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1賃貸業への支援業務

堀川 寿和2021/12/21 14:37

賃貸用建物の企画提案

 賃貸住宅の企画提案には、入居者像を想定し、付加価値のある建物建築の提案を行うことが望まれる。


(1) 地主の意向の把握

① 短期回収・長期回収

 土地所有者が賃貸建物事業を行う場合に、事業期間をどの程度の期間で考えているのかにより、プランの優先事項や提案すべき建物の種類が異なってくる。

事業期間プランの優先事項提案すべき建物の種類
10年~20年
(比較的短期間)
コスト優先アパートやローコストのマンション
20年~30年
(中期)
コストより今後も激化が続く近隣物件との差別化を優先付加価値のついたマンション
30年~50年
(長期)
コストより近隣物件との差別化を優先ライフサイクルコストを抑える仕様のマンション
50年~100年
(超長期)
コストより近隣物件との差別化を優先ライフサイクルコストを抑えるだけでなく、スケルトン・インフィルまで視野に入れたマンション


Point 10年間から20年間の比較的短期の事業期間を考えている土地所有者に対しては、コストを優先し、アパートを提案する。


② 建物賃貸事業の建物用途によるリスクの違い

 建物賃貸事業では、建物用途によってもリスクの違いがある。

建物用途リスク
オフィスビルや店舗ビルハイリスク・ハイリターン
賃貸住宅ローリスク・ローリターン


Point 賃貸住宅の経営は、オフィスビルや店舗ビルの賃貸経営に比べると、ローリスク・ローリターンであるといえる。

(2) 賃貸住宅の入居者像

 賃貸住宅の入居者像に応じて、好まれる住宅も異なる。

入居者像特徴住宅指向
仕方なく賃貸派持家を購入する資力・意欲がない。家賃が安ければ安いほどよい。
とりあえず賃貸派将来は持家を購入したいので、現在は倹約。必要最小限の居住性能は求めるが、賃料が安いほどよい。
あえて賃貸派持家と賃貸とを比較したが、現時点では賃貸住宅で生活内容を重視したい。住空間に多少付加価値のついたグレードを求める。
当然賃貸派家を持つことにはこだわらない。単身赴任者・転勤族や学生など賃貸住宅で十分。仮の住まいの意識で、設備等の機能が充実していればOK。ただし、必要最低ラインもグレードアップしている。
積極的賃貸派住宅は賃貸で十分。良質な賃貸住宅に住み、現在の生活をエンジョイして、自由気ままに暮らしたい。賃貸住宅の持つメリットを最大限実現したい。分譲マンションの賃貸化された物件を好まれるケースが少なくない。

(3) 付加価値のある賃貸建物

① ペット可能賃貸住宅

 近年のペットへの関心の高まりとともに、ペット可能な賃貸住宅が増えている。

 ペット可能な賃貸住宅とはいえ、どのようなペットでも飼育できるわけではなく、一般的には、動物嫌いや動物アレルギーの居住者とのトラブルを避けることを念頭に、室内での飼育を中心にして、共用部分で他の住民との接触が最小限に抑えられる程度なら許可を与えることが基本ルールとされている。

 ペット可能賃貸住宅で一番のトラブルが発生するのは、糞と鳴き声の問題である。このため、ペット可能賃貸住宅を建設する場合は、動物専用汚物流し(排泄物を処理する設備)や足洗い場を設置しなければならない。しかし、このようなハード面での対応策をとったとしても、鳴き声については、近隣住宅だけでなく、ペット可能賃貸住宅内の他の居住者からの苦情がもたらされることがある。


② 音楽専用マンション

 音楽専用マンションなどの特定の趣味等にターゲットを絞った賃貸住宅を企画することは、(音楽専用マンションであれば音楽大学の近くかその沿線など)供給するエリアでの需給バランスが合えば、その希少性から賃料を高く設定できる可能性が高い。


③ 高齢者専用の賃貸住宅

 サービス付き高齢者向け住宅とは、賃貸住宅または有料老人ホームにおいて、状況把握・生活相談サービス等を提供するものである。


④ シェアハウス

 シェアハウスとは、建物賃貸借の目的物である建物を、複数の者がキッチン、浴室等の施設を共用し、それ以外の居住部分を専用し使用する形態の住宅であり、賃貸借契約や管理の面において通常の共同住宅と異なる。シェアハウスの場合、管理業者が複数の借主の間に立って主導的な役割を果たす必要に迫られる場合があるので、通常の賃貸住宅より管理業務に要する時間が多くなる。


Point 宿泊用に提供された個人宅の一部やマンションの空室等に宿泊するものは「民泊」であり、シェアハウスとは異なる。


⑤ DIY型賃貸住宅

 DIY型賃貸借とは、工事費用の負担者が誰であるかにかかわらず、借主の意向を反映して住宅の修繕を行うことができる賃貸借契約のことであり、空き家を活用するための仕組みとしても期待されている。


⑥ 賃貸住宅の付加設備

 賃貸住宅の付加設備として、宅配ロッカーは、最近のインターネット通販市場の成長の影響もあって、借主のニーズの高い設備となってきている。


保険

(1) 保険とは

 賃貸不動産の経営における危険を軽減・分散するための重要な方策の1つに保険の利用がある。保険とは、将来起こるかもしれない危険に対し、予測される事故発生の確率に見合った一定の保険料を加入者が公平に分担し、万一の事故に対して備える相互扶助の精神から生まれた助け合いの制度である。保険は、将来起こるかもしれない危険に備える合理的な防衛策のひとつである。


