- 民法担保物権ー3.根抵当権
- 3.元本確定前の根抵当権に関する法律関係
- 元本確定前の根抵当権に関する法律関係
- Sec.1
1元本確定前の根抵当権に関する法律関係
先にも述べたとおり、元本確定前の根抵当権は付従性、随伴性を否定しているため、普通抵当権とその性質を大きく異にする。根抵当権を設定するに当たっては、①誰に対する(債務者)、②どのような債権を(債権の範囲)、③いくらを限度に担保するか(極度額)、という“枠”だけを定めておく。そして、根抵当権を設定した後にその枠に収まる債権が発生した場合には、その債権は根抵当権によって担保されるし、逆に枠から外に出た債権については根抵当権によって担保されないことになる。
■被担保債権の譲渡、債務引受、更改
(1) 被担保の債権譲渡、代位弁済
元本確定前に根抵当権の被担保債権の範囲に属する債権が第三者に移転しても、根抵当権はそれに伴って移転しない。よって、根抵当権の被担保債権の範囲に属する債権が譲渡されても、その債権は根抵当権で担保されない。また、元本が確定する前に、債権の範囲に属する債権について、保証人等の第三者が債務者に代わって債務を弁済した場合、弁済者は根抵当権を取得することはできない(民法398条の7第1項)。
(2) 被担保債権の債務引受け
同じく元本確定前に根抵当権の被担保債権の範囲に属する債権が第三者に免責的に債務引受けされても、その免責的債務引受された債権は当該根抵当権では担保されない(民法398条の7第2項)。
(3) 被担保債権の更改
元本の確定前に債権者または債務者の交替による更改があったときは、その当事者は民法518条の規定にかかわらず、根抵当権を更改後の債務に移すことができない(民法398条の7第4項)。よって更改後の新債権・新債務については、当該根抵当権で担保されない。
■根抵当権の包括承継
(1) 相続の場合
根抵当権者または債務者が死亡しその後6か月間何もせずにいると、根抵当権は相続開始の時に遡って確定したものとみなされてしまう(民法398条の8第4項)。そこで、元本を確定させず、引き続き相続人が根抵当取引を継続していくためには、相続開始後6か月以内に一定の合意をして、その旨の登記をする必要がある。
① 根抵当権者の相続の場合
通常は根抵当権者Aが死亡すれば、A・B間の取引は終了することになる。よって根抵当権者Aの死亡は元本確定事由とされている。しかし場合によってはAの子供が亡くなった親の家業を継いで引き続きBと取引することも考えられる。そこで根抵当権者Aの死亡後6か月以内に指定根抵当権者の合意の登記をすれば元本は確定せず、根抵当権は、相続開始の時に存する債権のほか、相続人と根抵当権設定者との合意により定めた相続人(指定根抵当権者)が相続の開始後に取得する債権を引き続き担保することになる(民法398条の8第1項)。
② 債務者の相続の場合
根抵当権の債務者Bが死亡するとAB間の取引は終了するため、原則として根抵当権の元本は確定することになるが、6か月以内に指定債務者の合意の登記をすれば根抵当権の元本は確定せず、根抵当権は、相続開始の時に存する債務のほか、根抵当権者と根抵当権設定者との合意により定めた相続人(指定債務者)が相続の開始後に負担する債務を引き続き担保することになる。
(2) 合併の場合
根抵当権者または債務者に合併があった場合には根抵当権の元本は原則として確定しない。なぜなら合併による承継会社や新設会社も引き続き合併後も取引を継続することが予想されるからである。よって引き続き未確定のまま承継会社(新設会社)の特定の債権債務を担保する根抵当権として存続することになる。
① 根抵当権者の合併の場合
根抵当権者であるA社がC社に合併された場合、A社の根抵当権者たる地位は当然にC社に引き継がれることになる。この場合、A社の合併前のBとの売買取引上の債権と、合併後のC社のBとの売買取引上の債権を担保する根抵当権として引き続き未確定のまま存続することになる。
② 債務者の合併の場合
