• 民法債権ー1.債権総論
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1債務者の責任財産の保全

堀川 寿和2021/12/28 10:46

 担保権を有しない債権者のことを一般債権者という。無担保でお金を貸した一般債権者は、債務者が債務を履行しない場合、最終的には、債務者の財産を差し押さえて、その財産に対して強制執行をすることにより、貸したお金を回収することになる。この、一般債権者が差し押えることのできる債務者の財産を「責任財産」という。

 一般債権者が、最終的にアテにできるのはこの「責任財産」だが、原則として、債権者は債務者の責任財産の管理に対して干渉することはできない。しかし民法は、債務者が無資力の状態であるのにそれを放置していたり、自ら無資力の状態を作り出したりした場合は、例外的に、債権者が債務者の責任財産の管理に対して干渉することを認めている。ここでは、債権者がどのような場合に、どのような手段を取りうるのかを学ぶ。


債権者代位権

 債権者代位権とは、債務者がその財産権を行使しない場合に、債権者が債務者の代わりにその権利を行使して、債務者の責任財産の維持・充実を図る制度である。


事例 AはBに無担保で500万円を貸しているが、Bは約束の日を過ぎても500万円を返済してくれない。このとき、BはCに対して1,000万円の代金債権を有しており、その弁済期が到来していた。Bにはこの債権のほかにはたいした財産がないにもかかわらず、BがCに対して1,000万円の取立てをしようとしないので、このままではこの債権が時効で消滅してしまう。

このような場合に、債権者AはCに対して、500万円を直接Aに支払うよう請求することができる。このような債権者の権利が、債権者代位権である。



(1) 債権者代位権の要件

① 債権者代位権

 債権者は、自己の債権を保全するため必要があるときは、債務者に属する権利(「被代位権利」)を行使することができる(423条1項本文)。この債権者の権利を、債権者代位権という。


② 債権者代位権の要件

イ)被代位権利の行使が債権者の債権を保全するために必要であること

 債権者による被代位権利の行使がなければ、債権者が自己の債権の内容を完全に実現することができないような場合に、債権者は被代位権利を行使することができる(423条1項本文)。

したがって、債権者の有する債権が金銭債権の場合は、債務者の資力がその債権を弁済するのに十分でない場合(無資力)に限り、債権者は被代位債権を行使することができる(最判昭40.10.12)。


Point1 債務者に十分な資力がある場合は、債権者は債権者代位権を行使することはできない。


Point2 交通事故の被害者が、加害者に対して損害賠償債権を有する場合も、債権者代位権に基づいて、加害者の加入する任意保険の保険会社に対して加害者が有する保険金請求権を代位行使するには、加害者の資力がその債務を弁済するに十分でないことを要する(最判昭49.11.29)。




Point3 債権者が特定物に関する債権を保全するために債権者代位権を行使する場合は、債務者が無資力であることは要求されない(後述の登記請求権を保全するために債権者代位権を行使する場合など)。


ロ)債務者が自らその権利を行使しないこと

 債権者代位権の行使は、債務者が自らその権利を行使しない場合に認められる。したがって、債務者がすでに自ら権利を行使している場合は、その行使の方法または結果の良否にかかわらず、債権者は債権者代位権を行使することができない(最判昭28.12.14)。 


ハ)債権者の債権(被保全債権)の弁済期が到来していること

 債権者は、保存行為の場合を除き、その債権(被保全債権)の期限(弁済期)が到来しない間は、被代位権利を行使することができない(423条)。


Point 保存行為は、被保全債権の弁済期が到来する前であっても、することができる(423条ただし書)。たとえば、債権者は、債権の弁済期前であっても、債務者の未登記の権利について、債務者に代位して登記の申請をすることができる。



ニ)被保全債権が強制執行により実現することのできる債権であること

 債権者は、その有する債権(被保全債権)が強制執行により実現することのできないものであるときは、被代位権利を行使することができない(423条3項)。強制力のない債権を保全するために債権者代位権を行使するのは不適切であるからである。


