• 民法債権ー2.債権各論
  • 8.委任契約
  • 委任契約
  • Sec.1

1委任契約

堀川 寿和2021/12/28 14:01

委任契約の成立

 委任契約は、当事者の一方(委任者)が法律行為(契約など)をすることを相手方に委託し、相手方(受任者)がこれを承諾することによって、その効力を生ずる(643条)。




Point1 委任契約は諾成契約である。契約に際して委任状が交付されることが多いが、これは第三者に対して受任者の権限を示すためのものであり、委任契約の成立に不可欠のものではない。


Point2 委任契約は、原則として無償契約であるが、特約によって報酬を定めることは有効である。


Point3 マンションの管理など、法律行為以外の事務を委託するものを準委任という。準委任も委任契約と同じルールが適用される。


Point4 受任者が委任契約に基づく債務を履行する場合に、受任者に、委任者を代理する権限が法律上当然に認められるわけではない。


受任者・委任者の義務

(1) 受任者の義務

① 善管注意義務

 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務(善管注意義務)を負う(644条)。


Point委任契約は、当事者間の信頼関係に基づく契約であるため、報酬を受けて受任する場合だけでなく、無報酬で受任する場合も、この善管注意義務を負う。善管注意義務を怠ったために委任者に損害が生じた場合は、受任者は、その損害を賠償する責任を負う(債務不履行責任)。


② 自ら事務を処理する義務

 委任契約は、当事者間の信頼関係に基づく契約であるため、受任者は、原則として、自ら委任事務を処理しなければならない。したがって、受任者は、委任者の許諾を得たとき、またはやむを得ない事由があるときでなければ、復受任者を選任することができない(644条の2第1項)。

 代理権を付与する委任において、受任者が代理権を有する復受任者を選任したときは、復受任者は、委任者に対して、その権限の範囲内において、受任者と同一の権利を有し、義務を負う(644条の2第2項)。これは、復受任者は委任者に対し善管注意義務や目的物引渡義務などを直接に負い、他方、委任者に対し報酬請求権を有するということである。

③ 報告義務

 受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過および結果を報告しなければならない(645条)。


Point受任者による定期的な報告は要求されていない。


④ 受取物の引渡義務・権利移転義務

 受任者は、委任事務を処理するにあたって受け取った金銭その他の物(および収取した果実)を委任者に引き渡さなければならない(646条1項)。

 受任者は、委任者のために自己の名で権利を取得した場合には、その権利を委任者に移転しなければならない(646条2項)。


⑤ 金銭消費の責任

 受任者が、委任事務を処理するにあたって金銭を受け取った場合、その金銭は実質的には委任者のものであり、受任者が自己のために流用してはならない。

 そこで、受任者は、委任者に引き渡すべき金額またはその利益のために用いるべき金額を自己のために消費したときは、その消費した日以後の利息を支払わなければならない(647条前段)そして、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う(647条後段)。


(2) 委任者の義務

① 報酬支払義務

 委任は原則として無償であるが、特約により報酬が定められた場合には、委任者は受任者に対して報酬を支払う義務を負う(648条1項)。


Point受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができない(648条1項)。


② 費用の前払義務

 委任が有償であるか無償であるかを問わず、委任事務を処理するについて費用を要するときは、委任者は、受任者の請求により、その前払をしなければならない(649条)。


③ 費用等の償還義務

 委任が有償であるか無償であるかを問わず、受任者が委任事務を処理するのに必要な費用を立て替えた場合は、委任者はその費用および支出の日以後におけるその利息を受任者に償還する義務を負う(650条1項)。


Point 受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、委任者に対し、その費用および支出の日以後におけるその利息の償還を請求することができる(650条1項)。


④ 損害賠償義務

 受任者が、委任事務を処理するため自己に過失なく損害を受けたときは、委任者は受任者に対し、その損害を賠償する義務を負う(650条3項)。これは、委任者の無過失責任である。


Point 受任者は、委任事務を処理するため自己に過失なく損害を受けたときは、委任者に対し、その賠償を請求することができる(650条3項)。たとえば、委任事務の処理中に受任者が自らの不注意によって負傷した場合は、受任者に過失があるので、受任者は委任者に損害賠償を請求することはできない。



受任者の報酬請求権

(1) 委任事務の処理に対して報酬が支払われる場合

① 報酬の支払時期

 受任者は、報酬を受けるべき場合には、委任事務を履行した後でなければ、これを請求することができない(648条2項本文)。つまり、報酬は後払いが原則である。

 期間によって定めた報酬は、その期間を経過した後に、請求することができる(648条2項ただし書、624条2項)。月給であれば、月末の請求することができるということである。


② 委任事務を処理することができなくなった場合等の報酬請求権

 受任者は、次のいずれかに該当する場合には、受任者の責めに帰すべき事由の有無を問わず、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる(648条3項)。

イ) 委任者の責めに帰することができない事由によって委任事務の履行をすることができなくなったとき
ロ) 委任が履行の中途で終了したとき


(2) 委任事務の処理による成果に対して報酬が支払われる場合

① 報酬の支払時期

 委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約した場合において、その成果が引渡しを要するときは、報酬は、その成果の引渡しと同時に、支払わなければならない(648条の2第1項)。


② 委任事務を処理することができなくなった場合等の報酬請求権

 次のいずれかに該当する場合において、受任者が既にした委任事務の履行のうち可分な部分の給付によって委任者が利益を受けるときは、その部分を委任事務の履行により得られる成果とみなし、受任者の責めに帰すべき事由の有無を問わず、受任者は、委任者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる(648条の2第2項、634条)。

イ) 委任者の責めに帰することができない事由によって委任事務を履行することができなくなったとき
ロ) 委任が委任事務の履行により成果が得られる前に解除されたとき