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1借主の募集

堀川 寿和2021/12/21 13:14

宅地建物取引業法による借主の募集業務の規制

(1) 借主の募集業務への宅地建物取引業法の適用の有無

① 宅地建物の貸借への宅地建物取引業法の適用

 宅地建物取引業法は「宅地建物取引業」に適用される。そして、宅地建物取引業法は、宅地建物の「貸借の代理または媒介」を業として行うことを、「宅地建物取引業」としている(同法2条2号)。したがって、宅地建物の「貸借の代理または媒介」を業として行うとき、宅地建物取引業法が適用される。それに対して、自ら当事者となって宅地建物の貸借を行うことは、宅地建物取引業とはされておらず、したがって、これには宅地建物取引業法が適用されない。

 また、宅地建物取引業法により、宅地建物取引業を営もうとする場合は、宅地建物取引業の免許を受けなければならない。そして、この免許を受けて宅地建物取引業を営む者を、宅地建物取引業者という。したがって、宅地建物取引業の免許を有する宅地建物取引業者でないと、宅地建物の「貸借の代理または媒介」を業として行うことができない。


② 借主が入居するまでの募集業務への宅地建物取引業法の適用

イ)管理受託方式の場合

 管理受託方式の賃貸管理において、管理業者が貸主から借主の募集業務を受託する場合、その募集業務は建物の「貸借の代理または媒介」に該当することになる。したがって、管理業者が貸主から借主の募集業務を受託する場合には、宅地建物取引業法が適用される。

 また、宅地建物取引業の免許を有しない管理業者は、借主の募集業務を行うこと ができない。このような自ら募集業務を行うことができない管理業者は、借主の募集を宅地建物取引業者に依頼するしかない。


Point1 宅地建物取引業の免許を有しない管理業者は、たとえ、宅地建物取引業者と共同した場合であっても、募集業務を行うことができない。


Point2 宅地建物取引業の免許を有しない管理業者は、たとえ、貸主の書面による承諾がある場合であっても、募集業務を行うことができない。


ロ)サブリース方式の場合

 サブリース方式の賃貸管理では、管理業者が自ら貸主となって、入居者と賃貸借契約を締結することになる。このように、借主の募集を貸主である管理業者自らが行う場合は、宅地建物取引業法は適用されない。したがって、宅地建物取引業の免許を有しない管理業者も、借主の募集を行うことができる。

③ 借主入居後の業務への宅地建物取引業法の適用

 管理受託方式の場合も、借主入居後の業務には宅地建物取引業法は適用されない。


イ)管理受託方式の場合

 管理受託方式の賃貸管理では、管理業者が貸主から借主入居後に契約の更新に係る手続の代理または媒介を依頼されることがあるが、更新に係る手続の代理・媒介は貸借の代理・媒介ではないので、宅地建物取引業法は適用されない。したがって、宅地建物取引業の免許を有しない管理業者も、貸主からの委託を受けて契約の更新業務を行うことができる。


ロ)サブリース方式の場合

 サブリース方式の賃貸管理では、管理業者が自ら貸主となって、入居者と契約の更新に係る手続を行うことになるが、これも貸借の代理・媒介ではないので、宅地建物取引業法は適用されず、したがって、宅地建物取引業の免許も不要である。


Point1 管理業者が貸主から借主の募集業務を受託した場合は、借主が入居するまでの募集業務については宅地建物取引業法が適用されるが、借主入居後の業務については、宅地建物取引業法は適用されない。


Point2 借主の募集業務を貸主が自ら行う場合には、借主が入居するまでの募集業務についても、借主入居後の業務についても、宅地建物取引業法は適用されない。


Point3 管理業者が受託する賃貸不動産の居住が始まった後の業務については、宅地建物取引業法の適用はない。しかし、定期建物賃貸借契約の借主が契約期間終了後も引き続き居住を希望する場合の手続は、再契約(新たな賃貸借契約を締結すること)になるため、再契約を代理または媒介する業務には宅地建物取引業法が適用される。このため、宅地建物取引業の免許を有しない管理業者は定期建物賃貸借の再契約の手続きを行うことができない。


Point4 宅地建物取引業法は、賃貸管理業務のうち募集業務のみ適用があり、募集業務以外の業務には適用がない。


【賃貸管理業務への宅地建物取引業法の適用の有無(まとめ)】


募集業務借主入居後の業務
管理業者が受託する場合適用あり適用なし
貸主が自ら行う場合適用なし適用なし


(2) 借主の募集業務における重要事項の説明

 宅地建物取引業の免許を有する管理業者が、建物の貸借の代理または媒介(貸主から受託した借主の募集業務)をする場合は、建物の借主に対して、その者が借りようとしている建物に関し、その貸借の契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして、次の①~㉓の事項について、これらの事項を記載した書面を交付して説明をさせなければならない(宅地建物取引業法35条1項)。