(2) 債権者代位権の対象となる権利

① 代位行使できる権利

 債権者代位権は責任財産を保全するためのものであるので、これにより債権者が代位行使できる権利は、責任財産を構成する財産権でなければならない。財産権であれば、債権・物権的請求権・登記請求権などの請求権であるか、取消権・解除権などの形成権であるかは問わない。また、債権者代位権の代位行使も認められている(最判昭39.4.17)。


事例1 AはBに油絵を代金200万円で売却し、BはこれをCに代金200万円で転売したが、後にこれが贋作であることが判明した。Cは錯誤を理由にこの売買契約を取り消し、Bに代金200万円の返還を求めたが、このときBは無資力となっていた。

 この場合に、Bがその意思表示に錯誤があることを認めているときは、Bみずからその意思表示を取り消す意思がなくても、Cは自己のBに対する代金返還請求権を保全するために、Bに代位してAB間の売買契約を取り消し、Aに対して代金200万円の返還を請求することができる(最判昭45.3.26)。




事例2 AはBに甲土地を売却し、BはこれをCに転売したが、まだ登記がA名義のままであったところ、無権利者のDが登記に必要な書類を偽造してAからDへの所有権移転登記をしてしまった。

 この場合に、Cは、Bの債権者として、BがAに代位して行使することができる所有権移転登記の抹消請求権を代位行使することができる。



② 代位行使できない権利

 次のような権利は、債権者代位権の対象とならない。


イ)債務者の一身に専属する権利

 債権者は、債務者の一身に専属する権利については、代位行使することはできない(423条1項ただし書)。たとえば、婚姻や離婚など、権利者が行使すべきかどうかを自ら判断すべきものについては、債権者が債務者の意思を無視して代位行使することができない。


ロ)差押えを禁じられた権利

  債権者は、差押えを禁じられた権利については、代位行使することはできない(423条1項ただし書)。差押えを禁じられた権利は、そもそも債務者の責任財産を構成するものではないからである。

(3) 代位行使の範囲と方法

① 代位行使の範囲

 債権者は、被代位権利を行使する場合において、被代位権利の目的が可分であるときは、自己の債権の額の限度においてのみ、被代位権利を行使することができる(423条の2)。債権者による債務者の財産管理権への干渉は、必要最低限度で認められるべきだからである。

 なお、自動車や家屋の引渡し請求権など、被代位権利の目的が不可分のものであるときは、その全部を行使することができる。


② 代位行使の方法

イ)代位行使の方法

 債権者代位権は、債権者が自己の名をもって債務者の権利を行使する。すなわち、債権者が債務者の代理人としてその権利を行使するのではない。また、債権者代位権は、裁判上行使する必要はない。


ロ)債権者への支払または引渡し

 債権者は、被代位権利を行使する場合において、被代位権利が金銭の支払または動産の引渡しを目的とするものであるときは、相手方に対し、その支払または引渡しを自己に対してすることを求めることができる(423条の3前段)。これは債務者が弁済を受領しないと、債権者が代位行使の目的を達成できないからである。

 相手方が債権者に対してその支払または引渡しをしたときは、被代位権利は、これによって消滅する(423条の3後段)。


Point1 債権者が直接自己に支払い・引渡しを請求することができるのは、債務者の権利が金銭の支払い・動産の引渡しを目的とするものであるときである。したがって、後述する債権者の登記請求権を保全するために債務者の登記請求権を代位行使する場合は、債権者へ直接移転登記するよう請求することはできない。


Point2 債権者は債務者の権利を行使するのであるから、第三者から直接支払いを受けた金銭・引渡しを受けた動産は、債務者に引き渡さなければならない。しかし、金銭の支払いを直接受けた債権者は、債務者に対する債権とこの引渡債務とを相殺することができ、事実上優先弁済を受けることが認められている。


(4) 相手方の抗弁

 債権者が被代位権利を行使したときは、相手方は、債務者に対して主張することができる抗弁をもって、債権者に対抗することができる(423条の4)。たとえば、相手方が債務者に対して同時履行の抗弁権を有していたのであれば、債権者が被代位権利を行使したときも同時履行の抗弁権を主張して、債務の履行を拒むことができる。

