• 民法物権ー2.物権の変動
  • 3.登記の手続き
  • 登記の手続き
  • Sec.1

1登記の手続き

堀川 寿和2021/12/23 11:08

登記請求権

 「登記請求権」とは、登記権利者が登記義務者に対して、登記の申請につき協力すべきことを請求する権利をいう。登記は登記権利者、登記義務者の共同申請によりなされるのを原則とするが、登記義務者が登記申請に協力しないと登記することができない。そこで登記権利者が登記義務者に対し登記手続に協力すべきことを請求する権利を認める。これが登記請求権である。




登記請求権の発生原因と具体的請求内容

 登記請求権は、具体的に次の3つのものがある。

① 物権的登記請求権

② 物権変動的登記請求権

③ 債権的登記請求権


(1) 物権的登記請求権

 物権的登記請求権とは、現在の実態的な物件関係と登記が一致しない場合に、この不一致を除去するため、物権そのものの効力として当然に発生する登記請求権であり、物権的請求権の一種である。したがって、物権がなければ、物権的登記請求権は生じない。

 たとえば、不正登記とか無効登記が存在するときは、現在の権利関係と登記が一致していない場合であり、真の権利者はその不一致を除去するために、抹消登記請求権を有する。


① 未登記不動産につき無権利者名義で所有権保存登記がなされた場合



② A→Bと移転登記がなされたが、AB間の移転が無効な場合



(2) 債権的登記請求権

 債権的登記請求権とは、当事者間の登記をする旨の合意に基づいて発生する登記請求権である。したがって、債権債務関係がなければ、債権的登記請求権は生じない。

 たとえば、賃借権は債権であるため、土地や建物の賃貸借契約が締結されても賃借人は賃貸人に対して賃借権設定登記を当然には請求できず、当事者間で登記をする合意(特約)をした場合のみ登記請求権が発生する。



(3) 物権変動的登記請求権

 物権変動的登記請求権は、物権変動の事実そのものに基づいて発生する登記請求権である。したがって、物権変動が存在しなければ、物権変動的登記請求権は生じない。

① A→B→C売買において、登記名義がいまだAにある場合、買主Cが自己の売主Bに対して所有権移転登記請求ができるのは当然であるが(大M37.3.2)、第一の買主BにもCへ転売によりすでに所有権者でなくなったB名義の登記請求が認められるのかについて、Bは売主としてCに登記を移転する義務を負い、その前提としてAに対する登記請求権が認められるとする。

② 売主の登記引取請求権

 A・B間の売買において、AからBに「登記を引取れ!」と請求する権利が認められるか否かについて、かつてはこれを否定したこともあったが、今日では判例(最S36.11.24)・通説ともこれを認めている。登記名義があることによって引き続き売主に固定資産税が課されたり、所有者としての責任を負わされたりする危険があるからである。


中間省略登記

(1) 意義

 「中間省略登記」とは、たとえばA→B→Cと不動産所有権が移転したにもかかわらず、中間者Bを飛ばしてA→Cへ直接移転登記をする場合のように、中間を省略した登記をいう。



(2) 中間省略登記請求権
 上記の事例で、CはAに対して直接自己への移転登記請求ができるか?
 判例・通説は、原則としてこれを否定し、ただA・B・C全員の合意があるか、もしくはA・C間の中間省略の特約について中間者Bの同意がある場合に限り、これを認める(最S40.9.21)。

判例(最S40.9.21)
甲・乙・丙と順次に不動産の所有権が移転したのに登記名義は依然として甲にある場合に、所有者丙は、登記名義人および中間者の同意ある場合は別として、甲に対して、直接自己への移転登記をすべき旨の請求はできない。

判例(最S46.11.30)
A・B・C三者間で中間省略登記の合意が成立した場合でも、これによって中間者BのAに対する移転登記請求権が当然に失われるものではない。

(3) 中間省略登記の効力
 中間者Bを飛ばしてなされた中間省略登記は有効か?判例(大T5.9.12)は現在の権利関係と登記とが一致する限り有効であるとする。
 しかし、中間者Bの同意が必要であり、Bの同意なくしてなされた場合は無効であり、Bは移転登記の抹消を請求することができる(大S8.3.15)。もっとも、その場合でも、中間者Bに抹消を求める正当な利益がないときは抹消請求は認められない(最S35.4.21)。正当な利益とは、たとえばBがCから売買代金未受領であり、同時履行の抗弁権を有するような場合である。また、中間者以外の第三者から抹消請求をすることも認められない(最S44.5.2)。