- 民法担保物権ー6.先取特権
- 3.動産の先取特権
- 動産の先取特権
- Sec.1
1動産の先取特権
■意義
「動産の先取特権」とは、特定の債権を保護するために、債務者の特定の動産の上に成立する先取特権をいう。ある債権が債務者の動産と特別な関係がある場合に、その目的動産の上に先取特権を認め、その動産の競売代金から他の一般債権者に優先して弁済を受ける権利が認められる。
■動産の先取特権の種類
民法は次の8種類の債権について、それぞれ特定の動産の上にこの先取特権が成立することを認める(民法311条)。
1. 不動産賃貸の先取特権
2. 旅館宿泊の先取特権
3. 運輸の先取特権
4. 動産保存の先取特権
5. 動産売買の先取特権
6. 種苗または肥料の供給の先取特権
7. 農業労務の先取特権
8. 工業労務の先取特権
※ 語呂合わせ「不慮のうんこを保存して、売った肥料で農工業」
■不動産賃貸の先取特権
(1) 意義
不動産の賃貸の先取特権は、その不動産の賃料その他の賃貸借関係から生じた賃借人の債務に関し、賃借人の動産について存在する(民法312条)。たとえば、アパートの大家さんは、賃借人が家賃を滞納した際、賃借人が部屋に持ち込んだ動産を競売して、他の一般債権者に優先して弁済を受けることができる。
(2) 被担保債権の範囲
① 「不動産の賃料その他の賃貸借関係から生じた賃借人の債務」である。「その他の賃貸借関係から生じた賃借人の債務」の例としては、賃借家屋損傷による損害賠償債務などが挙げられる。
② 「賃貸人は、敷金を受け取っている場合には、その敷金で弁済を受けない債権の部分についてのみ先取特権を有する(民法316条)。
(3) 目的物の範囲
① 土地賃貸借の場合
土地の賃貸人の先取特権は、その土地またはその利用のための建物に備え付けられた動産、その土地の利用に供された動産および貸借人が占有するその土地の果実について存在する(民法313条1項)。
ex.排水用ポンプ、農機具、農作物等
② 建物賃貸借の場合
建物の賃貸人の先取特権は、賃借人がその建物に備え付けた動産について存在する。賃借人が建物に備えつけた動産の上に先取特権が成立する(民法313条2項)。
ex.畳、建具、家具等
③ 賃借権の譲渡または転貸がされた場合
賃借権の譲渡または転貸の場合には、賃貸人の先取特権は、譲受人または転借人の動産にも及ぶ。譲渡人または転貸人が受けるべき金銭(ex.賃借権の譲渡料や転貸料)についても、同様とする(民法314条)。たとえば、甲がAに建物を賃貸したが、その後Aがこの建物賃借権をBに譲渡した場合、甲のAに対する延滞賃料についての先取特権は、Bが建物に備え付けた動産にも及ぶ。
④ 即時取得の規定の準用
賃借人が第三者より賃借しまたは寄託されてその建物に備えつけた動産についても、それを賃借人の動産と過失なく信頼した場合は先取特権が成立する。つまり民法192条から195条の即時取得の規定が準用される(民法319条)。たとえば、BがAから賃借している借家に第三者甲所有の絵画を飾っていて、賃貸人Aが絵画を賃借人Bのものだと過失なく誤信した場合、即時取得の規定を準用してAは第三者甲所有の絵画に不動産賃貸の先取特権の効力を及ぼしていけることになる。