(5) 債権者代位権の行使の効果

① 債務者の取立てその他の処分の権限への効果

 債権者が被代位権利を行使した場合であっても、債務者は、被代位権利について、自ら取立てその他の処分をすることを妨げられない(423条の5前段)。そして、相手方も、被代位権利について、債務者に対して履行をすることを妨げられない(423条の5後段)。


② 代位訴訟における判決の効果

 債権者が被代位権利を裁判上行使した場合、訴訟の効果は債務者にも及ぶ。そこで、債権者は、被代位権利の行使に係る訴えを提起したときは、遅滞なく、債務者に対し、訴訟告知をしなければならない(423条の6)。その判決の効果が債務者にも及ぶので、債務者に訴訟に参加する機会を保障するためである。

(6) 登記または登録の請求権を保全するための債権者代位権

 登記または登録をしなければ権利の得喪および変更を第三者に対抗することができない財産を譲り受けた者は、その譲渡人が第三者に対して有する登記手続または登録手続をすべきことを請求する権利を行使しないときは、その権利を行使することができる(423条の7前段)。

 なお、この場合にも、前述の(4)・(5)のルールが準用される。


事例 AがBに甲土地を売却し、BがこれをCに転売したが、まだ登記がA名義のままである。

 BがAに対して移転登記を請求しないとき、CはBに代位して、AからBへの移転登記を請求することができる。





Point1 この場合は、債権者Cが債権者代位権を行使する際に、譲渡人Bが無資力であることを要しない


Point2 この場合に、譲受人Cが第三者Aに対して、直接自己に移転登記をするよう請求することはできない


(7) 債権者代位権の行使が認められたその他の事例

 建物の賃借人は、賃貸人が有する所有権に基づく妨害排除請求権を代位行使することができ、その際賃借人は直接自己に対して明渡しをなすべきことを請求することができる(最判昭29.9.24)。


事例 BはAからA所有の甲建物を賃借したが、まだ引渡しを受けていなかったところ、Cが権原なく甲建物の不法占有を始めた。

 この場合、Bは、自己の賃借権を保全するために、Aに代位して、Cに対してBに直接建物の明け渡すよう請求することができる。




詐害行為取消権(債権者取消権)

 詐害行為取消権(債権者取消権)とは、債務者が第三者との間で責任財産を減少させるような行為(贈与や不当に安い価格での売却など)をした場合に、債権者がその行為を取り消して、債務者の責任財産の減少の回復を図る制度である。


事例 AはBに無担保で500万円を貸している。このとき、Bの唯一の財産が1,000万円相当の土地であったが、Bは、Aへの返済が困難になるのを分かっていながら、その土地をCに贈与して登記名義をCに移してしまった。

このような場合に、債権者Aは、BC間の贈与契約を取り消して、登記名義をBに戻すよう請求することができる。このような債権者の権利が、詐害行為取消権である。



Point 上記のBがCに対して行った贈与を詐害行為といい、この詐害行為によって利益を受けたCを受益者という。

(1) 詐害行為取消権の要件

① 詐害行為取消権

 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為(詐害行為)の取消しを裁判所に請求することができる(424条1項本文)。この請求を「詐害行為取消請求」という。また、このような債権者の権利を詐害行為取消権という。


② 詐害行為取消権の要件

イ)被保全債権が金銭債権であること

 保全されるべき債権(被保全債権)は、金銭債権でなければならない。これは、詐害行為取消権という制度が、責任財産を保全することを目的としているからである。


Point 特定物の引渡しを目的とする債権(特定物債権)であっても、その不履行の場合は損害賠償請求権という金銭債権にかわるので、目的物の処分により債務者が無資力になったときは、その保全のために詐害行為取消請求をすることができる(最大判昭36.7.19)。


事例 B所有の甲土地についてBA間で売買契約が締結されたが、Aが登記を備えるまでの間に、Bが甲土地をCに売却し、Cが先に登記を備えてしまった。

 この場合、AはBに対して債務不履行(履行不能)を理由に損害賠償を請求することができるが、この甲土地の譲渡によってBが無資力になったのであれば、金銭債権である損害賠償請求権を保全するために、Aは、BからCへの甲土地の譲渡を詐害行為として詐害行為取消請求をすることができる。



