• 民法担保物権ー2.抵当権
  • 2.抵当権の設定
  • 抵当権の設定
  • Sec.1

1抵当権の設定

堀川 寿和2021/12/23 15:57

抵当権設定契約

 抵当権は、設定契約(当事者の合意)によって成立する諾成契約であり、書面による等の特別の様式を必要としない(諾成・不様式契約)。

 抵当権設定契約の当事者は債権者たる抵当権者と債務者または第三者(物上保証人)である。抵当不動産の第三取得者も、物上保証人と同様の地位に立つ。




抵当権の目的物

 前述のとおり、民法上抵当権の目的となるのは、不動産(土地・建物)、地上権、永小作権である(民法369条)。


(1) 1筆の土地の一部

 1筆の土地の一部を目的として抵当権を設定することは可能である。ただし、登記手続法上、1筆の土地の一部を目的として登記をすることはできないため、抵当権の設定の登記をするためには、前提として土地の分筆の登記をしてその部分に設定登記をする必要がある。

 1筆の土地の一部への用益権(地上権、永小作権等)の設定も同様に可能であるが、登記をするためにはやはりその部分の分筆が必要である。


(2) 共有持分権のみの抵当権設定

 共有者の持分のみに抵当権を設定することはできる。たとえば、A・B共有地のA持分のみに抵当権を設定することができる。これに対して、共有者の持分のみに用益権の設定はできない!

 たとえばA・B共有地のA持分(もしくはB持分)のみに抵当権等の担保権の設定は可能であるが、地上権等の用益権の設定はできない。

(3) 所有権の一部、共有持分の一部の抵当権設定

 たとえば、所有権の2分の1、持分権のさらに2分の1を目的とする抵当権は、目的物が特定せず、抵当権は成立しないとして、原則として、登記を認めないのが実務の扱いである(S35.6.1民甲1340号通達)。



 Bは所有権の一部、たとえば2分の1にだけ、もしくはBの共有持分の一部(2分の1の半分)への抵当権の設定はできない。登記簿上、どの部分に設定されたか公示できないから。


 しかし、登記先例は下記のように同一名義人が数回に分けて各別の登記により持分を取得している場合には、その登記に係るそれぞれの持分につき抵当権設定登記を認めている(S58.4.4第2252号)。これは、抵当権の目的としての範囲が公示上、独立性・特定性を有していると解されるから。



 順位番号3番(もしくは2番)で取得したBの持分2分の1に対する抵当権設定は可能である。この場合、所有権の一部に対する抵当権の設定に当たるが登記簿上その一部がどの部分か公示できるためである。


(4) 未完成建物への抵当権設定

 未完成の建物につきなされた抵当権設定契約は、まだ不動産となる前だから抵当権は成立せず、建物となった後あらためて抵当権設定契約をする必要があるとするのが登記実務である(S37.12.28民甲3727号回答)。

 cf.将来取得すべき不動産につきあらかじめ抵当権の設定契約を締結することも可能であり、この場合は設定者が目的物の所有権を取得したときに抵当権は成立する(大T4.10.23)。


抵当権の被担保債権

(1) 被担保債権の内容

 抵当権によって担保される債権は、金銭債権が通常であるが、金銭債権以外の債権でもよい。

 たとえば、石炭1000トンの引渡債権を担保するために抵当権を設定することができる。引渡義務が履行されなかった場合、最終的に債務不履行(契約違反)による損害賠償債権つまり金銭債権に転化することになるからである。


(2) 被担保債権の個数

① 1個の債権の一部

 1個の債権の一部、たとえば1000万円の貸金債権のうち700万円につき抵当権を設定することもできる。

② 数個の債権

(イ) 同一の債権者が有する数口の債権につき、1個の抵当権を設定することもできるし(最S33.5.9)、債務者を異にする数個の債権を担保するために1個の抵当権を設定することもできる(S37.7.6民三646号回答)。



(ロ) 数人の債権者が数個の債権を有している場合に、1個の抵当権を設定できるかについて、学説はこれを肯定するが、登記実務は否定する(S35.12.27民甲3280号通達)。



 抵当権は自己の債権を担保するために設定することができるが、他人の債権については設定することはできないことを理由とする。


cf.AとCが1個の債権を準共有する場合には、その債権を担保するために抵当権を設定することは可能である。たとえばAとC2人でBに1000万円貸し付けた場合には、被担保債権は1つであるから当該債権を担保するために抵当権設定することは可能である。



(3) 付従性の原則と被担保債権

① 無効な債権

 被担保債権が発生したものとして抵当権を設定したが、その被担保債権が無効であった場合には、抵当権も効力を生じない(成立における付従性)。たとえば、公序良俗に反する契約から生じた債権を担保するために抵当権の設定契約がされた場合、債権自体が発生しないので、抵当権も効力を生じない(大S8.3.29)。ただし、場合によっては設定者が抵当権の無効を主張することが信義則に反して許されないこともある。


判例(最S44.7.4)
労働金庫の会員以外の者へのいわゆる員外貸付けは無効だか、それを理由に自ら設定した抵当権およびその実行手続の無効を理由に競落人の所有権取得を否定することは信義則上許されない。


② 将来発生する債権

 抵当権が成立するためには、担保されるべき債権(被担保債権)が現に存在している必要がある(いわゆる成立における付従性)。

 ただし、この成立における付従性の要件は緩和されており、現に債権が存在しなくても、将来において特定の債権が発生する可能性がある場合には、その将来債権を担保するために抵当権を設定することができる。たとえば、保証人が将来成立する可能性のある求償権を担保するために抵当権を設定するような場合である。