 「損害」には、財産的損害だけではなく、精神的損害も含む。精神的損害に対する賠償を慰謝料という。


④ 加害行為と損害との間に因果関係があること

 「因果関係」とは、加害行為が原因となって損害の発生という結果が生じている関係である。因果関係があることについては、被害者が立証しなければならない。


⑤ 加害者に責任能力があること

 「責任能力」とは、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能(または能力)をいう(712条)。一般的には12歳程度の知能と解されている(判例)。

 未成年者が他人に損害を加えた場合に、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能(責任能力)を備えていなかったときは、未成年者はその行為について賠償の責任を負わない(712条)。

精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力(責任能力)を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わない(713条本文)。ただし、故意または過失によって一時的にその状態を招いたときは、賠償の責任を負わなければならない(713条本文)。


Point 精神上の障害により責任能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、責任無能力者(責任能力がない者)であっても、故意・過失によって一時的にその状態を招いたときは、免責されない


不法行為の効果

(1)損害賠償請求権の発生

不法行為が成立すると、被害者は加害者に対してその損害の賠償を請求することができる(709条)。

損害賠償は、原則として、金銭賠償である(722条1項、417条)。


Point1 損害賠償は、別段の意思表示をすることによって、金銭賠償以外の方法によることもできる(722条1項、417条)。また、他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、または損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることもできる(723条)。


Point2 被害者の損害賠償請求権が発生するのは、不法行為により損害が発生した時である。また、不法行為に基づく加害者の損害賠償債務は、なんらの催告を要することなく、不法行為による損害の発生と同時に遅滞に陥る(最判昭37.9.4)。


Point3 胎児は、損害賠償の請求権については、既に生まれたものとみなされる(721条)。したがって、胎児にも損害賠償請求権が認められる。


Point4 他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者および子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない(711条)。

(2)過失相殺

 被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる(722条2項)。つまり、被害者に過失があったために損害が発生・拡大したような場合は、裁判所の裁量によって損害賠償の額が減額されることがある。これを過失相殺という。


Point1 被害者が未成年者である場合に過失相殺をするには、被害者たる未成年者が事理を弁識するに足る知能を具えていれば足り、行為の責任を弁識するに足る知能を具えていることを要しない(最大判昭39.6.24)。


Point2 被害者の過失には、被害者本人と身分上、生活関係上、一体をなすとみられるような関係にある者の過失、すなわちいわゆる被害者側の過失をも包含する(最判昭51.3.25)。したがつて、夫が妻を同乗させて運転する自動車と第三者が運転する自動車とが、当該第三者と夫との双方の過失の競合により衝突したため、傷害を被った妻が当該第三者に対し損害賠償を請求する場合の損害額を算定するについては、当該夫婦の婚姻関係が既に破綻にひんしているなど特段の事情のない限り、夫の過失を被害者側の過失として斟酌することができる。


(3)不法行為による損害賠償請求権の消滅時効

 次の①または②に該当する場合は、不法行為による損害賠償の請求権は、時効によって消滅する(724条)。

①被害者またはその法定代理人が損害および加害者を知った時から3年間行使しないとき
②不法行為の時から20年間行使しないとき


Point 人の生命または身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効については、上記の①が「被害者またはその法定代理人が損害および加害者を知った時から5年間行使しないとき」となる(724条の2)。


特殊の不法行為

民法は一般の不法行為以外に特殊の不法行為を規定している。

① 責任無能力者の監督義務者責任 ② 使用者責任 ③ 共同不法行為

④ 注文者責任 ⑤ 土地工作物責任   等


(1) 責任無能力者の監督義務者責任

 責任無能力者(責任能力がない者)は、違法な行為によって他人に損害を加えても、損害賠償責任を負わないので(712条、713条本文)、その場合は、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者(監督義務者)が、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負わなければならない(714条1項本文)。

 ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、またはその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、責任を負わなくてよい(714条1項ただし書)。


Point1 責任無能力者の監督義務者も、監督を怠らなかったことを証明した場合は、免責される。


Point2 不法行為をした未成年者が責任を弁識する知能を備えている場合は、責任無能力者の監督義務者責任は成立しない。しかし、未成年者が責任能力を有する場合でも、その未成年者の監督義務者の義務違反とその未成年者の不法行為によって生じた結果との間に相当因果関係が認められるときは、監督義務者は民法709条に基づく不法行為(一般の不法行為)が成立する(最判昭49.3.22)


Point3 「失火の責任に関する法律」によって、失火者の責任は軽減されており、失火者に重大な過失があった場合にのみ、失火者は不法行為責任を負う。責任を弁識する知能を備えていない未成年者の行為により火災が発生した場合において、「失火の責任に関する法律」にいう重大な過失の有無は、未成年者の監督義務者の監督について考慮され、監督義務者は、その監督について重大な過失がなかったときは、当該火災により生じた損害を賠償する責任を免れる(最判平7.1.24)。


Point4 精神障害者と同居する配偶者であるからといって、その者が民法714条1項にいう「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」(監督義務者)に当たるとすることはできないが、法定の監督義務者に該当しない者であっても、責任無能力者との身分関係や日常生活における接触状況に照らし、第三者に対する加害行為の防止に向けてその者が当該責任無能力者の監督を現に行いその態様が単なる事実上の監督を超えているなどその監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められる場合には、法定の監督義務者に準ずべき者として、民法714条1項が類推適用される(最判平28.3.1)。


Point5 責任能力のない未成年者が、通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為によってたまたま人身に損害を生じさせた場合は、その親権者は、当該行為について具体的に予見可能であるなど特別の事情が認められない限り、責任無能力者の監督義務者責任を負わない(最判平27.4.9)。