ロ)被保全債権が詐害行為の当時に存在すること

 詐害行為取消請求をするには、詐害行為の当時に、被保全債権が存在する必要がある。したがって、債権者は、被保全債権が詐害行為の前の原因に基づいて生じたものである場合に限り、詐害行為取消請求をすることができる(424条3項)。


事例 Bは唯一の財産である1,000万円相当の土地をCに贈与した。その後、AはBに無担保で500万円を貸し付けた。

 この場合、AはBが行った贈与契約を、詐害行為として取り消すことはできない。Bの贈与が債権者Aを害したわけではなく、Aが無資力のBに貸付けをしたに過ぎないからである。



ハ)債務者が無資力であること

 詐害行為は「債権者を害する」行為であるが、これはその行為の結果、債務者が無資力になるということを意味する。したがって、行為後も債務者に資力があれば、詐害行為は成立しない。

ニ)詐害行為の存在(客観的要件)

 詐害行為取消請求をするには、債務者が債権者を害する行為をすることが必要である。具体的には、無資力な債務者が財産を減少させて債権者による債権の回収を困難にさせる行為である。ただし、詐害行為となりうるのは財産権を目的とする行為に限られ、財産権を目的としない行為については、詐害行為とはならない(424条2項)。たとえば、贈与や債務の免除は典型的な詐害行為であるが、婚姻や離婚などは詐害行為とはなりえず、その取消しを請求することはできない。

 詐害行為に該当するか否かが問題となった行為の具体例をみておく。


相続放棄相続の放棄のような身分行為については、詐害行為取消権行使の対象とならない(最判昭49.9.20)。取消権行使の対象となる行為は、積極的に債務者の財産を減少させる行為であることを要するが、相続の放棄は、消極的にその増加を妨げる行為にすぎないからである。
遺産分割協議共同相続人の間で成立した遺産分割協議は、詐害行為取消権行使の対象となる(最判平11.6.11)。遺産分割協議は、相続の開始によって共同相続人の共有となった相続財産の帰属を確定させるものであり、その性質上、財産権を目的とする法律行為といえるからである。
離婚における財産分与離婚に伴う財産分与は、民法の財産分与の規定の趣旨に反して不相当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情のない限り、詐害行為とはならない(最判昭58.12.19)。


ホ)債務者の行為が債権者を害することを知っていること

 詐害行為取消請求をするには、債務者が債権者を害することを知りながら詐害行為をしていること(債務者の悪意)が必要である(424条1項)。

 そして、債務者の行為が債権者を害することを知っていることは、債務者だけでなく、受益者(詐害行為によって利益を受けた者)または転得者に対しても要求される。


a) 受益者に対して詐害行為取消請求をする場合

 債務者の行為が債権者を害することを受益者(詐害行為によって利益を受けた者)が知っていた場合に(受益者の悪意)、詐害行為が成立する。したがって受益者がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、詐害行為は成立しない(424条1項ただし書)。


Point 受益者に対して詐害行為取消請求をするには、債務者と受益者の双方が、債務者のした行為が債権者を害することを知っている必要がある。ただし、詐害行為取消請求をするにあたり、債権者には、債務者の悪意(債権者を害することを知っていたこと)の立証責任はあるが、受益者の悪意の立証責任はない。債務者の行為を取り消されたくない受益者が、受益者の善意(債権者を害することを知らなかったこと)を立証できたときに、詐害行為が成立しないことになる。



(b) 転得者に対して詐害行為取消請求をする場合

 債権者は、受益者に対して詐害行為取消請求をすることができる場合(受益者の悪意が存在する場合)において、受益者に移転した財産を転得した者があるときは、次のⅰ)ⅱ)に該当する場合に限り、その転得者に対しても、詐害行為取消請求をすることができる(424条の5)。