① 当該建物の上に存する登記された権利の種類および内容ならびに登記名義人または登記簿の表題部に記録された所有者の氏名(法人にあっては、その名称)
② 法令に基づく制限の概要
③ 飲用水、電気およびガスの供給ならびに排水のための施設の整備の状況(これらの施設が整備されていない場合においては、その整備の見通しおよびその整備についての特別の負担に関する事項)
④ 当該建物が建築に関する工事の完了前のものであるときは、その完了時における形状、構造等
⑤ 当該建物が既存の建物であるときは、建物状況調査(実施後1年を経過していないものに限る)を実施しているかどうか、およびこれを実施している場合におけるその結果の概要
⑥ 台所、浴室、便所その他の当該建物の設備の整備の状況
⑦ 当該建物が造成宅地防災区域内にあるときは、その旨
⑧ 当該建物が土砂災害警戒区域内にあるときは、その旨
⑨ 当該建物が津波災害警戒区域内にあるときは、その旨
⑩ 水防法施行規則の規定により当該建物が所在する市町村の長が提供する図面〔=水害ハザードマップ〕に当該建物の位置が表示されているときは、当該図面における当該建物の所在地
⑪ 当該建物について、石綿の使用の有無の調査の結果が記録されているときは、その内容
⑫ 当該建物(昭和56年6月1日以降に新築の工事に着手したものを除く)が耐震診断を受けたものであるときは、その内容
⑬ 借賃以外に授受される金銭の額および当該金銭の授受の目的
⑭ 契約の解除に関する事項
⑮ 損害賠償額の予定または違約金に関する事項
⑯ 支払金または預り金を受領しようとする場合において、保全措置を講ずるかどうか、およびその措置を講ずる場合におけるその措置の概要
⑰ 契約期間および契約の更新に関する事項
⑱ 定期建物賃貸借または終身建物賃貸借をしようとするときは、その旨
⑲ 当該建物(区分所有建物の専有部分を除く)の用途その他の利用に係る制限に関する事項
⑳ 当該建物が区分所有建物の専有部分である場合において、当該専有部分の用途その他の利用の制限に関する規約の定めがあるときは、その内容
㉑ 敷金その他いかなる名義をもって授受されるかを問わず、契約終了時において精算することとされている金銭の精算に関する事項
㉒ 当該建物(区分所有建物の専有部分を除く)の管理が委託されているときは、その委託を受けている者の氏名(法人にあっては、その商号または名称)および住所(法人にあっては、その主たる事務所の所在地)
㉓ 当該建物が区分所有建物の専有部分である場合において、当該一棟の建物およびその敷地の管理が委託されているときは、その委託を受けている者の氏名(法人にあっては、その商号または名称)および住所(法人にあっては、その主たる事務所の所在地)


(3) 契約成立時の書面の交付

 宅地建物取引業者は、宅地または建物の貸借に関し、その代理または媒介により契約が成立したときは、当該契約の各当事者に、次の①~⑧の事項を記載した書面を交付しなければならない(宅地建物取引業法37条1項)。

① 当事者の氏名(法人にあっては、その名称)および住所
② 当該建物の所在、種類、構造その他当該建物を特定するために必要な表示
③ 借賃の額ならびにその支払の時期および方法
④ 建物の引渡しの時期
⑤ 借賃以外の金銭の授受に関する定めがあるときは、その額ならびに当該金銭の授受の時期および目的
⑥ 契約の解除に関する定めがあるときは、その内容
⑦ 損害賠償額の予定または違約金に関する定めがあるときは、その内容
⑧ 天災その他不可抗力による損害の負担に関する定めがあるときは、その内容


(4) 定期建物賃貸借契約の再契約と重要事項の説明等

 定期建物賃貸借契約の再契約では、新たな賃貸借契約を締結することになるので、宅地建物取引業者である管理業者が定期建物賃貸借契約の再契約の代理または媒介をする場合にも、あらためて重要事項の説明および契約成立時の書面の交付が必要になる。


Point 宅地建物取引業者が定期建物賃貸借契約の再契約について貸主を代理して締結する場合には、宅地建物取引業法の定めるところにより、あらためて重要事項説明をしなければならない。


募集広告の規制

(1) 「宅地建物取引業法」に基づく規制

 宅地建物取引業の免許を有する管理業者は、貸主から借主の募集業務を受託することができるが、募集業務を行う場合は、宅地建物取引業法の規律に従わなければならない。


① 誇大広告等の禁止

 借主の募集業務を受託した管理業者が募集広告を作成する場合には、宅地建物取引業法で定める誇大広告等の禁止の規定(同法32条)に違反してはならない。つまり、その広告に係る宅地または建物の所在、規模、形質等について、著しく事実に相違する表示をし、または実際のものよりも著しく優良であり、もしくは有利であると人を誤認させるような表示をしてはならない。

また、実際には賃貸することができない物件や賃貸する意思がない物件について広告を行うことを「おとり広告」という。「おとり広告」も、誇大広告に該当するため禁止される。インターネット広告の場合、不注意により契約済み物件を削除せず広告の更新予定日後も掲載し続けることも、「おとり広告」に該当する。

