- 民法総則ー2.民法総則
- 1.人(権利の主体)
- 人(権利の主体)
- Sec.1
1人(権利の主体)
私権(私法上の権利)の主体となることができるのは「人」である。
■権利能力
権利能力とは、私法上の権利を行使したり、義務を負ったりすることができる資格をいう。民法は、「人」に対して権利能力を認めている。
「人」には、「自然人」(生身の体がある人間)だけでなく、「法人」(法律が「人」として認めた団体や組織)も含まれる。
■自然人
自然人とは、生身の体がある人間のことであり、法人と区別するために、自然人と呼ばれる。権利能力がない、あるいは制限された「自然人」は存在しない。
(1) 権利能力の始期
① 出生
私権の享有は、出生に始まる(3条1項)。これは、自然人は、出生によって権利能力を取得するということである。出生とは、胎児の身体が母体から全部露出することである。
② 胎児の権利能力
出生する前の胎児の段階では、原則として権利能力は認められない。しかし、民法は、次の3つに関しては、例外的に、胎児は「すでに生まれたものとみなす」旨の規定をおいている。
1.不法行為に基づく損害賠償請求(721条) 2.相続(886条) 3.遺贈(965条) |
判例によると、この「すでに生まれたものとみなす」の意味は、胎児が生きて生まれれば、不法行為等があった時点まで遡って権利能力を取得するという意味である(大判昭7.10.6「阪神電鉄事件」)。このような考え方は、停止条件説と呼ばれる。
Point 判例(停止条件説)によると、胎児の間はまだ権利能力がないので、胎児の母親などが、胎児の出生前の胎児を代理して、不法行為の加害者に対して損害賠償請求をしたり、加害者と和解したりすることはできない。したがって、親が胎児のためになした不法行為に基づく損害賠償請求に関する和解は、後に生まれた子を拘束しない(大判昭7.10.6「阪神電鉄事件」)。
(2) 権利能力の終期
① 死亡
自然人は、死亡により権利能力を失う。
数人の者が死亡した場合において、そのうちの1人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは、これらの者は、同時に死亡したものと推定する(32条の2)。同時に死亡したという扱いなので、お互いに相続は発生しない。
② 失踪宣告
自然人は、失踪宣告によっても、死亡したものとして扱われる。
失踪宣告とは、不在者の生死不明が長期間続いた場合に、一定の手続きのもとでその者が死亡したとみなして、法律関係を安定させる制度である。したがって、失踪宣告があれば失踪者について相続が開始するし、失踪者が婚姻していたのであれば、その配偶者は再婚できるようになる。ただし、失踪宣告は失踪者の権利能力を奪う制度ではないので、失踪者が失踪先で行った契約などの効果は、すべて失踪者に帰属する。
失踪宣告には普通失踪と特別失踪の2種類があり、いずれも利害関係人の請求により、家庭裁判所が失踪の宣告をする。
イ)普通失踪
不在者の生死が7年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる(30条1項)。失踪の宣告を受けた者は7年の期間が満了した時に、死亡したものとみなされる(31条)。
ロ)特別失踪
戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争が止やんだ後、船舶が沈没した後またはその他の危難が去った後1年間明らかでないときも、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる(30条2項)。失踪の宣告を受けた者は、その危難が去った時に、死亡したものとみなされる(31条)。
③失踪宣告の取消し
失踪者が生存すること、または死亡したものとみなされた時と異なる時に死亡したことの証明があったときは、家庭裁判所は、本人または利害関係人の請求により、失踪の宣告を取り消さなければならない(32条1項前段)。この取消しによって、失踪宣告ははじめにさかのぼってなかったものとして取り扱われる。
しかし、その取消しは、失踪の宣告後その取消し前に善意で(死亡したと信じて)した行為の効力に影響を及ぼさない(32条1項後段)。ただし、契約については、契約当事者双方とも善意であることが必要である(大判昭13.2.7)。
また、失踪の宣告によって財産を得た者(相続人など)は、その取消しによって権利を失う(32条2項本文)。ただし、現に利益を受けている限度においてのみ、その財産を返還する義務を負う(32条2項ただし書)。
事例Aが失踪宣告を受け、その妻Bが相続した。Bは相続した土地をCに売却したが、その後Aが生きて戻ってきたため、失踪宣告が取り消された。この場合、Bは相続によって得た財産については、現存利益のみをAに返還すればよい。また、B・Cがともに失踪宣告が事実に反することを知らなかったのであれば(善意)、失踪宣告の取消しがあっても、Cは有効に土地の所有権を取得することができる。
■法人
法人とは、自然人以外の団体や組織で、私法上の権利義務の主体となることができるものをいう。自然人以外の団体や組織であっても、法人は一定の範囲で権利能力が認められているので、契約の当事者になったり、財産を保有したりすることができる。
(1) 法人の成立等
法人は、民法その他の法律の規定によらなければ、成立しない(33条1項)。
学術、技芸、慈善、祭祀、宗教その他の公益を目的とする法人、営利事業を営むことを目的とする法人その他の法人の設立、組織、運営および管理については、この法律その他の法律の定めるところによる。
Point 一般社団法人および一般財団法人の設立、組織、運営および管理については、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」が定められている。
(2) 法人の権利能力
法人は、法令の規定に従い、定款その他の基本約款で定められた目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う(34条)。したがって、法人の代表者が法人の目的の範囲外の行為を行った場合、その行為は無効となる。
(3) 登記
法人は、この法律その他の法令の定めるところにより、登記をするものとする(36条)。
(4)法人の種類
法人を構成する要素に着目した分類
【社団法人】 一定の目的のもとに結合した人の団体
【財団法人】 一定の目的に捧げられた財産の集合と、それを管理する組織
法人の事業目的に着目した分類
【公益法人】 学術、技芸、慈善、祭祀、宗教その他の公益を目的とする法人
【営利法人】 営利を目的とする法人(会社)
(5) 権利能力なき社団
権利能力なき社団とは、実質的には社団法人と同様の実態をもちながら法人格のない団体をいう。権利能力なき社団とされているのは設立前の会社や法人化されていない町内会、同窓会等などがある。権利能力なき社団には権利能力が認められていない。