(2)使用者責任

 ある事業のために他人(被用者)を使用する者(使用者)は、被用者が、その事業の執行について、不法行為によって第三者に加えた損害を賠償する責任を負う(715条1項本文)。この責任を、使用者責任という。

 使用者がこのような責任を負うのは、使用者は他人を使用することによって利益を得ているので、その利益を得る過程で生じた損害についても責任を負わせるべきだからである。



Point使用者責任が成立する場合、被害者は使用者・被用者のいずれに対しても、損害賠償を請求することができる。


① 使用者責任の要件

イ)使用者・被用者の関係があること

 使用者と被用者との間に雇用関係があることが多いが、雇用関係がなくとも、事実上の指揮監督関係が認められれば、使用者責任が成立する。


Point 暴力団の組長と下部組織の構成員との間に直接間接の指揮監督があったことから使用者・被用者の関係を認めて、構成員がした殺傷行為につき暴力団の組長に使用者責任を負わせた判例がある(最判平16.11.12)。


ロ)被用者が不法行為をしたこと

 使用者責任が成立するためには、被用者の行為が一般の不法行為の成立要件を満たす(被用者に一般の不法行為責任が発生する)必要がある。


Point 被用者に一般の不法行為が成立しないのに、使用者に責任が発生することはない。

ハ)不法行為が事業の執行についてなされたこと

 事業の執行は事業そのものに限られず、事業に関する行為も含んでいる。また、事業の執行にあたるかどうかは、行為の外形から判断される。


Point 公用車の運転の業務に従事する者による私用でその公用車を運転する行為が、行為の外形が職務行為の範囲にあるとして、「事業の執行」と認めた判例がある(最判昭30.12.22)。


ニ)免責事由の証明がないこと

 使用者が被用者の選任およびその事業の監督について相当の注意をしたとき(過失がないとき)、または相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、使用者責任を負わなくてよい(715条1項ただし書)。これを使用者が証明した場合は、使用者は免責される。


Point 使用者責任の成立に、被用者の支払能力の有無は関係しない。したがって、被用者に支払能力があっても、使用者は賠償責任を負う。


② 使用者に代わって事業を監督する者の責任

 使用者に代わって事業を監督する者も使用者と同様の責任を負う(715条2項)。


③ 求償権

 損害を賠償した使用者は、被用者に求償することができる(715条3項)。ただし、判例では、使用者は、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対して求償することができる(最判昭51.7.8)として、求償権の制限を認めており、必ずしも全額求償できるとは限らない。

 損害を賠償した被用者は、使用者に求償することはできない。

(3)共同不法行為

① 共同不法行為

イ)狭義の共同不法行為

 数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う(719条1項前段)。


事例 AとBが共同してCに暴力を加えたため、Cが重傷を負った。



Point 共同不法行為が成立する場合、被害者は、各行為者のいずれに対しても、全額の損害賠償請求をすることができる。


ロ)加害者不明の共同不法行為

 共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、共同行為者は各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う(719条1項後段)。


ハ)教唆(きょうさ)者・幇助(ほうじょ)者

 行為者を教唆した者(不法行為を行うようにそそのかした者)および幇助した者(見張りなど不法行為を手助けした者)は、共同行為者とみなされる(719条2項)。

② 求償権

イ)原則

 共同不法行為者の1人が加害者に損害を賠償したときは、他の共同不法行為者に対して、それぞれの過失割合に応じて求償することができる(最判昭41.11.18)。


ロ)共同不法行為の加害者の使用者が使用者責任を負う場合の求償関係

 被用者がその使用者の事業の執行につき第三者との共同の不法行為により他人に損害を加えた場合において、第三者が自己と被用者との過失割合に従って定められるべき自己の負担部分を超えて被害者に損害を賠償したときは、第三者は、被用者の負担部分について使用者に対し求償することができる(最判昭63.7.1)。

 使用者は、被用者と第三者との共同過失によって惹起された交通事故による損害を賠償したときは、第三者に対し、求償権を行使することができる(最判昭41.11.18)。


(4)注文者の責任

 請負人がその仕事について、不法行為により第三者に損害を加えた場合、請負人のみが損害を賠償する責任を負い、注文者は責任を負わない(716条本文)。

 ただし、注文または指図についてその注文者に過失があったときは、注文者も損害賠償責任を負う(716条ただし書)。


Point 注文者の注文・指図に過失があれば、注文者も賠償責任を負う

(5)土地の工作物の占有者および所有者の責任(土地工作物責任)

 土地の工作物の設置または保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う(717条1項本文)。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない(717条1項ただし書)。この所有者の責任は、無過失責任であり、所有者は損害の発生について無過失であったことを証明しても、責任を免れることができない。

 この場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者または所有者は、その者に対して求償権を行使することができる(717条3項)。


Point1 土地の工作物から生じた損害については、第1次的には「占有者」が、第2次的には「所有者」が、その損害賠償責任を負う。所有者は、故意または過失がなくても、損害賠償責任を負わなければならない(無過失責任)。


Point2 間接占有者である転貸人も、占有者に含まれ、土地の工作物の占有者としての責任を負うことがある(最判昭31.12.18)


事例 B所有の建物をAが賃借していたところ、その建物の設置に瑕疵があり、瓦が落下して通行人のCが重傷を負ってしまった。

まず、①建物の賃借人Aが被害者Cに対して損害賠償責任を負う。②賃借人Aが損害の発生を防止するために必要な措置をしていたときは、Aは責任を免れ、建物の所有者Bが被害者Cに対して損害賠償責任を負う(無過失責任)。そして、③建物の屋根に欠陥があったことの原因が、建物の建築工事を請け負った建築会社の欠陥工事にあったときは、Cに損害を賠償したAまたはBは、建築会社に求償することができる。