• 権利関係ー5.債権各論
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  • Sec.1

1売買契約

堀川 寿和2021/11/17 14:17


 債権各論では、債権の発生原因別に、それぞれに特有のルールを扱う。
  ここでは、契約のうち「売買契約」「請負契約」「委任契約」「賃貸借契約」に関するルールと、「不法行為」に関するルールについて学ぶ。


 売買契約は、当事者の一方(売主)がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方(買主)がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

売主・買主の義務

(1) 売主の義務

① 財産権移転義務

 売主は売買の目的となる財産権を買主に移転する義務を負う。

 売買の目的が権利の場合は、売主は契約の内容に適合した権利を買主に移転する義務を負い、売買の目的が物の場合は、売主は、種類、品質および数量に関して契約の内容に適合するものを、買主に引き渡す義務を負う。


② 対抗要件具備義務

 売主は、買主に対し、登記、登録その他の売買の目的である権利の移転についての対抗要件を備えさせる義務を負う。


③ 全部他人物・一部他人物の売主の権利取得移転義務

 他人の権利(権利の一部が他人に属する場合におけるその権利の一部を含む)を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。


④ 特定物の売主の目的物保管義務

 売買の目的が特定物の場合は、売主は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因および取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。


(2) 買主の義務(代金支払義務)

 買主は売主に対して代金を支払う義務を負う。


売主の契約不適合責任(売主の担保責任)

 前述の通り、売主は、「契約の内容に適合した」権利を移転し、または目的物を引き渡すべき義務を負う。その義務の不履行に対する売主の責任が、売主の契約不適合責任(売主の担保責任)である。

 すでに学んだように、売買契約の売主に債務不履行があった場合は、買主は売主に対し損害賠償の請求や契約の解除をすることができるが、物・権利に関する契約不適合があった場合は、これに加えて、買主に追完請求権や代金減額請求権の行使が認められる。


(1) 買主の追完請求権

① 目的物の契約不適合を理由とする追完請求権

 引き渡された目的物が種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、以下のいずれかによる履行の追完を請求することができる。

イ) 目的物の修補
ロ) 代替物の引渡し
ハ) 不足分の引渡し


Point たとえば、マイホームを建築するために200㎡の宅地の売買契約を締結した場合に、引渡しを受けた土地が宅地ではなく田であった場合は種類に関する契約不適合となり、引渡しを受けた土地に産業廃棄物が埋まっていた場合は品質に関する契約不適合となり、引渡しを受けた土地が180㎡しかなければ数量に関する契約不適合となる。


② 追完の方法

 いずれの方法によって追完の請求をするかは、原則として買主の選択によるが、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。


③ 追完請求権を行使できない場合

 契約不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、履行の追完の請求をすることができない。


④ 権利の契約不適合を理由とする追完請求権

 以上の①~③のルールは、売主が買主に移転した権利が契約の内容に適合しないものである場合(権利の一部が他人に属する場合においてその権利の一部を移転しないときを含む)にも適用される。


Point たとえば、マイホームを建築するために宅地の売買契約を締結した場合に、その土地の一部が他人物であった場合や、地上権・賃借権・抵当権等の存在しないはずの権利があった場合などが、権利に関する契約不適合となる。


(2) 買主の代金減額請求権

① 目的物の契約不適合を理由とする代金減額請求権(原則)

 引き渡された目的物が種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しないものであるときに、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。


② 催告が不要な場合(例外)

 次のいずれかに該当する場合は、買主は、履行の追完の催告をすることなく、直ちに代金の減額を請求することができる。このような場合は、催告をしても無意味だからである。

イ) 履行の追完が不能であるとき。
ロ) 売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき。
ハ) 契約の性質または当事者の意思表示により、特定の日時または一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき。
ニ) イ)~ハ)のほか、買主が催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき。


③ 代金減額請求権を行使できない場合

 契約不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、代金の減額の請求をすることができない。


④ 権利の契約不適合を理由とする代金減額請求権

 以上の①~③のルールは、売主が買主に移転した権利が契約の内容に適合しないものである場合(権利の一部が他人に属する場合においてその権利の一部を移転しないときを含む)にも適用される。


