- 民法担保物権ー3.根抵当権
- 1.根抵当権の性質・設定
- 根抵当権の性質・設定
- Sec.1
1根抵当権の性質・設定
■根抵当権の意義
(1) 意義
「根抵当権」とは、一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度で担保する抵当権をいう(民法398条の2第1項)。
(2) 性質
毎月の月初めに運転資金の貸付け、月末に弁済するメインバンクとその取引企業で考えてみる。
毎月融資をする度に抵当権の設定登記をし、月末に弁済がある度ごとに抹消登記をしていると非常に手間がかかる。そこで、登場したのが「根抵当権」である。
特定の債権者と債務者の間であらかじめ定めてある「債権の範囲」の取引によって生じる債権債務を同じくあらかじめ定めてある「極度額」を限度として担保できる抵当権である。
上記のような根抵当権を設定しておけば、元本確定事由が生じるまでに発生した「株式会社X銀行」と「株式会社A商店」の「金銭消費貸借上の債権債務」について、「1000万円まで」担保できることになる。どの債権が担保されることになるのかは、元本が確定するまでわからない。つまり元本確定時点で未だ弁済されていない株式会社X銀行・株式会社A商店間の金銭消費貸借上の取引によって発生した債権債務を担保することになる。その意味で根抵当権は、設定段階では不特定な債権を担保することになるのである。
■根抵当権の特質
抵当権はあらかじめ特定された債権(特定債権)を担保するものであるから、債権が発生しなければ、抵当権も成立せず、その被担保債権が弁済等で消滅すれば、抵当権も付従性によって消滅することになる。また債権が譲渡されれば、随伴性によって抵当権も譲受人に移転する。
しかし、根抵当権は一定の範囲に属する不特定債権を担保するものであるため付従性は否定される。また、特定の債権者の特定の債務者に対する一定の範囲に属する債権を担保するものであるため随伴性が否定される。
① 付従性の否定
根抵当権は、現に債権が発生しなくてもあらかじめ設定することができる。
債権が弁済等によって一時的に消滅しても、根抵当権は消滅しない。継続的な取引によってまた新たな債権の発生が予定されるからである。
② 元本確定による付従性の回復
根抵当権も、ひとたび元本が確定するとその時点で弁済されていない債権を担保することが決定し、特定債権を担保する抵当権に限りなく近づいていく。よって元本確定時点で弁済されていない債権(特定債権)を担保することに確定し、それら確定債権の全部が弁済等によって消滅すれば、根抵当権も消滅することになる。
③ 随伴性の否定
根抵当権によって担保される債権が譲渡されても、根抵当権はそれに伴って移転することもない(随伴性の否定)。根抵当権は特定の債権者の特定の債務者に対する一定の範囲に属する債権のみを担保するためのものであるため、債権が譲渡されると債権者が交代するのでその債権が根抵当で担保されるべき債権から外れるだけである。
たとえば、抵当権で担保されたAのBに対する1000万円の金銭債権をAがCに債権譲渡した場合、Aの抵当権は債権譲渡後のCのBに対する債権を担保することになる。つまり債権と共に抵当権もAからCに移転することになる。
これに対して、元本確定前に根抵当権で担保されているXのAに対する債権をXがYに債権譲渡しても根抵当権はXからYに移転することはない。
④ 元本確定による随伴性の回復
しかし、元本確定後は根抵当権も随伴性を回復するため、元本確定後に確定債権を譲渡すると、それに伴って根抵当権も移転することになる。