• 民法担保物権ー2.抵当権
  • 5.抵当権の処分
  • 抵当権の処分
  • Sec.1

1抵当権の処分

堀川 寿和2021/12/23 16:25

 抵当権の処分とは、抵当権をその被担保債権から切り離して、その抵当権のみを処分することをいう。


抵当権の処分の態様

 抵当権者は、その抵当権を他の債権の担保とし、または同一の債務者に対する他の債権者の利益のためにその抵当権もしくはその順位を譲渡し、もしくは放棄することができる(民法376条)。

この抵当権の処分の態様は、以下の5つである。

① 転抵当

 抵当権を他の債権の担保にすること。

② 抵当権の譲渡

 同一の債務者に対する他の債権者の利益のために抵当権を譲渡すること。

③ 抵当権の放棄

 同一の債務者に対する他の債権者の利益のために抵当権を放棄すること。

④ 抵当権の順位の譲渡

 同一の債務者に対する他の後順位担保権者の利益のために抵当権の順位を譲渡すること。

⑤ 抵当権の順位の放棄

 同一の債務者に対する他の後順位担保権者の利益のために抵当権の順位を放棄すること。


転抵当

(1) 意義

 転抵当とは、抵当権者が自らの債務の担保のために、抵当権をさらに抵当に入れることである。



(2) 転抵当権の設定

 転抵当権の設定は、転抵当権者と転抵当権設定者(抵当権者)の契約によってなされる。上記の事例の場合、A・Bの契約による。転抵当権を設定するのに原抵当権設定者(上記の事例の場合、債務者甲)の承諾を得ることを要しない。原抵当権の被担保債権(Aの甲に対する債権)の弁済期と、転抵当の被担保債権(BのAに対する債権)の弁済期は、どちらが先でも構わないし、原抵当権の被担保債権の額と、転抵当の被担保債権の額は、どちらが大きくても構わない。


(3) 転抵当権の対抗要件

① 債務者等に対する対抗要件

 転抵当権の設定を主たる債務者、保証人、抵当権設定者に対抗するためには、民法467条の規定に従い、主たる債務者に通知するか、または主たる債務者の承諾を得なければならない。

② 第三者に対する対抗要件

 数個の転抵当権が設定された場合の優劣は、付記登記の順位による(民法376条2項)。

 cf.債権質の第三者対抗要件は確定日付を備えた通知または承諾であったことと比較。

甲区3番  所有権移転  所有者 B
乙区1番  抵当権設定  抵当権者 A
    1番付記1号  1番抵当権転抵当  転抵当権者 C
    1番付記2号  1番抵当権転抵当  転抵当権者 D

*乙区1番付記1号のCの転抵当権の方が、乙区1番付記2号のDの転抵当権よりも優先することになる。


(4) 転抵当権の効果

① 優先弁済権

 転抵当権者は、原抵当権の被担保債権の額を限度として優先弁済を受けることができる。前頁の図の事例の場合、競売代金はまずBが受け、なお余剰があればAが受ける。

② 転抵当権の実行

(イ) 弁済期の到来

 転抵当権を実行するには、転抵当権の弁済期のみならず、原抵当権の被担保債権の弁済期もともに到来していることが必要である。

(ロ) 原抵当権者の競売権

 前頁の図のAが競売申立てできるか否かについて、判例はAの債権額がBの債権額を超えるときは、Aはその差額を受領することができるので、自ら抵当権を実行することができるとする(大S7.8.29)。残金が出ない場合にはできないことになる。


判例(大S7.8.29)
転抵当権者は、自己の債権の弁済を受けるため、原抵当権の被担保債権と同額の範囲内で原抵当権を実行することができ、原抵当権の債権額が転抵当権の債権額を超えるときは、原抵当権者はその差額につき配当を受けることができる。また、この場合には、原抵当権者は自ら抵当権を実行してその差額に相当する弁済を受けることができる。しかし、転抵当権の債権額が原抵当権の債権額と同じであるか、又はこれを超えるときは、原抵当権者は抵当権を実行することができない。


③ 原抵当権者・債務者に対する拘束

(イ) 原抵当権者Aの受ける拘束

 原抵当権者AはBに対して転抵当権を設定した以上、原抵当権を消滅させてはならない拘束を受ける。したがって原抵当権の放棄、被担保債権の取立て、相殺、免除などもできない。

(ロ) 原抵当権の債務者などが受ける拘束

 原抵当権の被担保債権の債務者甲や、その保証人、物上保証人も転抵当設定の通知、承諾がなされた後は、転抵当権者の承諾なく原抵当権者に弁済しても原抵当権の消滅、その結果としての転抵当権の消滅を主張することができない。



抵当権の譲渡

(1) 意義

 「抵当権の譲渡」とは同一の債務者に対する債権者のうち、抵当権を有する者から無担保債権者に対して抵当権を譲渡し、その限度で自分は無担保債権者となることをいう(民法376条1項)。



 上記の事例で1番抵当権者Aが同一の債務者に対する無担保債権者Cに抵当権を譲渡したとする。仮に土地の競売代金が3000万円であったとすると、Aの得るはずであった1000万円の優先弁済権は抵当権の譲渡を受けたCが取得することになる。逆に本事例の場合、Aはこの土地の競売代金からは1円も弁済を受けることはできない。なお、2番抵当権者Bの優先弁済額については、A・C間で抵当権の譲渡がなされても何ら影響せず、2000万円の配当を受けることができる。


(2) 譲渡契約

 抵当者Aと譲受人Cとの譲渡契約による。譲渡には債務者や物上保証人、中間順位者等の承諾を要しない。それらの者に何ら影響しないからである。


(3) 対抗要件

 転抵当の場合と同じである。

① 債務者等に対する対抗要件

 Aが抵当権をCに譲渡したときは、それを債務者に通知するかまたは債務者の承諾を得なければ、それをもって債務者、その保証人、抵当権設定者(物上保証人・第三取得者)およびその承継人に対抗できない。

② 第三者に対する対抗要件

 Aが抵当権をCに譲渡し、他の無担保債権者Dにも譲渡した場合のC•D間の優劣は、付記登記の先後による(民法376条2項)。


甲区3番  所有権移転  所有者 甲
乙区1番  抵当権設定  抵当権者 A
      1番付記1号  1番抵当権譲渡  受益者 C
      1番付記2号  1番抵当権譲渡  受益者 D
    乙区2番  抵当権設定  抵当権者 B


(4) 譲渡の効果

 抵当権の譲渡を受けたCはAの被担保債権が弁済期に至れば抵当権の実行し、競売ができる。逆に譲渡人Aは競売権を失うことになる。