- 権利関係ー4.債権総論
- 4.債務不履行
- 債務不履行
- Sec.1
1債務不履行
債務不履行とは、債務者が、債務の本旨(本来の目的)に従って、債務を履行しない(または履行できない)ことである。たとえば、債務が契約に基づくものであれば、契約違反をする(約束を破る)ことである。
ここでは、契約違反などの債務不履行があった場合に、債権者が債務者に対してどのような責任を追及できるのかを学ぶ。
■債務不履行の種類
債務不履行とは、債務者が、債務の本旨(本来の目的)に従って、債務を履行しない(または履行できない)ことである。
債務不履行は、「履行遅滞」と「履行不能」の2つに分けられる。
(1) 履行遅滞
履行遅滞とは、債務者が債務を履行できるにもかかわらず、正当な理由がないのに、履行期を過ぎても履行しない場合である。
債務を履行しないまま履行期を過ぎると履行遅滞となるが、債務者がいつから履行遅滞の責任を負うことになるかは、期限の種類等により異なる。
① 確定期限がある場合
確定期限とは、到来することが確実であり、いつ到来するかが確定している期限である。
債務の履行について確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した時から遅滞の責任を負う。
事例 Aを売主、Bを買主とする建物の売買契約が成立し、その契約で、Aは、4月1日に、Bに建物を引き渡す旨合意していた。この場合、4月1日を過ぎても、Aがその建物を引き渡さないときは、履行遅滞となる。
② 不確定期限がある場合
不確定期限とは、到来することは確実だが、いつ到来するかがわからない期限をいう。
債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した後に履行の請求を受けた時またはその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負う。
事例 Aを売主、Bを買主とする建物の売買契約が成立し、その契約で、Aは、Aの父が死亡したら、Bに建物を引き渡す旨合意していた。この場合、Aの父が死亡した後にAがBから建物引渡しの請求を受けた時、または、Aが父の死亡を知った時のいずれか早い時を過ぎても、Aがその建物を引き渡さないときは、履行遅滞となる。
③ 期限の定めがない場合
イ) 原則
債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。
事例 Aを売主、Bを買主とする建物の売買契約が成立し、その契約で、AがBに建物を引き渡す時期については何も定めていなかった。この場合、AがBから建物引渡しの請求を受けた時を過ぎても、Aがその建物を引き渡さないときは、履行遅滞となる。
ロ) 消費貸借契約に基づく債務
消費貸借契約において返還の時期を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けて相当の期間を経過した時から遅滞の責任を負う。
事例 BがAに10万円を期限の定めなく貸し付けた。この場合、AがBから10万円の返還を請求されて相当の期間を経過した時を過ぎても、Aが10万円を返還しないときは、履行遅滞となる。
ハ) 不法行為に基づく損害賠償債務
不法行為の時から当然に遅滞の責任を負う(履行の請求を要しない)。
(2) 履行不能
履行不能とは、債務者が債務を履行したくても履行できない場合である。債務の履行が不可能かどうかは、契約その他の債務の発生原因および取引上の社会通念に照らして判断される。したがって、物理的に債務の履行が不能になる場合に限らない。なお、金銭債務の不履行については、履行遅滞にはなっても、履行不能になることはない。
履行不能となった場合、債権者は、その債務の履行を請求することができない。
履行不能には、「原始的不能」と「後発的不能」の2つがある。
① 原始的不能
原始的不能とは、契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時にすでに不可能になっている場合をいう。このような契約成立時から債務の履行が不可能な契約も、原則として、有効に成立する。
事例 A所有の建物につきAB間で売買契約が成立したが、その契約が締結された日の前日に、その建物が火災によって消滅していた。契約締結時にそもそもAはBに建物を引き渡すことができなかったわけだが、このような場合を原始的不能という。
② 後発的不能
後発的不能とは、契約の成立(債務の発生)後に債務の履行が不可能になった場合をいう。
事例1 A所有の建物につきAB間で売買契約が成立したが、引渡しまでの間に、その建物が火災によって消滅してしまった。AはBに建物を引き渡すことができないが、このような場合を後発的不能という。
事例2 A所有の建物につきAB間で売買契約が成立したが、Bが登記をするまでに、その建物がCに二重譲渡され、先にCが登記をしてしまった。法律上、AはBに建物を引き渡すことができなくなるが、上記事例1のように物理的に債務の履行が不能となる場合だけでなく、このように法律的に債務の履行が不能になる場合も履行不能になる。
■損害賠償請求
(1) 債務不履行による損害賠償
債務者がその債務の本旨(本来の目的)に従った履行をしないときまたは債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。これは債務不履行をした債務者への責任追及であるので、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因および取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、債務者は損害賠償の責任を免れる。
損害賠償は、原則として、金銭によるとされるが、特約により他の方法で行うこともできる。
(2) 損害賠償額の予定
債務不履行に基づく損害賠償を請求する場合、債権者は、債務不履行による「損害の発生」と「その額」を証明しなければならないが、この証明が現実には難しい。そこで、あらかじめ、損害賠償額を予定しておくことが認められている。これがあると、債権者は債務不履行があったことを証明するだけで、予定された額の損害賠償を請求することができる。
Point 当事者が損害賠償額の予定をしていても、その合意が暴利行為として公序良俗違反となる場合は、裁判所はその額を適切な額に減額することができる。
(3) 金銭債務の特則
売買代金の支払いや借入金の返済のように「金銭の給付を目的とする債務」(金銭債務)の不履行については、以下の特則がある。
① 金銭債務は履行不能にならない。
② 損害賠償の額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。 ③ 債権者は、損害の証明をすることを要しない。 ④ 債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。 |
Point 法定利率は、改正法施行時の3%を基準に、3年ごとに一定のルールで見直しが行われる。