- 民法債権ー2.債権各論
- 5.賃貸借契約
- 賃貸借契約
- Sec.1
1賃貸借契約
■賃貸借契約の成立
賃貸借契約は、当事者の一方(賃貸人)がある物の使用および収益を相手方にさせることを約し、相手方(賃借人)がこれに対してその賃料を支払うことおよび引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる(601条)。
■賃貸人・賃借人の義務
(1) 賃貸人の義務
① 賃貸物を使用・収益させる義務
賃貸人は、賃借人に対して、賃貸物を使用および収益させる義務を負う(601条)。
② 賃貸物の修繕義務
賃貸人は、賃貸物の使用および収益に必要な修繕をする義務を負う(606条1項本文)。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この修繕義務を負わない(606条1項ただし書)。
Point賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない(606条2項)。
③費用償還義務
賃借人が賃借物について必要費または有益費を支出したときは、賃貸人は、賃借人に対し、その費用を償還する義務を負う(608条)。
(2) 賃借人の義務
① 賃料支払義務
賃借人は賃貸人に対して賃料を支払う義務を負う(601条)。
賃料は、動産、建物および宅地については毎月末に、その他の土地については毎年末に、支払わなければならない(614条)。
Point1 賃料の支払い時期は、特約がない限り、後払いである。
Point2 賃料債務は金銭債務であるが、不可分な利用の対価であるので、性質上不可分債務となり、賃借人である被相続人が死亡し、相続人が複数いる場合は、賃料債務は各相続人に不可分的に帰属し、各相続人が賃料の全額ついて責任を負う(大判大11.11.24)。
② 賃借物の保管義務
賃借人は、賃借物を返還するまで、善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない(400条)。また、賃借人は、契約またはその目的物の性質によって定まった用法に従い、その物の使用および収益をしなければならない(616条、594条1項)。
③ 原状回復義務
賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用および収益によって生じた賃借物の損耗ならびに賃借物の経年変化を除く)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う(621条本文)。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、原状回復義務を負わない(621条ただし書)。
Point通常の使用および収益によって生じた賃借物の損耗ならびに賃借物の経年変化は、一般に「通常損耗」と呼ばれる。原則として、賃借人は通常損耗についての原状回復義務を負わず、賃借人に通常損耗についての原状回復義務が認められるためには、補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているなど、その旨の特約(通常損耗補修特約)が明確に合意されていることが必要である(最判平17.12.16)。
④ 賃借物返還義務
賃借人は、賃貸借が終了したときは、賃貸人に対し賃借物を返還する義務を負う(601条)。
■賃貸借の存続期間
賃貸借の期間を定める場合、その存続期間は、50年を超えることができない(604条1項前段)。契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、50年とする(604条1項後段)。
賃貸借の期間を定めた場合は、その更新が問題になる。存続期間は、更新することができるが、その期間は、更新の時から50年を超えることができない(604条2項)。
なお、賃貸借の期間を定めないこともできる。この場合は、更新は問題にならない。
Point1 建物の所有を目的とする土地の賃貸借および建物の賃貸借については、借地借家法が適用されるため、存続期間の上限はない(借地借家法3条、4条、29条2項)。
Point2 建物の所有を目的とする土地の賃借権の存続期間は、借地借家法により、自動的に30年(契約でこれより長い期間を定めたときは、その期間)とされ、契約でこれより長い期間を定めたときは、その期間となる(借地借家法3条)。この存続期間中は、借地上の建物が滅失しても、借地契約は終了しない。