• 権利関係ー4.債権総論
  • 2.債権の消滅
  • 債権の消滅
  • Sec.1

1債権の消滅

堀川 寿和2021/11/17 11:18

債権の消滅原因

 不動産の売買契約は、売主が物件を引き渡し、さらに登記の手続きに協力し、これに対して買主が代金を支払えば終了する。つまり、お互いの債権が消滅するわけである。このように約束どおりに事を運び債権を消滅させることを弁済という。債権の消滅原因では宅建試験上、「弁済」「相殺」からの出題がある。大切なところなのでしっかり学習しよう。


債権は、以下の原因で消滅する。

弁済債務者が債権者に対して、債務の本旨(本来の目的)に従って、債務を履行し、債権を消滅させること。
相殺2人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときに、当事者の一方から相手方に対する相殺の意思表示によって、各債務者が、その対当額について、その債務を免れること。
更改当事者が従前の債務に代えて、新たな債務であって次の①~③に該当するものを発生させる契約をすることにより、従前の債務が消滅すること。
① 従前の給付の内容について重要な変更をするもの
② 従前の債務者が第三者と交替するもの
③ 従前の債権者が第三者と交替するもの

免除債権者が債務者に対して債務を免除する意思を表示することにより、その債権が消滅すること。
混同債権および債務が同一人に帰属することにより、その債権が、消滅すること。


弁済

 弁済とは、債務の本旨(本来の目的)に従って、債務を履行することである。例えば、1,000万円の金銭債務であれば、1,000万円支払うことである。

 債務者が債権者に対して債務の弁済をしたときは、その債権は、消滅する。債務が履行されれば、債権はその目的を達するからである。


(1) 弁済者

① 債務者の弁済

 債務者による弁済は、当然に、有効である。


② 第三者の弁済

イ) 原則

 債務の弁済は、第三者もすることができる。したがって、第三者による弁済も、有効である。




ロ) 第三者の弁済ができない場合

(a) 第三者の弁済が債務者の意思に反する場合

 弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。ただし、債務者の意思に反することを債権者が知らなかったときは、この限りでない。



Point 弁済について正当な利益を有する第三者は、債務者の意思に反しても、弁済をすることができる。弁済について正当な利益を有する第三者とは、債務者の代わりに弁済をしないと、法律上の不利益を受けるおそれのある者であり、例えば次のような者である。

1.物上保証人(他人の債務について自分の財産を担保として提供している人)

2.抵当不動産の第三取得者(抵当権のついた不動産を売買などで取得した人)

3.借地上の建物の賃借人


(b) 当事者が第三者の弁済を禁止(または制限)する旨の意思表示をした場合

 当事者が第三者の弁済を禁止し、または制限する旨の意思表示をしたときは、第三者が債務を弁済することができない。



(c) 債務の性質が第三者の弁済を許さない場合

 その債務の性質が第三者の弁済を許さないときは、第三者が債務を弁済することができない。例えば、有名な歌手の歌を歌うという債務は、他人が代わってすることができない。


(2) 弁済受領者

① 受領権者に対する弁済

 債権者に対する弁済は、当然に、有効である。また、法令の規定または当事者の意思表示によって弁済を受領する権限を付与された第三者に対する弁済も有効である。これらの者は、弁済受領権限を有するので、受領権者という。


② 受領権者以外の者に対する弁済

イ) 原則

 受領権者以外の者に対してした弁済は、原則として、無効である。ただし、その弁済によって、債権者が利益を受けた場合は、その限度において弁済は有効となる。


ロ) 受領権者としての外観を有する者に対する弁済

 受領権者以外の者であって取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するものに対してした弁済は、その弁済をした者が善意であり、かつ、過失がなかったときに限り、有効となる。このような者として、例えば、債権者の代理人と偽った者、受取証書の持参人、預金通帳と印鑑の所持人などがある。


事例 AがBに対して貸金債権を有している場合において、債務者Bが弁済した。



(3) 「弁済の提供」とその方法

 弁済には、ほとんどの場合に、債権者による受領が必要になる。例えば、1,000万円の金銭債務であれば、債務者が1,000万円を支払おうとしても、債権者が1,000万円を受け取ってくれなければ、弁済したことにはならない。このような場合にまで債務者が履行遅滞の責任を負うことになっては困る。そこで、弁済の前段階である「弁済の提供」をしていれば、債務者は、弁済の提供の時から、債務を履行しないことによって生ずべき責任(履行遅滞の責任)を免れることにした。