(2) 保険商品の分類

 保険商品の分類には、保険業法上、「第一分野」「第二分野」「第三分野」という分類方法がある。

分類保険の種類内容
第一分野生命保険人の生存または死亡について保険金を支払うもの
第二分野損害保険偶然の事故による生じた損害に対して保険金を支払うもの
第三分野傷害・医療保険人のけがや病気などに備えるもの

(3) 賃貸不動産経営と保険

 賃貸不動産の経営において最も有用な保険は、保険業法上の「第二分野」に分類される損害保険である。その中でも、賃貸不動産の経営に特に関係の深いものとして、火災保険と地震保険がある。


① 火災保険

 賃貸不動産管理の経営に特に関係の深い保険のひとつとして、火災保険がある。火災保険は、建物や家財、什器・備品に損害が生じた場合に補償するものである。

 住宅に関する火災保険である「すまいの保険」は、火災、落雷、破裂・爆発、風災、雹(ひょう)災、雪災により建物や家財に生じた損害に備える保険である。


② 地震保険

 地震、噴火またはこれらによる津波を原因とする建物や家財の損害を補償するものは地震保険と呼ばれる。地震保険は、住宅に関する火災保険に付帯して加入しなければならず、地震保険のみ単独で加入することはできない。賃貸不動産の建物所有者が火災保険に加入する場合、地震保険にも加入しておくことが一般的である。

 地震保険の保険金額は、地震保険を付帯する主契約の火災保険の保険金額の30%から50%の範囲で加入する必要がある。ただし、建物は5,000万円、家財は1,000万円が限度である。


Point 保険は、保険会社の商品によって特性が異なり、補填の対象と限度も異なっている。そのため、保険の内容についてよく理解し、貸主や借主などの関係者に適切なアドバイスをすることができるようにしておくことは、賃貸管理に係る支援業務のひとつである。


アセットマネジメントとプロパティマネジメント

(1) アセットマネジメント(AM)

 アセットマネジメントは、不動産投資について、資産運用の計画、決定・実施、実施の管理を行う業務である。

 アセットマネジメントは、投資家から委託を受け、総合的な計画を策定して、投資を決定・実行し、借主管理、建物管理、会計処理等について、プロパティマネジメント会社からの報告を受けて投資の状況を把握し、現実の管理運営をしながら、売却によって投下資金を回収する、という一連の業務である。この業務を行う専門家を、アセットマネージャーという。


(2) プロパティマネジメント(PM)

① アセットマネジメントとの関連性

 アセットマネジメントは、資金運用の計画・実施を行うのに対し、プロパティマネジメントは、実際の賃貸管理・運営を行う。プロパティマネジメント会社は、アセットマネージャーから選定され、その指示の下にプロパティマネジメント業務を担当する。


② プロパティマネジメントの意義

 プロパティマネジメントは、投資家から委託を受けて、投資家のために行われる業務である。


Point プロパティマネジメント会社は、自らの業務に合理性があることについて投資家に対し説明責任を負担しており、説明責任を果たすための客観的な根拠を常に準備しておかなければならない。


③ 重要性の高まる業務

 投資家のために重要性の高まってきた業務は、イ)報告業務、ロ)調査・提案業務、ハ)所有者の変更に伴う業務である。


イ)報告業務

 プロパティマネジメントにおいては、賃料等を徴収し、預託金を受領し、必要な経費を支出し、アセットマネージャーとの間で経理処理(精算)を行い、これらを取りまとめて報告書を作成する。

 アセットマネージャーに対するこの報告をもとに、アッセットマネージャーは投資家に対してアセットマネジメント業務の報告を行う。


ロ)調査・提案業務

 プロパティマネジメントの業務のうち、調査・提案業務においては、投資家の投資判断に資することが求められる。調査・提案すべき内容は、賃貸管理業務の全体にわたる。


Point1 賃貸借に関する提案業務には、借主の維持を意味するテナントリテンション(tenant retention)に関する内容が含まれる。


Point2 現存する建物の価値を維持することに加え、さらに管理の質を高め、長期的な観点から建物の価値を高める改修を行うことについて積極的な計画、提案を行うのは、プロパティマネージャーの役割である。プロパティマネジメントの業務には、中・長期的な改修・修繕の計画を策定して実施するコンストラクションマネジメント(CM)も取り入れられはじめている。


Point3 プロパティマネージャーには、収益拡大とコスト削減の両面から、具体的に、計画の基礎資料の収集、計画策定等の調査・提案が求められる。


ハ) 所有者の交代に関する業務

 投資目的が達成されると権利は譲渡されるため、所有者は頻繁に交代する。所有者の交代に際し、旧所有者から新所有者に貸主の地位が円滑に引き継がれるように尽力することは、重要なプロパティマネジメント業務である。


Point プロパティマネジメントにおいては、所有者の変更に伴う業務も、投資家のために重要性の高まる業務であり、プロパティマネージャーの業務である。


(3) 収益費用項目

 平成19年3月改正の不動産鑑定評価基準では、DCF法の適用過程の明確化の中で、収益費用項目の統一化が図られている。その結果、DCF法の収益費用項目のうち、運営費用の中に、対象不動産の管理業務に係る経費となるPMフィー(プロパティマネジメントフィー)が計上されることとなった。


Point PMフィーは、運営収益の項目ではなく、運営費用の項目である。