ⅰ)その転得者が受益者から転得した者である場合
その転得者が、転得の当時、債務者がした行為が債権者を害することを知っていたとき。
ⅱ)その転得者が他の転得者から転得した者である場合
その転得者およびその前に転得した全ての転得者が、それぞれの転得の当時、債務者がした行為が債権者を害することを知っていたとき。


Point 転得者に対して詐害行為取消請求をするには、債務者と受益者の双方が、債権者を害することを知っていること(債務者および受益者の悪意)に加え、転得者も債務者がした行為が債権者を害することを知っていること(転得者の悪意)が必要である。なお、転得者の悪意については、詐害行為取消請求を行う債権者に立証責任がある(受益者に対する詐害行為取消請求の場合と異なる)。



ヘ)被保全債権が強制執行により実現することのできる債権であること

 債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、詐害行為取消請求をすることができない(424条4項)。強制力のない債権を保全するために詐害行為取消請求をするのは不適切であるからである。

(2) 詐害行為取消権の要件に関する特則

① 相当の対価を得てした財産の処分行為の特則

  不動産を無償で譲渡したり不当に低額で譲渡したりすることは詐害行為に該当するといえるが、相当な対価を得て売却しているのであれば、その代金は債務者のものとなり、債務者の財産を減少させるわけではないので、原則として、詐害行為は成立しない。しかし、売却によって不動産が消費しやすい金銭にかわってしまうと、担保の効力を削減することになるため、例外的に、詐害行為取消請求が認められる場合がある。

 債務者が、その有する財産を処分する行為をした場合において、受益者から相当の対価を取得しているときは、債権者は、次のイ)~ハ)のいずれにも該当する場合に限り、その行為について、詐害行為取消請求をすることができる(424条の2)。

イ)その行為が、不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、債務者において隠匿等の処分(隠匿、無償の供与その他の債権者を害することとなる処分)をするおそれを現に生じさせるものであること。
ロ)債務者が、その行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと。
ハ)受益者が、その行為の当時、債務者が隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。


Point 上記の要件については、詐害行為取消請求をする債権者に主張立証責任がある。


事例 AはBに対して2,000万円の貸金債権を有していたが、Bは唯一の財産であった甲土地(3,000万円相当)をCに3,000万円で売却してしまった。

 この場合、原則として詐害行為は成立しないが、土地が換金されると消費や隠匿などがしやすくなるので、①その行為によって隠匿等の処分をするおそれを現に生じさせ、②Bが隠匿等の処分をする意思を有しており、③CもBのその意図を知っていたような場合は、Aは詐害行為取消請求をすることができる。




② 特定の債権者に対して担保の提供等をする行為の特則

 債権者に対して担保を提供したり弁済しをしたりする行為は、原則として詐害行為とはならない。しかし、特定の債権者に対して担保の提供や弁済等をすることにより、特定の債権者を利することになる場合は、例外的に詐害行為取消請求が認められる場合がある。


イ)原則

 債務者がした既存の債務についての担保の供与または債務の消滅に関する行為について、債権者は、次の(a)および(b)のいずれにも該当する場合に限り、詐害行為取消請求をすることができる(424条の3第1項)。

(a) その行為が、債務者が支払不能(債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいう)の時に行われたものであること。
(b) その行為が、債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものであること。


Point 上記の要件については、詐害行為取消請求をする債権者に主張立証責任がある。


事例1 AはBに対して500万円の貸金債権を有していたが、CもBに対して500万円の貸金債権を有していたところ、Bはすでに支払不能(債務超過)の状態に陥っていたが、BとCが通謀して、BがCに500万円を弁済してしまった。

 Bがこのような弁済を行った場合は、Aはその弁済について詐害行為取消請求をすることができる。



事例2 AはBに対して1,000万円の貸金債権を有していたが、CもBに対して1,000万円の貸金債権を有していたところ、Bはすでに支払不能(債務超過)の状態に陥っていたが、BとCが通謀して、B所有の甲土地(1,000万円相当)にCの抵当権が設定されてしてしまった。