(3) 買主の損害賠償請求権および解除権

 売買契約において売主に債務不履行があった場合は、一定の要件を満たす場合に、買主は売主に対し損害賠償の請求や契約の解除をすることができる。

 契約不適合も債務不履行の一種であるので、買主が契約不適合を理由とする追完請求権や代金減額請求権を行使することができる場合であっても、その要件を満たしているのであれば、債務不履行を理由に、買主は売主に対し損害賠償の請求や契約の解除をすることができる。


(4) 目的物の種類または品質に関する担保責任の期間の制限

 売主が「種類」または「品質」に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、①履行の追完の請求、②代金の減額の請求、③損害賠償の請求および④契約の解除をすることができない。

 ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、または重大な過失によって知らなかったときは、1年以内にその旨を売主に通知していなくても、上記①~④をすることができる。


Point1 買主は、契約不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知していれば、1年経過後であっても上記①~④をすることができる。


Point2 この1年の期間制限は、権利および目的物の数量に関する契約不適合には適用されない。


(5) 担保責任を負わない旨の特約

 売主は、上記の担保責任を負わない旨の特約をすることができる。

 ただし、担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、次の事項については、その責任を免れることができない。

① 売主が知りながら告げなかった事実
② 売主が自ら第三者のために設定しまたは第三者に譲り渡した権利


(6) 目的物の滅失等についての危険の移転

① 引渡しによる買主への危険の移転

 売主が買主に目的物(売買の目的として特定したものに限る)を引き渡した場合において、その引渡しがあった時以後にその目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失し、または損傷したときは、買主は、その滅失または損傷を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求および契約の解除をすることができず、また代金の支払を拒むことができない。


② 買主の受領遅滞中の目的物の滅失・損傷に関する危険

 売主が契約の内容に適合する目的物をもって、その引渡しの債務の履行を提供したにもかかわらず、買主がその履行を受けることを拒み、または受けることができない場合において、その履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその目的物が滅失し、または損傷したときも、買主は、その滅失または損傷を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求および契約の解除をすることができず、また代金の支払を拒むことができない。



手付

 手付とは、不動産の売買契約を締結する際などに、買主から売主に対して交付される金銭などをいう。


(1) 手付の性質

 一般に、手付には、次の3つの性質があるとされる。


証約手付契約が成立したことを証するために交付される手付。
すべての手付は、証約手付としての性質を有する。
解約手付 解除権を留保する(手元に残しておく)趣旨で交付される手付。
 手付の授受があったときは、解約手付と推定される。つまり、明示的な合意がない限り、手付は解約手付の性質を有する。
違約手付 債務不履行があった場合に違約金として没収する趣旨で交付される手付。
 当事者の間でその旨の合意があった場合に、違約手付としての性質を有する。損害賠償の予約として交付される場合と違約罰(違反行為に対する制裁)として交付される場合がある。違約手付として交付されたものであっても、解約手付の性質をもちうる。

以下では、解約手付について説明する。


(2) 解約手付

① 解約手付による契約の解除

 買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。


イ) 買主から契約を解除する場合



ロ) 売主から契約を解除する場合



② 契約の解除の時期の制限

 買主が売主に手付を交付したときであっても、その「相手方」が契約の履行に着手した後は、契約の解除をすることができない。たとえば、買主がすでに中間金などの代金の一部を支払っている場合は、売主はその倍額を現実に提供しても、契約を解除することができない。これは、すでに契約の履行に着手している相手方を保護するためである。したがって、買主がすでに履行に着手していても、売主が契約の履行に着手していないのであれば、買主のほうから解約手付による契約の解除をすることはできる。


③ 解約手付による契約の解除と損害賠償請求

 解約手付により契約を解除した場合は、損害賠償を請求することができない。

 なお、解約手付による契約の解除と債務不履行による契約の解除は異なるものなので、手付が交付されている場合であっても、債務不履行を理由に契約の解除がされた場合は、損害賠償を請求することができる。また、この場合、売主は買主に手付を返還しなければならない。


事例 A所有建物の売買契約において、買主Bが売主Aに100万円の解約手付を交付したが、Aの債務不履行により、Bは売買契約を解除した。



Point 「手付による解除」と「債務不履行による解除」は、異なるものである。したがって、売主の債務不履行を理由に買主が売買契約を解除する場合には、買主は、債務不履行による損害賠償の請求および交付した手付の返還請求(解除に伴う原状回復義務の履行請求)をすることができる。