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1法定地上権

堀川 寿和2021/12/27 09:11

法定地上権の意義

 法定地上権とは、土地•建物が同一所有者に属する場合に、土地または建物の一方(または双方)に抵当権が設定され、後に競売により、それらが別々の者に帰属するに至った場合、建物所有者のために、当該土地上に地上権が成立するものとみなす制度をいう。







法定地上権の制度趣旨

 上記の事例で不法占拠だからというので建前どおり家屋を取り壊さなければならないとすると、国民経済上はなはだしく不経済である。のみならず、土地や建物だけを抵当に入れることが事実上不可能になる。そこで法は、土地と建物が同一所有者に属する場合に、その一方(または双方)に抵当権が設定され、実行の結果、土地と建物が別異の所有者に属するようになった場合には、その土地の上に地上権を成立させることにした。これが「法定地上権」である(民法388条)。

 法定地上権の制度は当事者の利益のみならず、国民経済上の制度でもあるから、当事者の特約によってこれを排除することはできない(大M41.5.11)。


法定地上権の成立の要件

 土地およびその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地または建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす(民法388条)。


 民法388条の法定地上権成立の要件は、次の4つである。

① 抵当権設定当時、土地の上の建物が存在すること
② 抵当権設定当時に土地と建物とが同一の所有者に属していること
③ 土地と建物の一方(または双方)の上に抵当権が設定されたこと
④ 抵当権の実行により、土地と建物とが別々の所有者に帰属するに至ったこと


(1) 抵当権設定当時、土地の上の建物が存在すること

① 更地に抵当権が設定された場合


判例(大T4.7.1)
更地に抵当権を設定したのち、土地所有者が建物を築造しても法定地上権は成立しない。


⇒ 更地として評価して担保にとったのに、のち法定地上権が成立するとすれば、土地の交換価値が下落し、抵当権者が害されるからである。そもそも法定地上権の成立は土地の担保権者にとって不利になる。なぜなら仮に担保権を実行して競売にかけても、法定地上権が成立する場合、競落人はせっかく落札した土地を自ら使用できない。つまりあまり高値で売れないことになる。

 なお、建物の建築について抵当権者から承諾を受けていたとしても、法定地上権は成立しない。


判例(最S47.11.2)

更地の上に1番抵当権が設定された後、建物が建築され、その後、土地に2番抵当権が設定され、2番抵当権が実行された場合、法定地上権は成立しない。

 

⇒ 土地の1番抵当権設定時は更地であったため法定地上権の成立要件を満たしていなかったが、その後2番抵当権が設定された段階では建物が建てられて法定地上権の成立の要件を満たした場合でも、1番抵当権者保護のため法定地上権は成立しないのである。


判例(最S36.2.10)

土地につき抵当権を設定後、その土地上に建物が築造された場合、抵当権者がその築造をあらかじめ承認していたとしても、抵当権が目的土地を更地として評価して設定されたときは、法定地上権は成立しない。

 

② 建物が再築された場合


判例(大S10.8.10)(大S13.5.23)
土地に抵当権を設定した当時、建物が存在していれば、後にその建物が改築、滅失・再築さ
れた場合でも法定地上権は成立する。


⇒ しかし、その地上権の内容は、改築・再築前の旧建物を基準とすべきである(大S10.8.10)。

再築は、抵当権設定者が自らする必要はなく、第三者が再築した場合でもよい(大S13.5.25)。




 Bが土地と建物に共同抵当権を設定した後に建物が取り壊されて、新建物が建築された場合、新建物に法定地上権が成立するか?


 判例は、「全体価値考慮説」(最H9.2.14)に立ち、新建物に上記抵当権者Aが土地抵当権と同順位の共同抵当を受けたなどの特段の事情がない限り、新建物のために法定地上権は成立しないとする。


判例(最H9.2.14)
土地及び地上建物に共同抵当権を設定した後、建物が取り壊され新建物が建築された場合、新建物の所有者が土地の所有者と同一であり、かつ、土地の抵当権者が新建物について土地の抵当権と同順位の共同抵当権の設定を受けたなどの特段の事情がない限り、新建物のために法定地上権は成立しない。


⇒ 法定地上権が成立すれば間違いなく土地の担保価値は下がる。土地と建物に1番抵当権の設定を受けていたAは、建物が取り壊されることによって建物の抵当権を失うことになる(改めて新築建物に1番抵当権の設定が受けられれば話は別だが。)。その後、新築建物に第三者がAに優先する抵当権の設定を受けた場合、その後に当該建物の抵当権が実行されて、その建物競落人に法定地上権を成立させるとすればAは建物に対する抵当権を失ったのみならず、他人の法定地上権付きの担保価値の下落した土地のみの抵当権者になってしまう。それではあまりにも気の毒なので、裁判所は今回の事案において新築建物には法定地上権を成立させないことにしたのである。