 弁済の提供とは、債務者が債務の履行に必要な準備をして、債権者に受領の協力を求めることである。弁済の提供の方法は、原則として、現実の提供である。1,000万円の金銭債務であれば、1,000万円を債権者のところに持参する必要がある。ただし、債権者があらかじめその受領を拒んでいるような場合や、債務の履行について債権者の行為を要するような場合は、弁済の準備をしたことを通知してその受領の催告をすること(口頭の提供)で足りる。1,000万円を債権者のところに持参する必要はなく、1,000万円が準備できたことを通知して、受領を求めるだけでよい。


(4) 弁済の方法

① 弁済の場所

 弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは、不動産などの特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所においてしなければならず(取立債務)、金銭の支払いなどその他の弁済は債権者の現在の住所においてしなければならない(持参債務)。


② 弁済の時間

 法令または慣習により取引時間の定めがあるときは、その取引時間内に限り、弁済をし、または弁済の請求をすることができる。


③ 弁済の費用

 弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする。ただし、債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは、その増加額は、債権者の負担とする。


(5) 特殊な弁済方法

① 代物弁済

 弁済をすることができる者(以下「弁済者」という)が、債権者との間で、債務者の負担した給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約をした場合において、その弁済者が当該他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する。

 例えば、1,000万円の金銭債務を負う者が、債権者と合意をして、1,000万円を支払う代わりに、不動産を引き渡すことで、金銭債務を消滅させるような場合である。


② 弁済供託

 弁済者は、次の場合には、債権者のために弁済の目的物を供託することができ、弁済者が供託をした時に、その債権は、消滅する。

イ) 弁済の提供をした場合において、債権者がその受領を拒んだとき。
ロ) 債権者が弁済を受領することができないとき。
ハ) 弁済者が過失なく債権者を確知することができないとき。

 弁済の目的物が供託された場合には、債権者は、供託物の還付を請求することができる。


(6) 弁済の効果

① 受取証書の交付請求

  弁済をする者は、弁済と引換えに、弁済を受領する者に対して受取証書の交付を請求することができる。つまり、弁済と受取証書の交付は同時履行の関係に立つ。


② 債権証書の返還請求

 債権に関する証書がある場合において、弁済をした者が全部の弁済をしたときは、その証書の返還を請求することができる。全部の弁済が先履行であり、弁済と債権証書の返還は同時履行の関係に立たない。


③ 弁済による代位

 債務者のために弁済をした者は、債権者に代位する。これは、弁済をした者が債務者に求償するにあたって、債権者に代わるべき地位が与えられるということである。

 ただし、その効果は債権譲渡に似ているので、弁済をするについて正当な利益を有しない者が債権者に代位する場合は、債権譲渡の対抗要件を備えないと、債務者や債務者以外の第三者に対して、債権者に代位したことを対抗することができない。

 債権者に代位した者は、債権の効力および担保としてその債権者が有していた一切の権利を行使することができる。


Point 「弁済につき正当な利益を有する者」とは、次のような者である。

1.連帯債務者

2.保証人

3.物上保証人

4.抵当不動産の第三取得者


相殺

 相殺とは、2人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときに、当事者の一方から相手方に対する相殺の意思表示によって、各債務者が、その対当額について、その債務を免れることをいう。


(1) 相殺することができる場合

① 相殺適状

 相殺をするためには、以下のすべての要件を満たしている必要がある。満たしている場合を相殺適状という。

イ) 当事者双方が互いに債権を有していること。
ロ) 双方の債権が同種の目的を持つ債権であること。
ハ) 双方の債権の弁済期が到来していること。
ニ) 双方の債権が有効に存在していること。


事例 AはBに100万円の貸金債権を有しており、BはAに80万円の代金債権を有している。また、双方の債権の弁済期は到来している。この場合に、Aが相殺を主張すると、Bの代金債権は全額消滅し、Aの金銭債権は同額(100万円のうち80万円分のみ)が消滅し、20万円になる。

 また、この場合に、Bのほうから相殺を主張することもできる。



Point1 相殺を主張する場合において、相殺しようとする側の債権を「自働債権」、相殺される側の債権を「受働債権」という。


Point2 双方の弁済期が到来していれば、いずれの方からでも相殺を主張することができる。


② 自働債権の弁済期が到来している場合(判例)

