- 民法担保物権ー4.質権
- 5.転質
- 転質
- Sec.1
1転質
■転質の意義
転質とは、質権者が質物として受け取った物について、自分の債務を担保するために質入れすることである。たとえばBがCに100万円貸し付けるにあたってC所有のダイヤを質物として預かった。その後、BがCから預かったダイヤを質入れしてAから80万円借りるような場合である。
Aの転質が実行され、ダイヤが競売されたときは、まず転質権者Aがダイヤの売却代金から優先弁済を受け、残額があれば続いてBが自己の債権の弁済に充てることになる。
■転質の種類
質権者は、設定者の承諾を得ることなく質物を担保に供することができないとされている(民法350条→298条2項)。よって設定者の承諾を得て、質物について転質をすることができる。これを「承諾転質」という。また、質権者は、設定者の承諾を得ないで、自己の責任で転質をすることができるとされている。これを「責任転質」という(民法348条)。質権者は、設定者の承諾を得ることなく、質物を担保に供することができないはずであるが、民法348条で「質権者は、その権利の存続期間内において、自己の責任で、質物について、転質をすることができる。」と特別に規定されているので、転質については設定者の承諾は必要ない。司法書士試験では責任転質が出題されるので、以下責任転質を中心に解説する。
① 責任転質 | 質権者がその存続期間内において、設定者の承諾を得ないでする転質。
民法348条で規定する転質である。 |
② 承諾転質 | 質権者が設定者の承諾を得て、質物をさらに質入れする転質。
民法350条によって民法298条2項の規定を準用する。 |
■責任転質の要件
(1) 質権設定の一般要件
転質も質権であるため、動産や不動産を転質する際には質物を転質権者に引き渡すことによって、その効力を生ずる(民法344条)。
(2) 責任転質の存続期間
責任転質の条文(民法348条)では、「その権利の存続期間内において・・」と規定されているが、原質権の存続期間を超えて転質をした場合でも、転質自体が無効になるのではなく、原質権の存続期間内においては有効と解される。つまり、原質権の被担保債権の弁済期の方が、転質権の被担保債権の弁済期よりも先に到来しても問題ない。
(3) 被担保債権の額
被担保債権の額についても、転質権の被担保債権の額が原質権の被担保債権の額を超えないことを要するという見解もあるが、通説では原質権の被担保債権の額より転質権の被担保債権の額の方が大きい場合、原質権の被担保債権の額を超えない範囲において転質が成立するとする。
(4) 責任転質の効力
① 原質権者の不可抗力責任
責任転質をした場合は、転質をしたことによって生じた損失については、不可抗力によるもの(ex.天災等)であっても、責任を負う(民法348条後段)。他人の物を承諾なしに質物にできる半面、通常より重い責任を負うことになる。
② 転質権の優先弁済的効力
原質権の被担保債権の額に限定される。よって転質権者Aは原質権の被担保債権(BのCに対する債権)80万円の範囲で質物の競売代金から優先弁済を受けることになる。
③ 転質権の実行
転質を実行した場合、まず転質権者Aの優先弁済に充て、残りを原質権者Bの弁済に充てる。
質権を実行するためには転質の被担保債権の弁済期が到来するだけでなく、原質権Bの被担保債権の弁済期も到来していなければならない(大S16.7.8)。原質権の被担保債権の弁済期が、転質権の弁済期より先に到来した場合には、転質権者は原質権の債務者に、転質権の被担保債権の範囲内で供託させることができ、この供託金還付請求権の上に優先弁済権を有することになる(民法366条3項の類推適用)。
④ 転質の拘束力
(イ) 原質権者Bに対する拘束
原質権者Bは、その原質の担保価値を消滅させてはならないという拘束を受ける。よってBはCから弁済を受けたり、債権を放棄したり、免除したり、質権を放棄したりすることはできない。
(ロ) 原質権設定者Cに対する拘束
転質権設定について、対抗要件が備えられた後に、原質権設定者CがBに弁済しても転質権者Aに対抗できない。
(5) 責任転質の消滅
転質権は、その被袒保債権の消滅によって消滅する。また、原質権の消滅によっても消滅することになる。たとえば、原質権の被担保債権が時効によって消滅した場合、原質権は消滅し転質権も消滅する。