• 民法担保物権ー5.留置権
  • 2.留置権の効力
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  • Sec.1

11.留置権の効力

堀川 寿和2021/12/27 12:36

留置的効力

 留置権者は、債権の弁済を受けるまで、物を留置することができる(民法295条1項)。目的物を債務者から取り上げ、債務者に心理的圧迫を加えて、間接的に債務の履行を実現させるのである。


(1) 留置権の対世的効力

 留置権は物権であるので、この留置的効力は債務者のみならず、第三者に対しても主張することができる。したがって、留置権者は、留置権が生じた後に目的物が譲渡されたような場合、その目的物の譲受人に対しても留置権を行使することができる。留置権のこのような効力を、対世的効力ともいう。


(2) 留置権と不可分性

 留置権者は債権全部の弁済を受けるまでは留置物の全部につき権利を行使することができる(民法296条)。


判例(最H3.7.16)
留置権者が留置物の一部を債務者に引き渡した場合でも、留置権者は債権の全部の弁済を受けるまで留置物の残部につき留置権を行使することができる。


(3) 留置権と物上代位性

 留置権に物上代位性はない。物上代位性は交換価値を把握して、そこから優先弁済的効力が認められる担保物権の特徴であり、留置権にはこの優先弁済的効力がないからである。


(4) 留置権と優先弁済的効力

 留置権はこの留置的効力をその本質とするため、他の担保物権と異なり、目的物からの優先弁済的効力を有しない。


(5) 留置権行使の効果

 留置権とは、相手方の目的物引渡請求権を前提とした、目的物の引渡し拒絶権である。したがって、原告が物の引渡しを求める訴えを提起した場合に、被告が裁判の中で留置権を主張して引渡しを拒否したときは、裁判所は、原告敗訴の判決を出すのではなく、引換給付判決(原告の弁済と引換えに被告に物の引渡しを命ずる判決)をすべきとされる(最S33.3.13)。


判例(最S33.3.13)
留置権が認められた場合でも、原告の建物引渡請求を棄却すべきではなく、債務の弁済と引換えに建物の引渡しを命ずべきである。


留置権者の果実収取権

 留置権者は、留置物から生じる果実を収取し、他の債権者に先立ってこれを自己の債権の弁済に充当することができる(民法297条1項)。この果実には、天然果実のほか、法定果実も含まれる(大T7.10.29)。したがって、留置物を第三者に賃貸した場合は、その賃料を弁済に充当することができる。

 収取された果実はまず債権の「利息」に、なお余りがあれば「元本」に充当しなければならない(民法297条2項)。


留置物の管理と使用

(1) 留置物の管理

 留置権者は善良な管理者の注意をもって留置物を占有(保管)しなければならない(民法298条1項 善管注意義務)。留置権者は、債権の弁済があれば目的物を返還しなければならないものだからである。善管注意義務とは、その者の社会的地位、職業などにおいて一般に要求される注意義務をいう。留置物の一部を過失によって壊してしまうことは、善管注意義務違反となる。


(2) 留置物の無断使用・賃貸の禁止

 留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、または担保に供することができない(民法298条2項本文)。したがって、留置権者が債務者の承諾を得ずに留置物を第三者に賃貸した場合、その賃料は弁済に充当することができず、不当利得として返還しなければならない。

 ただし、留置権者は、債務者の承諾を得ることなく、その物の保存に必要な使用をすることはできる(民法298条2項ただし書)。たとえば、家屋の賃借人が貨借中に支出した費用の償還請求権に基づいて留置権を行使している場合、その償還を受けるまで従前どおりその家屋に居住することは、他に特別の事情のない限り、物の保存に必要な使用に当たる(大S10.5.13)。ただし、家屋の使用によって得られた利益(家賃相当額)は、不当利得として償還義務が生ずる(大S10.5.13)。


判例(最S30.3.4)
売買契約を解除された木造帆船の買主が、解除前に支出した修理費用の償還請求権に基づいて留置権を行使している場合、その船舶を遠距離に航海し貨物の運送業務に当たることは、物の保存に必要な使用に当たらない。