 Bがこのような抵当権の設定を行った場合は、Aはその抵当権設定行為について詐害行為取消請求をすることができる。



ロ)債務者がした行為やその時期が債務者の義務に属しない場合

 債務者がした行為やその時期が債務者の義務に属しない場合は、債務者が支払不能になる前に行為をしても、詐害行為が成立する場合がある。

債務者がした既存の債務についての担保の供与または債務の消滅に関する行為が、債務者の義務に属せず(代物弁済など)、またはその時期が債務者の義務に属しないもの(期限前弁済など)である場合において、次の(a)および(b)のいずれにも該当するときは、債権者は、その行為について、詐害行為取消請求をすることができる(424条の3第2項)。

(a) その行為が、債務者が支払不能になる前30日以内に行われたものであること。
(b) その行為が、債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものであること。


Point 上記の要件については、詐害行為取消請求をする債権者に主張立証責任がある。


事例1 AはBに対して1,000万円の貸金債権を有していたが、CもBに対して1,000万円の貸金債権を有していたところ、BとCが通謀して、代物弁済としてB所有の甲土地(1,000万円相当)をBがCに引き渡してしまい、その10日後にBは支払不能(債務超過)の状態になってしまった。

 この場合、Aはその代物弁済について、詐害行為取消請求をすることができる。



事例2 AはBに対して1,000万円の貸金債権を有していたが、CもBに対して1,000万円の貸金債権を有していたところ、BとCが通謀して、その弁済期が未到来であるにもかかわらず、BはCに弁済をしてしまい、その10日後にBは支払不能(債務超過)の状態になってしまった。

 この場合も、Aはその弁済について、詐害行為取消請求をすることができる。 


③ 過大な代物弁済等の特則

 相当の価格による代物弁済等は、「特定の債権者に対する債務の消滅に関する行為」として上記の特則に該当しない限りは、詐害行為とはならないが、過大な代物弁済等である場合は、上記の特則に該当しない場合であっても、その過大である部分についてのみ詐害行為取消請求が認められる場合がある。

 債務者がした債務の消滅に関する行為であって、受益者の受けた給付の価額がその行為によって消滅した債務の額より過大であるものについて、詐害行為取消請求の要件に該当するときは、債権者は、その消滅した債務の額に相当する部分以外の部分については、詐害行為取消請求をすることができる(424条の4)。


事例 AはBに対して2,000万円の貸金債権を有していたが、CもBに対して4,000万円の貸金債権を有していたところ、Bが唯一の財産である甲土地(6,000万円相当)を代物弁済としてCに引き渡してしまった。

 この場合、Aは代物弁済によって消滅した債務4,000万円を超える部分、つまり2,000万円の部分の代物弁済については、通常通り、詐害行為取消請求をすることができる。



(3) 詐害行為取消権の行使の方法等

① 詐害行為取消権の行使方法

 詐害行為の取消しは、裁判所に請求しなければならない(424条1項)。


Point 詐害行為取消権は、債権者代位権と異なり、裁判外で行使することができない。


② 財産の返還または価額の償還の請求

イ)受益者に対する請求

 債権者は、受益者に対する詐害行為取消請求において、債務者がした行為の取消しとともに、その行為によって受益者に移転した財産の返還を請求することができる(424条の6第1項前段)。受益者がその財産の返還をすることが困難であるときは、債権者は、その価額の償還を請求することができる(424条の6第1項後段)。


事例 AはBに対して2,000万円の貸金債権を有していたが、Bが唯一の財産である甲土地(2,000万円相当)をCに贈与してしまった。

 この場合、Aは受益者Cに対する詐害行為取消請求において、Bがした贈与の取消しとともに、甲土地のBへの返還を請求することができる。



ロ)転得者に対する請求

 債権者は、転得者に対する詐害行為取消請求において、債務者がした行為の取消しとともに、転得者が転得した財産の返還を請求することができる(424条の6第2項前段)。転得者がその財産の返還をすることが困難であるときは、債権者は、その価額の償還を請求することができる(424条の6第2項後段)。


事例 上記事例で、BがCに贈与したあと、Cが甲土地をDに転売していた場合は、Aは転得者Dに対する詐害行為取消請求において、Bがした贈与の取消しとともに、甲土地のBへの返還を請求することができる。