 これに対して、新建物に再び土地と同順位の抵当権が改めて設定された場合(つまり上記Aを1番抵当権者とする抵当権)には、旧建物に抵当権の設定を受けていたときと同様に土地全体の価値を把握することができるから、新建物のために法定地上権が成立することになる(最H9.6.5)。


③ 建物に保存登記がなされていない場合


判例(大S7.10.21)
抵当権を設定した当時、土地上に建物が存在していたが、建物について登記がされていなかった場合でも、法定地上権は成立する。


⇒ 法定地上権は登記で決する対抗問題とは次元が違う問題であるため、建物の登記の有無は法定地上権の成否に関係ない。土地に抵当権を設定しようとする者も、現地調査をして建物の存在を知ることができるので問題はないと考えられる。


(2) 抵当権設定当時に土地と建物とが同一の所有者に属していること

① 土地と建物の所有者が異なる場合


判例(大M38.6.26)
抵当権を設定した当時、土地とその土地上の建物の所有者が異なっていた場合には、抵当権が実行されて競売されても、法定地上権は成立しない。


⇒ 土地とその土地上の建物の所有者が異なっているということは、建物所有者はすでに何らかの土地利用権(地上権、賃借権、使用借権等)を有するはずであるからである。たとえば、借地上の建物に抵当権を設定して、その後抵当権が実行されたような場合である。

 土地・建物が別人所有である以上、たとえその間に親子関係や夫婦関係があっても、法定地上権は成立しない(最S51.10.8)。


② 抵当権を実行するまでに同一の所有者となった場合

 抵当権設定時に土地・建物が同一人所有でない以上、その後抵当権が実行されるまでに同一人所有になったとしても、法定地上権は成立しない。


判例(最S44.2.14)
抵当権を設定した当時、土地と建物の所有者が異なっていたときはその後に所有者が同一となった場合であっても、抵当権の実行により法定地上権は成立しない。


⇒ この場合も、すでに何らかの土地利用権(地上権、賃借権、使用借権等)を有するはずであるからである。この場合の土地利用権は、混同によって消滅しない(混同の例外に当たる!)。


③ 抵当権設定後に土地と建物が別人所有となった場合

 抵当権設定当時、土地・建物が同一人所有である限り、その後土地建物が別人所有になったとしても建物のために法定地上権は成立する。要は、抵当権設定時に土地と建物が同一人所有であればよい。


④ その他(2)の要件についての重要判例


判例(最H2.1.22)
土地について1番抵当権が設定された当時、土地と建物の所有者が異なり、法定地上権成立の要件が充足されていなかった場合には、土地と建物を同一人が所有するに至った後に土地に2番抵当権が設定されたとしても、地上建物のための法定地上権は成立しない。


⇒ 法定地上権を成立させると、1番抵当権者の利益が害されるからである。よって2番抵当権実行時に1番抵当権が消滅していた場合には、法定地上権は成立することになる(最H19.7.6)。




判例(大S14.7.26)
建物について1番抵当権が設定された当時、土地と建物の所有者が異なり、法定地上権成立の要件が充足されていなかった場合でも、土地と建物を同一人が所有するに至った後に建物に2番抵当権が設定されたときには、地上建物のための法定地上権が成立する。


⇒ 建物の抵当権にとって、法定地上権の成立は好都合なので、1番抵当権者を害することはない。よって、2番抵当権設定時に法定地上権の成立要件を充たしている以上、法定地上権は成立することになる。2番抵当権のみならず、1番抵当権の実行の場合であっても成立する。



⑤ 登記名義のみが別人の場合


判例(最S48.9.18)
抵当権を設定した当時、土地と建物の所有者が同一人であったときは、登記の名義が異なっていても、抵当権の実行により法定地上権が成立する。


⇒ 抵当権設定当時、土地と建物が同一人所有であったが、建物の登記名義が前主のままであったような場合でも、法定地上権は成立する。土地の登記名義が前主のままであった場合も同様である。


⑥ 土地または建物が共有の場合

 この場合も、土地が共有か建物が共有かによって、法定地上権の成否が異なってくる。

(イ) 土地が共有の場合

a)

b)

(ロ) 建物が共有の場合

a)

b)

c)


(3) 土地と建物の一方または双方の上に抵当権が設定されたこと

 民法388条には、「土地または建物につき抵当権が設定され…」と規定されているが、土地と建物の双方に抵当権が設定されている場合でも、競売の結果、土地と建物の所有者が異なることとなったときは、法定地上権が成立する(最S37.9.4)。


(4) 抵当権実行による競売で、土地と建物とが別々の所有者に帰属するに至ったこと

 抵当権の実行による競売の結果、土地と建物の所有者が異なることとなったときに、法定地上権が成立する。


判例(大T3.4.14)
抵当権が設定された不動産について、抵当権の実行としてではなく、一般債権者の申立てにより強制競売がされ、土地と建物の所有者が異なることとなったときは、法定地上権が成立する。