- 民法物権ー2.物権の変動
- 7.物権の消滅
- 物権の消滅
- Sec.1
1物権の消滅
物権の絶対的消滅原因には、「すべての物権に共通のもの」と、「各種の物権に特有のもの」とがある。すべての物権に共通の消滅原因としては、物の滅失、消滅時効、放棄、混同、公用徴収などがあり、そのうち消滅時効については民法総則に規定があり、物権総則が規定しているのは「混同」のみである。ここでは、「混同」による物権の消滅を取り上げる。
■混同による権利の消滅
「混同」とは、相対立する2つの法律上の地位が同一人に帰属することをいう。通常、これら2つの地位を存続させておくのは無意味だから、一方は他方に吸収されて消滅する。混同には、物権混同と債権混同があるが、ここでは主に物権混同について取り上げる。
(1) 物権混同
所有権と所有権以外の物権が同一人に帰した場合である。同一物について所有権および他の物権(制限物権)が同一人に帰属したときは(物権混同)、当該他の物権は、消滅する(民法179条1項)。
Bは所有者となったため、自己の所有地上に抵当権や地上権をもっていても無意味であるため、抵当権または地上権が混同によって消滅する(物権混同)。
(2) 債権混同
債権者と債務者が同一人に帰した場合である。Aが自分に100万の債権を持っても無意味であるため、Aの債権は消滅する(債権混同)。
■物権混同の例外
同一物について所有権および他の物権が同一人に帰属したときは、前記のとおり当該他の物権は、消滅するのが原則であるが、その物または当該他の物権が第三者の権利の目的であるときは、混同による消滅はしない。このような場合は、本人または第三者のために両方の権利を存続させておく実益があるからである。
(1) その物が第三者の権利の目的であるとき
たとえば、AがCに対する債権を担保するためにC所有の甲土地に1番抵当権の設定を受けた後、Bがその土地に2番抵当権の設定を受けた場合に、AがCからその土地を贈与されてもAの抵当権は消滅しない。
Aは引き続き自己の所有地上に抵当権を有することになる。2番抵当権者Bが抵当権を実行した場合Aはせっかく取得した所有権を失う結果となり、さらには混同により1番抵当権も消滅していると競売代金からの1番抵当権者として優先弁済も受けられないという酷な結果となるからである。
上図③でCから甲土地の所有権を取得したのが2番抵当権者Bである場合には、このような不都合はないので原則通りBの抵当権は混同によって消滅する。
(2) 混同によって消滅する制限物権が第三者の権利の目的であるとき
たとえば、AがCに対する債権を担保するためにC所有地に抵当権の設定を受けた後、甲に対する債務を担保するためにその抵当権を甲の転抵当権の目的とした場合に、AがCからその土地の所有権を譲り受けてもAの原抵当権は消滅しない。
■その他すべての物権に共通の消滅原因
① 目的物の滅失
物権の客体である物が消滅すると、物権も消滅する。たとえば、建物が火災で焼失すると、その上の所有権などの物権も消滅する。
② 消滅時効
所有権以外の物権は原則として、20年の消滅時効によって消滅する(民法167条)。
一方、所有権は消滅時効にかからないが、他人がその物を時効取得すると、その反射的効果として所有権も消滅することがあるのは前述のとおりである。
③ 放棄
物権の放棄は、権利者の意思表示のみによって物権消滅の効果を生ずる。しかし、物権の放棄によって他人の権利を害するときは放棄はできない(民法268条1項、398条)。