債務者であるB社がD社に合併された場合、B社の債務者たる地位は当然にD社に引き継がれることになる。この場合、B社の合併前のA社との売買取引上の債権と、合併後のD社のA社との売買取引上の債権を担保する根抵当権として引き続き未確定のまま存続することになる。
③ 設定者からの確定請求
a) 根抵当権者に合併があった場合(民法398条の9)
根抵当権者が合併により消滅し、他の会社に承継されたときは、設定者は当該根抵当権について元本の確定を請求することができる。根抵当権者の合併を理由とする元本の確定の請求は、設定者が根抵当権者について合併があったことを知った日から2週間を経過したらすることができない。また、設定者が合併の事実を知らなくても、合併の日から1か月を経過したらすることができない。この場合、根抵当権の元本は「合併の時」に確定したものとみなされる。
b) 債務者に合併があった場合(民法398条の9)
債務者が合併により消滅し、他の会社に承継されたときも、設定者は当該根抵当権について元本の確定を請求することができる。ただし、債務者に合併があった場合でも、その債務者が設定者であるときは、設定者は債務者の合併を理由として元本の確定を請求することはできない(民法398条の9第3項ただし書)。
債務者の合併を理由とする元本の確定の請求も設定者が債務者について合併があったことを知った日から2週間を経過したらすることができない。また、設定者が合併の事実を知らなくても、合併の日から1か月を経過したらすることができない点も根抵当権者の合併と同じである。この場合も根抵当権の元本は「合併の時」に確定したものとみなされる。
設定者からの確定請求の可否 まとめ
根抵当権者が合併した場合 | 債務者が合併した場合 | |
物上保証人 | ○ | ○ |
債務者兼設定者 | ○ | × |
④ 確定請求の効果
根抵当権設定者からの元本確定請求は形成権であり、確定の意思表示が根抵当権者に到達したときに請求の効力が生じ、元本は「合併の時」に遡って確定したものとみなされる(民法398条の9第4項)。
(3) 会社分割の場合
根抵当権者または債務者が会社分割した場合には、根抵当権は分割会社と承継会社(設立会社)の準共有となる。
① 根抵当権者の会社分割の場合
根抵当権者が会社分割した場合、分割前からのA社とBとの売買取引および分割後のC社のBとの売買取引上の債権を担保する根抵当権として引き続き未確定のまま存続する。
② 債務者の会社分割の場合
債務者が会社分割した場合、A社と分割前からのB社との売買取引およびA社と分割後のD社の売買取引を担保する根抵当権として引き続き未確定のまま存続することになる。
③ 設定者からの確定請求
根抵当権者または債務者に会社分割があった場合、合併の場合と同様に設定者から元本確定請求をすることができる(民法398の10)。確定請求できる期間や、債務者兼設定者が会社分割した場合には、この確定請求ができない点は合併の場合と同様である。また会社分割のときに遡って確定の効力が生じる点も合併の場合と同様である。
■民法376条1項の処分の可否
元本の確定前においては、根抵当権者は、転抵当を除く民法376条1項の規定による根抵当権の処分(根抵当権の譲渡・放棄、根抵当権の順位の譲渡・放棄)をすることができない(民法398条の11第1項)。
(1) 転抵当の設定
元本確定前の根抵抵当権であっても、他の債権の担保とすることはできるため、転抵当権を設定することは可能である(民法398条の11第1項ただし書)。
(2) 転抵当の効果
転抵当権者は、その目的たる根抵当権の優先弁済権の範囲内で、根抵当権者に優先して弁済を受けることができる。転抵当が設定され、債務者等に対する対抗要件(通知または承諾)が備えられた後であっても、元本の確定前においては、転抵当権者の承諾を得ることなく、債務者は根抵当権者に対して債務の弁済をすることができる(民法398条の11第2項)。つまりこの弁済を転抵当権者に対抗することができる。