- 民法物権ー4.所有権
- 1.相隣関係
- 相隣関係
- Sec.1
■隣地に関する相隣関係
(1) 隣地使用権・立入権
土地の所有者は、境界またはその付近において障壁や建物を造ったり修繕するため、必要な範囲内で「隣地」の使用を請求することができる。ただし、「隣家」へ立ち入るには隣人の承諾が必要である(民法209条1項)。
隣地、隣家への立入りによって隣人が損害を受けたときは「償金」を支払わなければならない(民法209条2項)。
(2) 公道に至るための通行権(囲繞地通行権)
① 他の土地に囲まれて公道に通じない土地(袋地)の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地(囲繞地・隣地)を通行することができる(民法210条1項)。
池沼、河川、水路もしくは海を通らなければ公道に至ることができないとき、または崖があって土地と公道とに著しい高低差があるとき(準袋地)も同様である(民法210条2項)。
この通行権は、公道に通じない土地の所有者に、法律上当然に生じるものである。したがって、公道に通じない土地の所有者は、その土地を囲んでいる他の土地の所有者に、当然に通行権を主張することができる。
判例は、自動車の通行を前提とする通行権の成立も認めている。
判例 | (最H18.3.16) |
自動車による通行を前提とする210条通行権の成否及びその具体的内容は、他の土地について自動車による通行を認める必要性、周辺の土地の状況、自動車による通行を前提とする210条通行権が認められることにより他の土地の所有者が被る不利益等の諸事情を総合考慮して判断すべきである。 |
判例 | (大S13.6.7) |
袋地又は準袋地かどうかは土地の利用方法をも考慮して定められるため公路に至る道路があっても、その土地の用途に応じた利用をするのが不適当な状態にあるときは、袋地又は準袋地として通行権が認められる。例えば、その土地が田地であるときに、肥料その他収穫物の運搬に支障があれば袋地であり(大T3.8.10)、その土地が石材を産出する山林であるときは石材産出に甚だしく困難であれば袋地である。 |
② 通行の場所および方法は、通行者にとって必要であり、かつ、他の土地のために損害が最も少ないものを選ばなければならない(民法211条1項)。
通行権者は、必要があれば通路を開設することもできる(民法211条2項)。
③ 通行権者は通行地の損害に対して償金を支払わなければならない。ただし、通路の開設のために生じた損害に対するものを除き、1年ごとにその償金を支払うことができる(民法212条)。
④ 通行権を主張するのに、所有権の登記を備えている必要はない(最S47.4.14)。
隣地間の利用調整が目的であるし、また登記で決すべき対抗問題でもないからである。
判例 | (最S47.4.14) |
袋地所有権を取得した者は、所有権取得登記を経由していなくても、囲繞地の所有者ないし利用権者に対し囲繞地通行権を主張することができる。210条の趣旨は、袋地の効用を全うさせるためであり、不動産取引の安全を図るための公示制度とは関係がない。 |
判例 | (最S36.3.24) |
賃借人も対抗力を備えていれば通行権をもつ。賃借権についても同様の利用調整の問題が生じうるし、対抗力を備えれば物権的扱いができるからである。 |
⑤ 元は袋地でなかった土地が、(共有物)分割や一部譲渡によって袋地となったときは、その土地所有者は他の分割地、譲受地(つまり元の土地)のみを通行することができる。
この場合の通行については、償金を支払う必要はない(民法213条)。
もともと袋地でなかったC地がB地を分筆した結果、袋地となった場合、分筆をしたC地の所有者はB地についてだけに通行権をもつ。A地の方が便利であってもA地を通行することはできない。
判例 | (最S44.11.13) |
本条(213条)は、同一人が所有する数筆の土地の一部が譲渡された場合にも適用される。 |
判例 | (最H5.12.17) |
本条(213条)は、同一人が所有する数筆の土地の一部が担保権の実行として競売された場合にも適用される。 |
判例 | (最S37.10.30) |
本条(213条)は、土地所有者が1筆の土地を分筆して、その全部を同時に数人に譲渡して袋地を生じた場合にも適用される。 |
判例 | (最H2.11.20) |
残余地(213条により通行の負担を受けているB地)が売却され、特定承継が生じた場合でも、本条(213条)の通行権は消滅しない。 |
⑥ 前記のC地の所有者がB地に隣地通行権(囲繞地通行権)を有する場合において、A地所有者との契約によってA地に通行地役権を取得することは差し支えなく、この場合B地の通行権は消滅する。
■水に関する相隣関係
① 自然水流に対する妨害の禁止
土地の所有者は、隣地から水が自然に流れて来るのを妨げてはならない(民法214条)。
② 水流の障害の除去
水流が天災その他避けることができない事変により低地において閉塞(へいそく)したときは、高地の所有者は、自己の費用で、水流の障害を除去するため必要な工事をすることができる(民法215条)。
③ 水流に関する工作物の修繕等
他の土地に貯水、排水または引水のために設けられた工作物の破壊または閉塞により、自己の土地に損害が及び、または及ぶおそれがある場合には、その土地の所有者は、当該他の土地の所有者に、工作物の修繕もしく障害の除去をさせ、または必要があるときは予防工事をさせることができる(民法216条)。
④ 費用の負担についての慣習
②③の費用について別段の慣習があるときは、その慣習に従う(民法217条)。
⑤ 雨水を隣地に注ぐ工作物の禁止
土地の所有者は、直接に雨水を隣地に注ぐ構造の屋根その他の工作物を設けてはならない(民法218条)。