- 民法債権ー2.債権各論
- 10.事務管理
- 事務管理
- Sec.1
1事務管理
■事務管理
(1) 事務管理
事務管理とは、義務なく他人のために事務の管理をすることをいう(697条1項)。
事例 Bが海外旅行に出かけて不在中に、台風が直撃したため、B所有の家屋の窓ガラスが割れて、雨が吹き込む状態になってしまった。その隣に住むAは、Bから何も依頼されてはいなかったが、その状態を見かねて、業者Cに修繕を依頼し、修繕費用を支払った。
このように、Aは隣人Bが所有する家屋の窓ガラスを修繕する義務はなかったが、厚意で業者Cに修繕を依頼し、窓ガラスの修繕を行った。このような行為を、事務管理という。
(2) 緊急事務管理
管理者は、本人の身体、名誉または財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をしたときは、悪意または重大な過失があるのでなければ、これによって生じた損害を賠償する責任を負わない(698条)。
Point 上記事例のような窓ガラスの修繕は、本人の財産に対する急迫の危害を免れさせるためのものであるため、緊急事務管理にあたる。
■管理者の義務
義務なく他人のために事務の管理を始めた者のことを「管理者」という(697条1項)。
(1) 管理者の管理・注意義務
管理者は、その事務の性質に従い、最も本人の利益に適合する方法によって、その事務の管理(「事務管理」)をしなければならない(697条1項)。
管理者は、本人の意思を知っているとき、またはこれを推知することができるときは、その意思に従って事務管理をしなければならない(697条2項)。
(2) 管理者の通知義務
管理者は、事務管理を始めたことを遅滞なく本人に通知しなければならない(699条本文)。ただし、本人が既にこれを知っているときは、改めて通知する必要はない(699条ただし書)。
(3) 管理者による事務管理の継続義務
管理者は、本人(またはその相続人もしくは法定代理人)が管理をすることができるに至るまで、事務管理を継続しなければならない(700条本文)。ただし、事務管理の継続が本人の意思に反し、または本人に不利であることが明らかであるときは、継続する必要はない(700条ただし書)。
(4) 委任の規定の準用
事務管理について、委任の規定の一部が準用される(701条)。
① 管理者による報告
管理者は、本人の請求があるときは、いつでも事務の処理の状況を報告し、事務管理が終了した後は、遅滞なくその経過および結果を報告しなければならない(701条、645条)。
② 管理者による受取物の引渡し等
管理者は、事務を処理するに当たって受け取った金銭その他の物を本人に引き渡さなければならない(701条、646条1項前段)。また、管理者は、本人のために自己の名で取得した権利を本人に移転しなければならない(701条、646条2項)。
③ 管理者の金銭の消費についての責任
管理者は、本人に引き渡すべき金額またはその利益のために用いるべき金額を自己のために消費したときは、その消費した日以後の利息を支払わなければならない(647条前段)。さらに、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う(647条後段)。
■管理者による費用の償還請求等
管理者は、本人のために有益な費用を支出したときは、本人に対し、その償還を請求することができる(702条1項)。
管理者が本人の意思に反して事務管理をしたときは、本人が現に利益を受けている限度においてのみ、本人に対し、費用の償還を請求することができる(702条3項)。つまり、本人の意思に反する事務管理であっても、本人に対して費用の支払いを請求できないわけではない。
Point1 上記の事例であれば、AはBに対して、修繕費用の返還を請求することができる。
Point2 管理者は本人に対して、費用の前払いを請求することはできない。
Point3 管理者は、事務を処理するため自己に過失なく損害を受けたときであっても、本人に対し、その賠償を請求することができない。
Point4 管理者は本人に対して報酬を請求することはできない。