③ 被告および訴訟告知

 詐害行為取消請求に係る訴えについては、次の者を被告とする(424条の7)。

訴えの種類被告となる者
受益者に対する詐害行為取消請求に係る訴え受益者
転得者に対する詐害行為取消請求に係る訴えその詐害行為取消請求の相手方である転得者

 債権者は、詐害行為取消請求に係る訴えを提起したときは、遅滞なく、債務者に対し、訴訟告知をしなければならない。債務者は被告にはならないが、詐害行為取消し請求を認容する判決の効力は債務者にも及ぶので(後述)、債務者に訴訟に関与する機会を保障するためである。


④ 詐害行為の取消しの範囲

 債権者は、詐害行為取消請求をする場合において、債務者がした行為の目的が可分であるときは、自己の債権の額の限度においてのみ、その行為の取消しを請求することができる(424条の8第1項)。

 詐害行為取消請求において、受益者または転得者がその財産を返還することが困難であるために債権者が価額の償還を請求する場合についても、自己の債権の額の限度においてのみ、価額の償還を請求することができる(424条の8第2項)。


事例 AはBに対して1,000万円の代金債権を有していたが、Bは、Aへの支払いが困難になるのをわかっていながら、現金3,000万円をCに贈与してしまった。

 この場合、Aは債権額の1,000万円を限度に、この贈与の取消しを請求することができる。



Point 債権者が複数存在する場合であっても、詐害行為取消請求をする債権者の債権額を限度として詐害行為の取消しを請求することができる(大判昭8.2.3)。総債権者の総債権額のうち、自己が配当により弁済を受けるべき割合額でのみ取り消すことができるのではない。

⑤ 債権者への支払または引渡し

イ)財産の返還を請求する場合

 債権者は、受益者または転得者に対して財産の返還を請求する場合において、その返還の請求が金銭の支払または動産の引渡しを求めるものであるときは、受益者に対してその支払または引渡しを、転得者に対してその引渡しを、自己に対してすることを求めることができる(424条の9第1項前段)。

 受益者または転得者は、債権者に対してその支払または引渡しをしたときは、債務者に対してその支払または引渡しをすることを要しない(424条の9第1項後段)。


事例 AはBに対して1,000万円の代金債権を有していたが、Bは、Aへの支払いが困難になるのをわかっていながら、現金3,000万円をCに贈与してしまった。

 この場合、Aは債権額の1,000万円を限度に、この贈与の取消しを請求することができ、その際AはCに対して1,000万円を直接自己に支払うよう請求することができる。そして、CはAに1,000万円支払えば、Bに支払う必要はない。



Point1 取消しに基づいて返還すべき財産が金銭または動産の場合は、債権者が受益者または転得者に対して直接自己への支払または引渡しを求めることができる。そうしないと、もし債務者が金銭または動産の受領をしなかった場合に、債権者の取消権の目的を達成させることができないからである。


Point2 受益者または転得者から直接金銭の支払いを受けた債権者は、それを他の債権者に分配する義務は負わない(最判昭37.10.9)。したがって、その金銭を本来であれば債務者に返還しなければならないが、債権者はその返還債務と自己の債権とを相殺することができ、事実上他の債権者に優先して弁済を受けることが認められている


ロ)価額の償還を請求する場合

 債権者が受益者または転得者に対して価額の償還を請求する場合についても、財産の返還を請求する場合と同様である(424条の9第2項)。


(4) 詐害行為取消権の行使の効果

① 認容判決の効力が及ぶ者の範囲

 詐害行為取消請求を認容する確定判決は、訴訟当事者(債権者および受益者または転得者)だけでなく、債務者およびその全ての債権者に対してもその効力を有する(425条)。


② 詐害行為取消請求を受けた受益者の保護

イ)債務者の受けた反対給付に関する受益者の権利

 債務者がした財産の処分に関する行為(債務の消滅に関する行為を除く。)が取り消されたときは、受益者は、債務者に対し、その財産を取得するためにした反対給付の返還を請求することができる(425条の2前段)。債務者がその反対給付の返還をすることが困難であるときは、受益者は、その価額の償還を請求することができる(425条の2後段)。


