• 民法担保物権ー4.質権
  • 1.質権総説
  • 質権総説
  • Sec.1

1質権総説

堀川 寿和2021/12/27 12:07

質権の意義

 質権とは、債権者が債権の担保として債務者または第三者の所有する物を受け取りこれを占有して、債権が弁済されないときにはこれを換価して、その売却代金から優先弁済を受けることができる約定担保物権である(民法342条参照)。約定担保物権であるため、質権者と設定者との質権設定契約によるが、質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、効力を生ずる(民法344条)。つまり要物契約である。要物契約とは、契約の成立に当事者の意思の合致のほかに目的物の引渡しを要する契約をいう。一方、当事者の意思の合致のみで成立する契約を諾成契約という。抵当権設定契約は諾成契約である。

質権の性質

 質権は債権担保を目的とする物権であるため、以下の性質を有する。

① 付従性

 質権は、債権の担保を目的とするので、債権が存在しなければ質権も成立せず、その債権の消滅によって質権も当然に消滅する。しかし、成立における付従性については要件が緩和されており、現に債権が発生していなくても、将来において特定債権が発生する可能性があれば、その将来発生予定の債権を担保するために、質権を設定することができる。また、期限付債権や条件付債権を担保するために、質権を設定することができるし、不特定債権を担保するために質権を設定することもできる(いわゆる根質権)。

② 随伴性

 質権は特定の債権を担保するためのものであるから、その債権が第三者に移転したときは、質権もそれに伴ってその第三者に移転する。

③ 不可分性

 質権を有する者は、被担保債権の全部の弁済を受けるまでは目的物の全部について質権を行使することができる(民法350条→296条)。

④ 物上代位性

 質権を有する者は、その目的物の売却・賃貸・滅失または損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、質権を行使することができる(民法350条→304条)。


質権の目的

 質権は、動産や不動産のほか、債権などの財産権を目的として設定することができる(民法362条参照)。質権は、譲渡することができない物を目的として設定することができない(民法343条)。したがって、法律上譲渡が禁止された物、国宝や重要文化財など取引に制限のある物には質権は設定できない。

 それに対して、民事執行法の規定によって差押えが禁止されている動産(民執法131条)を動産質権の目的とすることはできる。差押禁止動産としては、債務者の生活に欠かすことができない衣服や寝具などがある。「差押えが禁止されている」ことと、「譲渡できない」ということはまったく別問題であるためである。