• 民法物権ー2.物権の変動
  • 6.動産の即時取得
  • 動産の即時取得
  • Sec.1

1動産の即時取得

堀川 寿和2021/12/23 11:39

意義

「即時取得」とは、所有権その他の処分の権限がない単なる占有者を正当な権利者と誤信して取引した者について、民法192条の要件を満たすことを条件に当該動産につき完全な権利を取得することをいう。




即時取得の制度趣旨

 本来は無権利者からは権利を取得できないのが大原則であるが、登記・登録制度のない動産については、引渡しを対抗要件とし、しかもこの引渡しは現実の引渡しのほか観念の引渡しでも足りるため、不動産に比べて占有者が無権利者であることを知ることが難しいこともある。よって192条の要件を満たす場合には、特別に動産の占有に公信力を認め、動産を占有している者を所有者だと善意・無過失で誤信してそれを買い受けた者は有効に所有権が取得できることにして、動産の取引の安全を図った。

即時取得の要件

 即時取得は取引の安全を図れる反面、真の所有者の権利を犠牲にすることになる。よって192条の要件を満たす場合にのみ、その成立が認められる。



(1) 取引の客体が動産であること

 即時取得が認められるのは「動産」に限られる。ただし、登記・登録制度のある動産(登記船舶、登録自動車、航空機)については即時取得の適用はない。よって道路運送車両法による登録自動車については即時取得が成立しない(最S62.4.24)。未登録自動車(最S45.12.4)、未登記船舶(最S41.6.9)については即時取得の適用がある。

 金銭は動産の一種であるが、占有者=所有者とみなされるため即時取得の適用はない。

(最S39.1.24)


判例(最S39.1.24)
金銭は通常、物としての個性を有せず、単なる価値そのものと考えるべきであるから、金銭の所有権者は、特別の事情がない限りその占有者と一致する。また金銭の占有者はその占有につき正当な権利があるか否かにかかわらず、価値の帰属者、すなわち所有者とみるべきであるから、金銭につき民法192条の適用はない。


(2) 取引による取得であること

① 取引行為

 ここでいう取引には、売買はもちろん、贈与、質権設定、弁済、代物弁済、消費貸借のための給付も含まれる。執行債務者の所有に属さない動産が強制競売に付された場合でも、競落人が192条の要件を満たすときはその動産の所有権を即時取得する(最S42.5.30)。


判例(最S42.5.30)
執行債務者の所有に属さない動産が強制競売に付された場合でも、競落人(買受人)が192条の要件を満たすときはその動産の所有権を取得する。

② 非取引行為

 相続による取得は取引行為でないため即時取得は適用されない。

 他人の山林を自己の山林と誤信して伐採し、動産と化した木材を取得した場合も即時取得できない(大T4.5.20)。しかしこの伐採者から伐木を善意で譲り受けた者には即時取得の可能性はある。


③ 有効な取引行為

 当該取引行為に瑕疵がある場合、たとえば制限行為能力、錯誤、詐欺、強迫などで取り消されたり無効となった場合、または無権代理の場合、即時取得の適用はない。



 しかし、このような瑕疵ある取引により動産を占有している者からさらに譲り受けた者については即時取得ができる。



(3) 無権利者または無権限者からの取得であること

(4) 取得が平穏・公然・善意・無過失であること

① 通常の取引行為による取得であれば、平穏・公然の取引である。

② 取得者が、前主が無権利者(無権限者)であることを知らず、かつ知らないことにつき過失がないことが必要である(最S26.11.27)。



判例(最S47.11.21)
法人における善意・無過失は、その法人の代表者につき決すべきであるが、代表機関が代理人によって取引行為をしたときは、その代理人について決すべきである。


③ 善意・無過失の認定時期

 占有開始時に具備すれば足り、その後に悪意に転じても即時取得は成立する。

④ 善意・無過失の立証責任

 即時取得の成立を否定する者(原権利者)に立証責任がある。民法186条1項により、占有者の善意・平穏・公然が推定され、無過失については推定されないが、民法188条が占有の適法性を推定するので、占有者を権利者と信じて譲り受けた者の無過失も推定されるからである。


(5) 取得者が占有を取得すること

① 占有の取得

 ここでいう占有の取得に「現実の引渡し」「簡易の引渡し」さらには「指図による占有移転による引渡し」でもよい(最S57.9.7)が、判例(最S35.2.11)は「占有改定による引渡し」では即時取得は認められない。


判例(最S35.2.11)
192条による権利取得のためには、一般外観上従来の占有状態に変更を生ずるがごとき占有を取得することを要し、かかる変更をきたさない、いわゆる占有改定の方法による占有取得では本条の適用はない。