• 3.賃貸管理業務
  • 1.管理業務の受託
  • 管理業務の受託
  • Sec.1

1管理業務の受託

堀川 寿和2021/12/21 13:05

 賃貸住宅の管理業務の方式には、「管理受託方式」の賃貸管理と「サブリース方式」の賃貸管理がある。

管理受託方式

(1) 管理受託方式の賃貸管理

 管理受託方式の賃貸管理とは、管理業者が貸主との間で管理受託契約を締結し、管理受託契約に基づいて、建物・設備の維持保全、家賃、敷金等の管理に係る事務、賃貸借契約の更新に係る事務、賃貸借契約の終了に係る事務、賃主等からの問合せや管理報告、苦情対応、などを行う方式である。


(2) 管理受託契約

 管理受託契約における管理業者と貸主との契約関係は、委任または準委任の関係にある。

 委任者が「法律行為」をすることを受任者に委託し、受任者がこれを承諾することによって成立する契約が「委任」である(民法643条)。また、委託の内容が、「法律行為ではない事務」(事実行為)である場合が「準委任」である(民法656条)。

 管理受託契約において管理業者が貸主から委託される内容は、家賃の受領や建物の維持管理など、多くの場合は「事実行為」であるが、管理業者が貸主から代理権を授与されて建物修繕のための工事請負契約などを締結する場合は、「法律行為」の委託となる。


Point 管理受託契約は、請負と異なり、仕事の完成は目的となっていない。管理受託契約は、委任または準委任契約の性質を有するので、法律行為または事実行為をすることが目的となる。


(3) 管理受託契約における管理業者(受任者)の義務

 管理受託契約における管理業者は、委任契約における受任者と同様の義務を負う。


① 善管注意義務

 管理業者(受任者)は、管理受託契約の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、受託事務を処理する義務を負う(民法644条)。


Point1 管理受託契約は、無償であっても管理業者は委託者に対して善管注意義務を負う。


Point2 管理受託契約において、管理業者の負う善管注意義務を加重する旨の特約は有効である。

② 自ら受託事務を処理する義務

 管理受託契約は管理業者と貸主との間の信頼関係を基礎にしているため、管理業者(受任者)は、原則として、自ら受託事務を処理しなければならない。そのため、管理業者(受任者)は、貸主(委任者)の許諾を得たとき、またはやむを得ない事由があるときでなければ、復受任者を選任することができない(民法644条の2第1項)。


Point 受託者たる管理業者は、委託者の承諾を得なければ、管理業務を第三者に再委託することができない。


③ 報告義務

 管理業者(受任者)は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過および結果を報告しなければならない(民法645条)。


④ 受取物引渡義務

 受任者は、委任事務を処理するに当たって受け取った金銭その他の物を、委任者に引き渡さなければならず、その収取した果実(利息等)についても、同様である(民法646条1項)。


Point 管理業者は、集金した賃料から利息が発生した場合、この利息も委託者である建物所有者に引き渡さなければならない。


(4) 受任者の権利

① 報酬請求権

 委任は、「民法」上は無償が原則であり、特約がない限り、受任者は委任者に対して報酬を請求することができないが(民法648条1項)、管理業者は「商法」上の商人に該当するため(商法4条1項)、管理業者と貸主との間の管理受託契約には商法が適用され、管理業者は報酬についての特約がなくても、委託者である貸主に対して相当の報酬を請求することができる(商法512条)。

 報酬の支払時期についての特約がない場合、報酬の支払い時期は後払いが原則である。このため、管理業者(受任者)は、受託事務を履行した後でなければ、報酬を請求することができない(648条2項前段)。


Point 管理受託契約においては、履行期に関する特約がない場合、受託業務を履行した後でなければ報酬の支払を請求することができない。したがって受託業務の履行と報酬の支払とは同時履行の関係に立たない。


② 費用の前払請求権

 管理業者は委託者である貸主に対して、費用の前払を請求することができる。このため、委任事務を処理するについて費用を要するときは、貸主(委任者)は、管理業者(受任者)の請求により、その前払をしなければならない(民法649条)。


③ 費用の償還請求権

 管理業者(受任者)は、受託事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、貸主(委任者)に対し、その費用および支出の日以後におけるその利息の償還を請求することができる(民法650条1項)。


(5) 管理受託契約の終了

① 管理受託契約の解除

 委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる(民法651条1項)。したがって、管理受託契約は、原則として、管理業者および委託者である貸主の双方が、いつでも中途で解除することができる。なお、管理受託契約で、解除の予告期間を定めることもできる。


Point 管理業者は、委託者である建物所有者に対し、各契約で定める予告期間をもって申し入れることにより、管理受託契約を解約することができる。


② その他の終了事由

 管理受託契約は、委任の終了事由により終了する(民法653条)。


死亡破産手続開始の決定後見開始の審判
貸主(委任者)終了する終了する終了しない
管理業者(受任者)終了する終了する終了する

Point1 委託者が死亡した場合、管理受託契約は終了する。したがって、委託者である建物所有者が死亡した場合、特約がない限り、その相続人が管理受託契約上の地位を相続することはない。


Point2 法人である管理業者の代表取締役が死亡した場合でも、管理受託契約は終了しない。


Point3 管理業者が破産手続開始の決定を受けた場合、管理受託契約は終了する。


Point4 委託者である建物所有者が後見開始の審判を受けた場合でも、管理受託契約は終了しない。


(6) 契約上の地位の移転

① 特定承継の場合

 特定承継とは、個々の原因に基づいて個々の権利または義務を譲渡することをいう。

 契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした場合は、その契約の相手方がその譲渡を承諾したときに、契約上の地位が、その第三者に移転する(民法539条の2)。