 自働債権(相殺される側の債務)の弁済期が到来しているときは、受働債権(相殺しようとする側の債務)の弁済期が到来していなくても、相殺を主張することができる。相殺しようとする者は、自分の期限の利益を放棄して、弁済期を早めることができるからである。

 それに対して、受働債権(相殺しようとする側の債務)の弁済期が到来していても、自働債権(相殺される側の債務)の弁済期が到来していなければ、相殺を主張することはできない。理由もなく、相手方の期限の利益を奪うことはできないからである。


事例 AはBに100万円の貸金債権を有しており、BはAに100万円の代金債権を有している。Aの債務の弁済期は7月1日であり、Bの債務の弁済期が4月1である場合、4月1日以降であれば、7月1日が到来していなくても、Aは期限の利益を放棄して相殺を主張することができる。

 この場合に、Bのほうからは、7月1日が到来しないと、相殺を主張することはできない。




Point 期限の利益とは、期限が到来するまでは債務を履行しなくてもよいという利益である。債務者はこの期限の利益を放棄して、期限が到来するまでに債務を履行することができる。それに対して、理由もないのに、他人の期限の利益を奪うことはできない。


③ 時効により消滅した債権を自働債権とする相殺

 時効によって消滅した債権がその消滅以前に相殺適状になっていた場合には、その債権者は、相殺をすることができる。


事例 AはBに100万円の貸金債権を有しており、BはAに100万円の代金債権を有している。Aの債務の弁済期が5月1日に到来し、この時相殺適状になったのだが、Aが相殺しないでいたところ、6月1日にAの債権が時効で消滅してしまった。この場合に、Aは時効により消滅した債権を自働債権として相殺することができる。



(2) 相殺することができない場合

① 当事者が相殺を禁止(または制限)する旨の意思表示をした場合

 当事者が相殺を禁止し、または制限する旨の意思表示をした(相殺禁止特約が付されている)場合は、相殺することができない。ただし、その意思表示(相殺禁止特約)は、第三者がこれを知り、または重大な過失によって知らなかったときに限り、その第三者に対抗することができる。


事例 AはBに対して貸金債権を有しているが、この債権には相殺禁止特約が付されていた。Aはこの貸金債権を相殺禁止特約について善意無重過失のCに譲渡した。この場合、BはCに対して相殺禁止特約を対抗することができない。



② 不法行為等により生じた債権を受働債権とする相殺

 次に掲げる債務の債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。

イ) 悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務
ロ) 人の生命または身体の侵害による損害賠償の債務

 これは、不法行為の誘発を防ぐためであったり(イ)、被害者の損害を現実に填補する必要があるから(ロ)である。

 ただし、その債権者がその債務に係る債権を他人から譲り受けたときは、この限りでない。


Point1 上記イの「悪意」による不法行為とは、「損害を加える意図」による不法行為という意味である。


Point2 上記ロの「人の生命または身体の侵害」は、イと違って、悪意によるものに限らない。また、この場合の損害賠償債務には、不法行為に基づくものだけでなく、債務不履行に基づくものも含まれる


Point3 損害賠償債権の債権者がこれを自働債権として相殺を主張することはできる


事例 AはBに対して貸金債権を有している。この場合において、(1)または(2)のような理由で、Bに、Aに対する損害賠償債権が発生した。

(1) 借金の返済に応じないBへの報復として、AがB所有の自動車に追突してBに損害を与えた。

(2) Aがハンドル操作を誤って自動車事故を起こしBが大けがをしてしまった。



③ 差押えを受けた債権を受働債権とする相殺

 差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することはできない。もし相殺の対抗を認めると、差押債権者が差し押さえた債権から弁済を受けることができなくなってしまい、差押えの意味がなくなってしまうからである。

 それに対して、差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え前に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができる。


事例 Aに対して100万円の貸金債権を有するCが、AがBに対して有する100万円の貸金債権を差し押さえた。このCによる差押え後に、BがAに対する100万円の代金債権を取得したとしても、Bは、その取得した債権による相殺をもってCに対抗することはできない。



(3) 相殺の方法および効力

① 相殺の方法

 相殺は、当事者の一方から相手方に対する意思表示によってする。この場合に、その意思表示には、条件または期限を付することができない。


② 相殺の効力

 相殺の意思表示は、双方の債務が互いに相殺適状になった時にさかのぼってその効力を生ずる。相殺の意思表示があった時からではない。