• 民法担保物権ー2.抵当権
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  • Sec.1

1共同抵当

堀川 寿和2021/12/27 09:40


共同抵当の意義

 共同抵当とは、1個の債権の担保として数個の不動産に抵当権を設定することをいう。

共同抵当の設定

(1) 設定の時期

 共同抵当の設定は、必ずしも数個の不動産について同時に設定をしなければならないわけではない。ある不動産に抵当権が設定された後、それと同一の債権を担保するために他の不動産に後日追加的に抵当権を設定し、共同抵当とすることもできる。


(2) 共同抵当の設定者

 共同抵当の目的物の所有者は異なっていてもよい。たとえば、A所有の甲土地と、B所有の乙土地を目的として、抵当権者Cのために共同抵当を設定することもできる。


(3) 共同抵当の公示

 抵当権が設定された場合、抵当権の設定の登記をすることによって第三者に対抗することができる(民法177条)。そして、数個の不動産を目的として共同抵当が設定された場合は、その登記記録の末尾に、共同担保目録の記号と番号が記録される。





共同抵当の実行と配当

 抵当権者は、共同抵当の目的となっている不動産のすべての抵当権を同時に実行して、その売却代金から配当を受けること(同時配当)もできるし、共同抵当の目的である数個の不動産のうち、1つの不動産を任意に選択して抵当権を実行し、その1つの不動産の売却代金から配当を受けることもできる(異時配当)。


(1) 同時配当(民法392条1項)

 1番抵当権者Aが共同抵当権の目的不動産である甲地と乙地を同時配当した場合900万円の債権額を抵当不動産の競売価格の割合(1000:500)でそれぞれの不動産の売却代金から配当を受けることになる。そうすると、Aに対して甲土地から600万円、乙土地から300万円配当され、後順位抵当権者はさらにその残額から配当を受ける。




 この割付は、甲地または乙地に後順位抵当権者がいない場合でも行われる。抵当権者の意思で任意に各不動産の競売代金から配当を受けることはできない。

(2) 異時配当(民法392条2項)

① 上記の事例で、1番抵当権者Aが甲地のみを競売した場合、Aは甲地の競売代金1000万円から自己の債権額900万円全額の配当を受けることができる(民法392条2項前段)。

 ただ、そうすると甲地の2番抵当権者BはAが同時配当していれば400万円まで配当が受けられていたはずであったのに、100万円しか配当を受けられなくなり大迷惑である。そこで、民法392条2項後段は、次順位の抵当権者は同時配当をしていれば1番抵当権者Aが配当を受けるはずであった乙地の代価の額を限度として、1番抵当権者Aに代位できるとした。結果として、同時配当の場合と同じ額の弁済を受けることができる。



② 代位できる者

 民法392条2項後段は、代位権を有する者は「次順位の抵当権者」としているが、共同抵当権の次順位の抵当権者に限って認められるのではない。「次順位の抵当権者」とは、後順位抵当権者を指す(大T11.2.13)。

③ 代位の登記

 後順位抵当権者の代位が生じたときは、他の不動産の共同抵当権(乙土地のAの抵当権)の登記について、代位の付記をすることができる(民法393条)。代位とは乙土地のAの1番抵当権が後順位抵当権者に移転することを意味する。


Bが乙地のAの1番抵当権に代位した場合の登記記録


④ 共同抵当権者が一部の不動産の抵当権を放棄した場合

 前頁の事例で、Aが甲地のみを実行した結果、900万円の債権全額の弁済を受け、その後乙地の1番抵当権を放棄した場合、甲地の2番抵当権者Bは乙地の1番抵当権に代位できなくなる。そのような場合、AはBが代位して乙地から弁済を受けられるはずであった額(300万円)を限度として、甲地においてBに優先権を主張できなくなる(大S11.7.14)。


判例(大S11.7.14)
甲・乙不動産上の共同抵当権者が乙不動産上の抵当権を放棄したときは、甲不動産上の後順位抵当権者との関係では、放棄した乙不動産の負担額だけは優先弁済を受けられない。つまり、放棄をしなければ後順位抵当権者が代位できた限度で優先弁済を受けることができなくなる。


⑤ 一部弁済の場合

 前頁の事例で、Aが乙地のみを競売した場合にはAは900万円の債権のうち500万円までしか配当を受けることができないため、続いて甲地を競売してさらに残額400万円の配当を受けることが予想される。この場合、乙地の後順位債権者Cは1番抵当権者Aが甲地の売却代金から債権全額の弁済を受けることを停止条件として甲地1番抵当権に代位できると解される。