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1管理実務

堀川 寿和2021/12/21 13:27

 賃貸住宅の管理をしていく上では様々な問題やトラブルが生じますが、それにどうやって対応していくかの基本的な考え方を学ぶ。

鍵の管理

(1) 鍵の交付と預り管理の注意点

① 鍵の引渡し

 「鍵」(キー)は、開錠に利用するために携帯する物である。それに対して、扉に固定されている部分は「錠」(シリンダー)という。

貸室の引渡しは、鍵を交付するという方法によって行われる。貸主は、通常、契約に係る金銭の授受の完了と同時に、借主に対して鍵を交付する。管理業者が貸主に代わり、借主に鍵を交付する場合は、借主から「鍵受領証」を受け取り、物件の鍵を交付したことを貸主に報告する必要がある。


Point 貸主からの依頼または承諾を受けて管理業者が各部屋の鍵を一括管理する場合、借主に対し、その目的を説明する。


② マスターキーの取扱い

 建物における複数の錠を開錠することができる鍵を、マスターキーという。マスターキーは、借主が不在中の管理物件で非常事態が発生した場合に室内に立ち入る際などに、使用することを目的とする鍵である。日常のマスターキーの管理・保管については、取扱い規則を定め、担当する責任者を明確にしておくとともに、他の鍵とは区別した上、施錠できる場所に保管しておかなければならない。


Point1 管理物件での非常事態に対する早期対処のためであったとしても、管理業者の従業員が各部屋の鍵を常時携行することは、防犯上好ましくない。鍵は施錠できる場所に保管しておかなければならない。


Point2 管理業者にて賃貸不動産の鍵を保管せず、万一のときには専門の解錠業者に解錠させるという賃貸管理の方法もある。


(2) 錠の種類

 代表的な錠(シリンダー)の種類は、次の通り

ロータリー(U9)シリンダー現在もっとも普及しているシリンダーである。ピッキング対応シリンダーで、ピッキングに対する防犯性能も高い。
ディスクシリンダー以前は広く普及していたシリンダーである。ピッキング被害が増加したため、現在は製造が中止されている。


(3) 賃貸借契約終了時の鍵の取扱い

① 賃貸借終了時の鍵の交換

 従前の借主が退去し、新しい借主に賃貸するにあたっては、従前の借主が物件を使用していたときの錠は取り外し、新しい錠に交換するべきである。以下では「錠の交換」のことを「鍵の交換」という。


Point1 前の借主が使っていた鍵を交換しないまま新しい借主に物件を引き渡すと、盗難等のトラブルの原因となることがある。合鍵が悪用される場合があるからである。


Point2 従前の借主が退去した後、貸主が鍵を交換せずに、新しい借主に賃貸した場合に、従前の借主が鍵を使用して当該貸室に侵入するという盗難事件が発生したときは、貸主が新しい借主に損害賠償責任を問われることがある。


② 鍵の交換費用の負担

イ)新規入居の場合

 新規入居の場合は、鍵の交換の費用は、原則として貸主が負担すべきである。貸主は「借主が安全に居住できる物件」を賃貸する責任を負っているからである。


ロ)借主が鍵を紛失した場合

 借主が鍵を紛失した場合は、鍵の交換の費用は「借主」に負担させることができる。


ハ)ピッキング対応キーへの交換費用

 ピッキングに対応した鍵への交換費用については、原則として借主・貸主のうち交換を申し出た方が負担する。


Point 新しい借主が決まり、新しい鍵を取り付けたところ、借主から「防犯面に強い鍵」に交換するよう要望された場合は、借主にその費用の負担を請求できる。


③ 鍵の交換の時期

 鍵の交換は従前の借主が退去した後、退去後リフォームが終了し、入居する借主が決定した後に行うことが望ましい。


借主に対する居住ルールの遵守指導・クレーム処理

(1) 借主に対する居住ルールの遵守指導

 管理業者が分譲マンションの一住戸の賃貸管理を受託する場合、借主はマンションの共用部分の管理等に関する管理規約上のルールに従う必要があるので、管理業者は借主に当該マンションの共用部分に関する管理規約の内容を提示し、理解してもらう必要がある。


(2) クレーム対応

 入居者同士のトラブルの相談を受けた場合には、一方の言い分を鵜呑みにするのではなく、関係者の話をそれぞれよく聞き、公平な立場で処理に当たることが重要である。

 また、管理業者は、管理業務で生じるクレームやトラブルに係る過去の相談事例等を蓄積した社内マニュアルを作成して社内で情報を共有することが重要である。

 借主から管理業者に対し、クレームやトラブルが発生したとの電話連絡があった場合には、借主による簡単な対応で解決することもあるので、現場へ駆けつける前に、まず電話で状況を聴くことが重要である。


緊急事態への対応

(1) 漏水発生時

 上階がある居室の天井からの漏水の発生を入居者から知らされた場合、まず電話で「急いで上の階へ行き、下階に水が漏っている旨を告げてください」と伝え、できるだけ早く現場へ急行する(上の階の合鍵があれば持参する)。その後、修理会社へ連絡をし、上の階の入居者とも連絡を取る。そして、当該居室および上階の室内を見る。


(2) 火災発生時

 管理員が置かれている建物で、自動火災報知器の発報や借主からの通報で火災の発生を感知した場合には、管理員は、現場へ駆けつけ、他の借主などの避難誘導を行うと同時に、建物全体へ火災の発生を知らせなければならない。あわせて、消防署へ通報し、消火器や消火栓で初期消火ができるようであれば、延焼防止に努める。

 管理員が置かれてない建物では、自動火災報知器の発報や借主からの通報で火災の発生を感知後、通報を受けた者は直ちに消防署に通報し、その後できるだけ早く現場へ駆けつけ、火災を確認し借主等の避難誘導を行い、また、被害の拡大防止に努める。


Point 管理員が置かれていない建物で火災が発生した場合、通報を受けた者は、現場に駆け付けるよりも先に、まず消防署に通報しなければならない。


(3) 地震発生時

 管理員が置かれている建物では、揺れが収まった後、管理員が建物内外の点検を行い、危険性が生じている場合には建物内に残っている人を建物外へ避難させ、避難場所へ誘導する。

地 震発生時、管理員が置かれていない建物では、震災後できるだけ早く賃貸物件を訪れて被害状況を把握し、復旧や後片付けを行う必要がある。


(4) 犯罪発生時

 空き巣被害が発生した後は、侵入経路の遮断や非常警報装置の設置など、貸主と相談して対策を早急に講じ、今後の防犯を呼びかける掲示をして借主などに注意を促す。


Point 空き巣は再発する傾向があるので、掲示板等に空き巣被害が発生した旨の掲示をするだけでは、管理業者の対応として不十分である。