 そのため、例えば、委託者である建物所有者が建物の所有権を第三者に譲渡しても、この第三者が管理受託契約の委託者の地位を当然には承継しない。この場合に、委託者である建物所有者が第三者との間で、建物の所有権とともに委託者の地位も譲渡する旨の合意をし、管理業者がその譲渡を承諾したときに、この第三者が管理受託契約の委託者の地位を承継する。


② 包括承継の場合

 包括承継とは、一切の権利および義務が一括して他人に移転することをいう。

 死亡や法人の合併などの包括承継の場合は、契約上の地位は、当然にその包括承継人(相続人や承継法人)に移転する。ただし、委任については、死亡が委任の終了事由になっているので、当事者の死亡により委任は終了し、この場合は、委任契約上の地位の移転は生じない。

 それに対して、法人である受任者の合併消滅は、委任の終了事由とはなっていない。したがって、法人である受任者が合併消滅した場合、契約に別段の定めがない限り、受任者の権利義務はその承継法人に包括承継される。例えば、法人である管理業者A社がB社に吸収合併された場合、A社の管理業務はB社に承継される。その際に、特定承継の場合のように、委託者である建物所有者の承諾は不要である。


(7) 管理受託契約違反と損害賠償

 管理業者が建物の管理を怠ったことにより、委託者である建物所有者に損害が発生した場合においては、管理業者は、管理受託契約違反(債務不履行)に基づいて建物所有者に対して損害賠償義務を負う。管理受託契約違反(債務不履行)の責任は契約当事者の間で生じるものであり、第三者との間に生じることはない


Point 例えば、管理業者の共用部分に対する管理懈怠により、賃貸物件を訪問した第三者が共用廊下において転倒して怪我をした場合でも、管理業者はこの第三者に対して、管理受託契約違反に基づく損害賠償義務は負わない。このような場合は、管理業者は第三者に対して不法行為に基づく損害賠償義務を負うことになる。


サブリース方式

(1) サブリース方式による賃貸管理

 サブリース方式による賃貸管理とは、管理業者が貸主(建物所有者)から賃貸不動産を借り受け、貸主(建物所有者)の承諾を得て、管理業者自らが転貸人となって不動産を第三者に転貸する事業形態である。この場合は、転借人と貸主(建物所有者)との聞には契約関係は生じない。


 


 サブリース方式による賃貸管理の場合は、管理業者が貸主(建物所有者)および転借人のそれぞれに対して、賃貸借契約の当事者となって責任を負うことになる。


Point1 サブリース方式による賃貸管理の場合、管理業者は契約の当事者として賃貸管理を行っているのであって、原賃貸人の代理人の立場で賃貸物件を借り受けているわけではない。


Point2 サブリース方式による賃貸管理は、賃貸借契約(原賃貸借契約と転貸借契約)であり、意思表示の合致のみにより契約は成立する。転借人(入居者)に賃貸不動産を引き渡すことが契約成立の要件ではない。


(2) 原賃貸人(建物所有者)と借主(管理業者)との関係

 サブリース方式による賃貸管理において、管理業者は、原賃貸人(建物所有者)との間で賃貸借契約(原賃貸借契約)を締結するため、原賃貸人との関係では借主の地位に立つことになる。


(3) 転貸人(管理業者)と転借人との関係

 サブリース方式による賃貸管理において、管理業者は転借人との間で賃貸借契約(転貸借契約)を締結するため、管理業者が貸主(転貸人)であり、入居者が借主(転借人)の地位に立つことになる。そして、管理業者は、転借人に対して、賃貸借契約(転貸借契約)に基づいて、直接の権利と義務を有することになる。


(4) 原賃貸人と転借人との関係

 原賃貸人と転借人との問には、直接の契約関係は生じない。しかし、民法の規定に基づき、転借人は原賃貸人に対して賃料支払義務などの直接の義務を負う(民法613条1項)。


(5) 原賃貸借終了時の契約当事者の地位の移転

 サブリース方式による賃貸管理では、原賃貸借契約が終了した場合に、転貸人の地位が原賃貸人に移転し、または借主の地位が転借人に移転する旨の約定をする場合がある。このような約定を設ける場合は、原賃貸人、管理業者(借主兼転貸人)および転借人による三者の合意が必要となり、この合意がないと、当然には、借主または転貸人の地位が原賃貸人または転借人に移転することはない。


Point 原賃貸借契約が終了した場合に、所有者(原賃貸人)が転貸借契約を承継する旨の特約は有効である。また、サブリース方式による賃貸管理では、このような特約があるのが一般的である。


チェック問 管理業務の受託 問題

【チェック問 管理業務の受託 問題】

以下の記述の正誤を述べよ。

1. 管理受託方式による管理は、管理業者が貸主から賃貸不動産を借り受け、管理業者が転貸人となって当該不動産を第三者に転貸する形態によって行われ、その契約は書面で行うことが契約成立の要件となっている。


2. 管理受託契約において委託者(貸主)が死亡した場合、管理業者は、特段の事情がない限り、貸主の相続人のために管理業務を継続しなければならない。


3. 貸主が賃借人の債務不履行を理由に原賃貸借契約を解除した場合であっても、転借人に賃料の不払がなければ、貸主は転借人に対して賃貸不動産の明渡しを請求することはできない。


4. 管理受託契約は、請負と異なり、仕事の完成は目的となっていない。


5. 賃料等の受領に係る事務を目的とする管理受託契約においては、履行期に関する特約がない場合、受託業務の履行と報酬の支払とが同時履行の関係にある。