事例 AはBに対して2,000万円の貸金債権を有していたが、Bが唯一の財産である甲土地(2,000万円相当)をCに対して500万円で売却してしまった。そこで、Aは受益者Cに対して詐害行為取消請求を行い、これを認容する判決があった。

 この場合、Cが甲土地をBに返還すると、CはBに対して代金500万円の返還を求めることができる。



ロ)受益者の債権の回復

 債務者がした債務の消滅に関する行為が取り消された場合(過大な代物弁済等として取り消された場合を除く。)において、受益者が債務者から受けた給付を返還し、またはその価額を償還したときは、受益者の債務者に対する債権は、これによって原状に復する(425条の3)。


事例 AはBに対して1,000万円の貸金債権を有していたが、Bは支払い不能状態になった後に、他の債権者Cに対して1,000万円の債務を弁済した。そこで、Aは受益者Cに対して詐害行為取消請求を行い、これを認容する判決があった。

 この場合、CがAまたはBに1,000万円を返還すると、CのBに対する債権は原状に復する。



③ 詐害行為取消請求を受けた転得者の保護

イ)債務者の受けた反対給付に関する転得者の権利

 債務者がした財産の処分に関する行為(債務の消滅に関する行為を除く。)が転得者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたときは、その転得者は、その行為が受益者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたとすれば生ずべき受益者の債務者に対する反対給付の返還請求権またはその価額の償還請求権を行使することができる(425条の4本文1号)。ただし、その転得者がその前者から財産を取得するためにした反対給付の価額を限度とする(425条の4ただし書)。


事例 AはBに対して2,000万円の貸金債権を有していたが、Bが唯一の財産である甲土地(2,000万円相当)をCに対して500万円で売却し、さらにCはDに1,000万円で転売してしまった。そこで、Aは転得者Dに対して詐害行為取消請求を行い、これを認容する判決があった。

 この場合、Dが甲土地をBに返還すると、DはBに対して500万円(CがBに支払った代金相当額)の返還を求めることができる。



Point 上記事例で、甲土地をBがCに売却した額が1,000万円であり、CがDに転売した額が500万円であれば、DはBに対して500万円の返還しか求められない(CがBに支払った1,000万円ではない)。 


ロ)受益者の債権の回復

 債務者がした債務の消滅に関する行為が転得者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたとき(過大な代物弁済等として取り消された場合を除く。)は、その行為が受益者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたとすれば回復すべき受益者の債務者に対する債権を行使することができる(425条の4本文)。ただし、その転得者がその前者から財産を取得することによって消滅した債権の価額を限度とする(425条の4ただし書)。


事例 AはBに対して1,000万円の貸金債権を有していたが、Bは支払い不能状態になった後に、他の債権者Cに対して1,000万円の債務を弁済する代わりに甲土地(1,000万円相当)で代物弁済し、さらにCは甲土地をDに1,000万円で転売した。そこで、Aは転得者Dに対して詐害行為取消請求を行い、これを認容する判決があった。

 この場合、DがBに甲土地を返還すると、Cが有していた1,000万円の債権をDはBに対して行使することができる。



Point 上記事例で、甲土地をCがDに転売した額が500万円であれば、DはBに対して債権額500万円しか行使することができない(CのBに対する債権額1,000万円ではない)。

(5) 詐害行為取消権の期間の制限

 詐害行為取消請求に係る訴えは、次の①または②の期間が経過したときは、提起することができない(426条)。

① 債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時から2年
② 行為の時から10年


チェック問 責任財産の保全 問題

【チェック問 責任財産の保全 問題】

以下の記述の正誤を述べよ。

1. 債権者は、自己の債権を保全するため必要があるときでも、債務者に属する権利を行使することができない。


2. 債務者に十分な資力がある場合は、債権者は債権者代位権を行使することはできない。


3. 債権者代位権の行使は、債務者が自らその権利を行使しない場合に認められる。


4. 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができ、裁判外でも請求できる。


5. 詐害行為取消請求をするには、債務者が債権者を害する行為をすることが必要である。