• 民法総則ー2.民法総則
  • 3.制限行為能力者制度
  • 制限行為能力者制度
  • Sec.1

1制限行為能力者制度

堀川 寿和2021/12/22 15:05


 「行為能力」とは、契約などの法律行為を単独で有効にすることのできる能力である。行為能力が制限されている者を制限行為能力者という。民法は、制限行為能力者として、未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人の4つを定めている。
 いったん自分で結んだ契約(約束)は守らなければならない。これが民法の考え方である。しかし、なかには契約をすることの責任がわからない人や、契約の意味すら理解できない人もいる。そこで、これらの人々を自由な取引競争の犠牲から守るために、制限行為能力者として一定の契約は一人でできないことにしておき、一人で契約をしてしまった場合は、それがたとえきちんとした契約であっても後日取り消すことができるようにしているのである。


学習のポイント

1. 制限行為能力者の種類

2. 制限行為能力者の保護の方法

3. 追認と催告


意思能力

 「行為能力」について学習する前に、まずは「意思能力」について説明しておく。「意思能力」とは「自分がした意思表示の意味を理解することができる能力」である。有効に意思表示を行うには、「意思能力」が備わっている必要がある。意思能力は、子供であれば6~7歳くらいから備わりだすとされる。

 契約の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その契約は、無効となる(3条の2)。意思能力を有しない者(意思無能力者)がした意思表示は、その意味が理解できないまました意思表示であって、その意思に基づく意思表示とは言えないからである。


制限行為能力者制度

 このように、意思能力を有しない幼児や泥酔者、重い精神上の障害がある者などが契約をした場合は、意思能力がないために自分に不利な契約をしてしまったとしても、その契約は無効となり、これらの人は保護される。しかし、意思能力の有無が判定されるのは「意思表示をした時」であるため、契約の無効を主張する者は意思表示をした時に自分が意思無能力者であったことを証明しなければならず、これは現実的にはかなり難しい。また、それが証明されて契約が無効になったとしても、「一見して意思無能力者のようには見えないから契約したが、実は意思無能力者だった」というような場面では、契約の相手方が不測の損害を被る可能性がある。

 そこで民法は、「未成年者」と、判断能力の不十分な成年者を判断能力の程度に応じて「成年被後見人」「被保佐人」「被補助人」に分け、この4種類を「制限行為能力者」とし、それぞれに保護者をつけて、単独でした契約は取り消せるという制度をおいたのである。

 制限行為能力者制度では、契約をした時に制限行為能力者であったことを証明すれば契約を取り消すことができるので、契約をした時の意思能力の有無を証明する必要はなく、判断能力の不十分な人たちを手厚く保護することができる。また、契約の相手方も、未成年者かどうかは戸籍謄本を見れば分かるし、それ以外の3種類は登記されているため、公的な証明書によってそうであるかないかが判別できる。したがって、相手方も安心して契約できるようになる。


制限行為能力者保護者
未成年者年齢が18歳に達しない者親権者
未成年後見人
成年被後見人精神上の障害により、事理を弁識する能力を欠く常況にある者で、家庭裁判所の後見開始の審判を受けたもの成年後見人
被保佐人精神上の障害により、事理を弁識する能力が著しく不十分である者で、家庭裁判所の保佐開始の審判を受けたもの保佐人
被補助人精神上の障害により、事理を弁識する能力が不十分である者で、家庭裁判所の補助開始の審判を受けたもの補助人


Point1 事理を弁識する能力を「欠く常況にある者」「著しく不十分である者」「不十分である者」が、当然に「成年被後見人」「被保佐人」「被補助人」となるわけではない。それぞれ、「後見開始の審判」「保佐開始の審判」「補助開始の審判」を受けることにより、「成年被後見人」「被保佐人」「被補助人」とされる(7条・8条、11条・12条、15条1項・16条)。


Point2 家庭裁判所は、本人や配偶者等の請求により、補助開始の審判をすることができるが、本人以外の者の請求によって補助開始の審判」をするには、本人の同意がなければならない(15条2項)。なお、「後見開始の審判」および「保佐開始の審判」については、本人以外の者の請求によってする場合であっても、本人の同意は不要である。


Point4 後見開始の審判をする場合において、本人が被保佐人または被補助人であるときは、家庭裁判所は、その本人に係る保佐開始または補助開始の審判を取り消さなければならない(19条1項)。そして、この規定は、保佐開始の審判をする場合において本人が成年被後見人または被補助人であるときや、補助開始の審判をする場合において本人が成年被後見人または被保佐人であるときに準用される(19条2項)。


Point5 「成年後見人」「保佐人」「補助人」は、家庭裁判所が職権で選任する(843条1項、876条の2第1項、876条の7第1項)。「未成年後見人」については、未成年者に対して最後に親権を行う者が遺言で指定することができ(839条)、この指定がないときは、一定の者の請求により、家庭裁判所が選任する(840条1項)。