② 業務に関する禁止事項

 借主の募集業務を受託した管理業者は、募集や勧誘にあたって次のような行為をすることも、宅地建物取引業法で禁止されている。

イ)重要な事項について、故意に事実を告げず、または不実(本当でないこと)を告げること(同法47条)
ロ)契約の申込みのため、または借受希望者が一度した申込みの撤回もしくはその解除を妨げるため、借受希望者を脅迫すること(同法47条の2第2項)
ハ)将来の環境または交通その他の利便について、借受希望者が誤解するような断定的判断を提供すること(同法47条の2第3項→同法施行規則16条の12)


(2) 「不当景品類及び不当表示防止法」(不動産の表示に関する公正競争規約)に基づく規制

 管理業者たる宅地建物取引業者が、「不当景品類及び不当表示防止法」に基づく公正取引協議会の構成団体に所属する場合は、同法に基づく不動産の表示に関する公正競争規約に従って、募集広告を作成しなければならない。また、管理業者は、広告会社にその内容を全面的に任せて作成させた広告を使用して募集業務を行うときであっても、不動産の表示に関する公正競争規約に従う必要がある。

 不動産の表示に関する公正競争規約には、広告において表示すべき事項の表現についても定められている。主なものは、次の通り。


【建物の種別の表示】

新築住宅建物の構造および設備ともに独立した新築の一棟の住宅をいう。
中古住宅建築後1年以上経過し、または居住の用に供されたことがある一戸建て住宅であって、売買するものをいう。
マンション鉄筋コンクリート造りその他堅固な建物であって、一棟の建物が、共用部分を除き、構造上、数個の部分(以下「住戸」という。)に区画され、各部分がそれぞれ独立して居住の用に供されるものをいう。
新築賃貸マンション新築のマンションであって、住戸ごとに、賃貸するものをいう。
中古賃貸マンション建築後1年以上経過し、または居住の用に供されたことがあるマンションであって、住戸ごとに、賃貸するものをいう。
貸家一戸建て住宅であって、賃貸するものをいう。
新築賃貸アパートマンション以外の新築の建物の一部であって、住戸ごとに、賃貸するものをいう。
中古賃貸アパートマンション以外の建物であり、建築後1年以上経過し、または居住の用に供されたことがある建物の一部であって、居住の用に供するために賃貸するものをいう。


Point 新築とは、建築後1年未満であって、居住の用に供されたことがないものをいう。


【部屋の用途の表示】

ダイニング・キッチン(DK)台所と食堂の機能が1室に併存している部屋をいい、住宅(マンションにあっては、住戸。)の居室(寝室)数に応じ、その用途に従って使用するために必要な広さ、形状および機能を有するものをいう。
リビング・ダイニング・キッチン(LDK)居間と台所と食堂の機能が1室に併存する部屋をいい、住宅の居室(寝室)数に応じ、その用途に従って使用するために必要な広さ、形状および機能を有するものをいう。


【所要時間の表示】

徒歩による所要時間道路距離80mにつき1分間を要するものとして算出した数値を
表示すること。この場合において、1分未満の端数が生じたときは、1分として算出すること。
自転車による所要時間道路距離を明示して、走行に通常要する時間を表示すること。



借主の募集を行うための事前準備

(1) 募集の方法

 借主の募集業務は、管理業者が自社で行う場合と、外部の媒介業者に依頼する場合とがある。


(2) 募集媒体・広告活動

 借主の多くは、不動産業者経由またはインターネット経由で物件情報の収集を行っているから、インターネットは募集媒体として重要視するべきである。

 広告活動としては、現地案内会(オープンルーム)や新聞折り込みなどがある。


Point 部屋を案内する際、図面、メモ用紙やペン、メジャー、スリッパ等を用意しておくとよい。また、家具を用意しておくと、借主はイメージしやすくなる。


(3) 事前調査

 借主の募集にあたっては、現地調査、権利関係の調査、貸主および近隣に対するヒアリング、附帯設備の状況、分譲マンションの借主募集における管理規約などの事前調査が必要になる。


Point 管理業者は、借主の募集業務を他の業者に委託する場合であっても、物件に法的な問題がないかどうかの確認を行う必要がある。


① 権利関係の調査

 土地および建物の登記事項証明書または登記事項要約書を取得して、権利関係の調査をしなければならない。

 物件の権利関係の調査のために登記記録を閲覧するときは、甲区に基づき、登記上の名義人と貸主が異ならないかを確認する必要がある。


② 貸主および近隣に対するヒアリング調査

 土地・建物固有の情報を、貸主および近隣居住者等から直接ヒアリングして調査する。管理業者は、貸主および近隣居住者等からヒアリングした内容を、実際に現地に赴き確認する必要がある。


③ 分譲マンション賃貸における確認事項

 分譲マンション(区分所有建物)の1住戸を賃貸する場合、当該マンションの管理組合が定めた管理規約等、借主が遵守しなければならない事項について確認する必要がある。


④ 附帯設備の調査

 各種付帯設備の有無と、故障・不具合の確認を行う必要がある。

 前の借主が設置した設備を附帯設備として新しい借主に貸す場合も、入居当初から故障や不具合があってクレームとなることも少なくないので、事前にその状態を確認する必要がある。