Point6 「未成年後見人」「成年後見人」「保佐人」「補助人」は複数人であってもよく(840条2項、843条2項、876条の2第2項、876条の7第2項)、また法人であってもかまわない(840条3項、843条4項、876条の2第2項、876条の7第2項)。なお、法人は株式会社等の営利法人であってもよい。


Point7 「成年後見人」は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる(844条)。「未成年後見人」「保佐人」「補助人」も同様である(844条、876条の2第2項、876条の7第2項)。


Point8 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、一定の者の請求により、職権で「後見監督人」「保佐監督人」「補助監督人」を選任することができる(849条、876条の3第1項、876条の8第1項)。選任しなければならないわけではない。その職務は、「後見人」「保佐人」「補助人」の事務を監督すること等である(851条、876条の3第2項、876条の8第3項)。


【参考】後見開始・保佐開始・補助開始の審判を請求できる者

後見開始の審判
(7条)
本人、配偶者、4親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人、検察官
保佐開始の審判
(11条)
本人、配偶者、4親等内の親族、後見人(未成年後見人・成年後見人)、後見監督人(未成年後見監督人・成年後見監督人)、補助人、補助監督人、検察官
補助開始の審判
(15条1項)
本人、配偶者、4親等内の親族、後見人(未成年後見人・成年後見人)、後見監督人(未成年後見監督人・成年後見監督人)、保佐人、保佐監督人、検察官


制限行為能力者の保護とその方法

(1) 未成年者

 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人(親権者・未成年後見人)の同意を得なければならない(5条1項本文)。これは、未成年者は、原則として、単独で契約などをすることができないということである。未成年者が法定代理人の同意を得ずにした法律行為は、原則として取り消すことができる(5条2項)。例外的に、未成年者が単独ですることができ、取り消すことができないものは次の3つである。


① 単に権利を得または義務を免れる行為

 単に権利を得、または義務を免れる法律行為については、法定代理人の同意を得る必要はない(5条1項ただし書)。たとえば、プレゼントをもらう、借金を免除してもらうなどの行為は単独でできる。


② 法定代理人が処分を許した財産を処分する行為

 法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる(5条3項前段)。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする(5条3項後段)。たとえば、お小遣いで買い物をするなどの行為は、単独でできる。


③ 法定代理人から許可された営業に関する行為

  1種または数種の営業を許された未成年者は、その営業に関しては、成年者と同一の行為能力を有する(6条1項)。




(2) 成年被後見人

 成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる(9条本文)。これは、成年被後見人は、原則として、単独で契約などをすることができないということである。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、単独ですることができ、取り消すことができない(9条ただし書)。ハブラシやシャンプーを買ったり、食料品を買ったりする契約ぐらいは1人でできないと不便だからである。


Point1 成年被後見人が単独で、

日用品を購入した取消しできない
不動産の贈与を受けた取消しできる

Point2 成年被後見人が成年後見人の同意を得てやった行為であっても取り消すことができる


(3) 被保佐人

 被保佐人は、原則として単独で契約などをすることができる。ただし、被保佐人が「重要な財産上の行為」をするには、その保佐人の同意を得なければならない(13条1項)。そして、被保佐人が、保佐人の同意(またはこれに代わる裁判所の許可)を得ないで行った「重要な財産上の行為」は取り消すことができる(13条4項)。「重要な財産上の行為」とは、失敗したら大損害を被るような行為であり、具体的には、次の①~⑩に該当する行為である。


重要な財産上の行為
① 元本を領収し、または利用すること
② 借財または保証をすること
③ 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること(土地の売買など)
④ 訴訟行為をすること
⑤ 贈与、和解または仲裁合意をすること
⑥ 相続の承認もしくは放棄または遺産分割をすること
⑦ 贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、または負担付遺贈を承諾すること
⑧ 新築、改築、増築または大修繕をすること
⑨ 長期賃貸借(5年を超える土地の賃貸借、3年を超える建物の賃貸借、6か月を超える動産の賃貸借)をすること
⑩ 上記①~⑨の行為を制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人および補助人)の法定代理人としてすること。


Point1 単に贈与を受ける行為は、保佐人の同意を得る必要はない。


Point2 家庭裁判所は、本人や保佐人等の請求により、被保佐人が重要な財産上の行為以外の行為をする場合であってもその保佐人の同意を得なければならない旨の審判をすることができる(13条2項本文)。 


(4) 被補助人

 被補助人は、原則として単独で契約等をすることができる。ただし、被補助人が、補助人の同意またはこれに代わる裁判所の許可を得ないでした補助人の同意を要する特定の法律行為は取り消すことができる(17条4項)。なお、補助人の同意を要する行為は上記の「重要な財産上の行為」のうち、家庭裁判所の審判で必要と判断されたものである(17条1項)。