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1賃貸不動産経営管理士

堀川 寿和2021/12/21 12:50

賃貸不動産経営管理士「倫理憲章」

 賃貸不動産経営管理士がその業務に従事する際に遵守すべき規範として賃貸不動産経営管理士「倫理憲章」が定められている。


前文

 賃貸不動産経営管理士は賃貸不動産所有者、居住者、投資家等のステークホルダーおよび賃貸管理業界との間に確かな信頼関係を構築することにより、その社会的使命を全うする役割を担っている。
 そのために、各々が高い自己規律に基づき、誠実公正な職務を遂行するとともに、依頼者の信頼に応えられる高度な業務倫理を確立しなければならない。
 ここに、賃貸不動産経営管理士の社会的地位の向上、社会的信用の確立と品位保持、資質の向上を図るため、賃貸不動産経営管理士倫理憲章を制定する。


(1) 公共使命

 賃貸不動産経営管理士のもつ、公共的使命を常に自覚し、公正な業務を通して、公共の福祉に貢献する。


(2) 法令の遵守と信用保持

 賃貸不動産経営管理士は関係する法令とルールを遵守し、賃貸不動産管理業に対する社会的信用を傷つけるような行為、および社会通念上好ましくないと思われる行為を厳に慎む。


Point 法令の遵守と信用保持に関しては、自己の所属する管理業者に対する社会的信用のみならず、賃貸不動産管理業全体に対する社会的信用を傷つける行為の禁止も含まれる。


(3) 信義誠実の義務

 賃貸不動産経営管理士は、信義に従い誠実に職務を執行することを旨とし、依頼者等に対し重要な事項について故意に告げず、又は不実のことを告げる行為を決して行わない。


Point 自己の所属する管理業者の直接の依頼者に対してはもちろんのこと、そのほかの関係者に対しても同様に、信義に従い、誠実に対応することが必要である。

(4) 公正と中立性の保持

 賃貸不動産経営管理士は常に公正で中立な立場で職務を行い、万一紛争等が生じた場合は誠意をもって、その円満解決に努力する。


Point1 賃貸不動産経営管理士は、常に公正で中立な立場で職務を行うことが求められるので、ときには自己の所属する管理業者の直接の依頼者に対して借主などの他の関係者の立場にも十分配慮をした対応を求めることが必要になる場合もある。常に依頼者の立場で職務を行うのではない。


Point2 賃貸不動産経営管理士が賃貸不動産経営に関与するに当たっては、依頼者である賃貸不動産の所有者が不動産を売却して利益の確定を図る場合のように、依頼者の一時点での利益の確定およびその最大化を求めるのではなく、長期間にわたり利益を保持し、資産価値の維持保全を図ることを求めなければならない。


(5) 専門的サービスの提供および自己研鑽の努力

 賃貸不動産経営管理士はあらゆる機会を活用し、賃貸不動産管理業務に関する広範で高度な知識の習得に努め、不断の研鑽により常に能力、資質の向上を図り、管理業務の専門家として高い専門性を発揮するよう努力する。


(6) 能力を超える業務の引き受け禁止

 賃貸不動産経営管理士は、自らの能力や知識を超える業務の引き受けはこれを行わない。


Point 賃貸不動産経営管理士は、業務を引き受ける際には、業務を第三者に再委託することができるかどうかを考える前に、その内容が自らの能力や知識で対応し得るものか否かを十分に精査する必要がある。


(7) 秘密を守る義務

 賃貸不動産経営管理士は、職務上知り得た秘密を正当な理由なく他に漏らしてはならない。その職務に携わらなくなった後も同様とする。


Point1 賃貸不動産経営管理士は、職務上知った事項について、その事項が関係者の秘密に該当するもので、かつ、本人の同意がない場合であっても、法令上の提供義務がある場合には、その秘密を第三者に提供することができる。


Point2 秘密を守る義務は、賃貸不動産経営管理士の職務に携わっている間だけではなく、自己の所属する管理業者を退職して、当該賃貸不動産の管理や賃貸不動産経営管理士の職務に携わらなくなった後も、引き続き負うべきものである。賃貸不動産経営管理士の資格を失った後も同様である。


賃貸不動産経営管理士が行う業務

 賃貸不動産経営管理士は、賃貸住宅管理業法における「業務管理者」になることにより、法律上の役割を担うことになる。

 賃貸不動産経営管理士が行う業務及び役割は、次の3つに分類される。

(1) 賃貸住宅管理業法上の業務及び役割(法定業務及びその関連業務)
(2) 賃貸借関係一般に係る業務及び役割(一般業務)
(3) 新たな政策課題への積極的な取り組みに係る業務及び役割(発展業務)


(1) 賃貸住宅管理業法上の業務及び役割(法定業務及びその関連業務)

① 「業務管理者」として行うべき業務

 賃貸不動産経営管理士は、賃貸住宅管理業法における「業務管理者」となる資格を有する。

 「業務管理者」である賃貸不動産経営管理士は、次の事項についての管理及び監督に関する事務を行わなければならない(賃貸住宅管理業法施行規則13条)。

(a) 管理受託契約の締結前の書面の交付及び説明に関する事項
(b) 管理受託契約の締結時の書面の交付に関する事項
(c) 管理業務として行う賃貸住宅の維持保全の実施に関する事項
(d) 賃貸住宅に係る家賃、敷金、共益費その他の金銭の管理に関する事項
(e) 帳簿の備付け等に関する事項
(f) 委託者への定期報告に関する事項
(g) 秘密の保持に関する事項
(h) 賃貸住宅の入居者からの苦情の処理に関する事項


② 賃貸住宅管理業者が行うべき業務の実施等

 賃貸不動産経営管理士は、「業務管理者」であるか否かを問わず、賃貸借契約や建物等の管理の専門家として、上記①の(a)(b)(c)(f)(h)の業務については自らが直接実施する担い手となることが求められる。

 また、賃貸不動産経営管理士は、賃貸住宅管理業法の内容等にも通じていることから、上記①の(d)(e)(g)についても、管理業者内での中心的な役割を果たすことが求められる。


③ 特定転貸事業者が行うべき業務の管理・監督又は実施

 賃貸不動産経営管理士は、賃貸借契約や建物等の管理の専門家として、特定賃貸借契約における特定転貸事業者(サブリース業者)が行うべき次の事項のうち(c)及び(d)の業務について自らが実施し、又は従業者が実施する(a)~(e)の業務の管理及び監督を行うことが求められる。

(a) 広告に関する事項(誇大広告等の禁止の遵守)
(b) 勧誘に関する事項(不当な勧誘等の禁止の遵守)
(c) 特定賃貸借契約の締結前の書面の交付(重要事項説明)
(d) 特定賃貸借契約の成立時の書面の交付(原賃貸借契約書の作成交付)
(e) 書類の閲覧に関する事項


(2) 賃貸借関係一般に係る業務及び役割(一般業務)

① 賃貸住宅管理業者が実施する業務全般の適正化を図るための業務及び役割

 賃貸住宅管理業者は、賃貸住宅管理業法の規制の対象となる「管理業務」の他にも、賃貸人からの委託に基づき様々な業務を行っている。賃貸不動産経営管理士は、賃貸不動産の経営・管理の専門家として、所属する賃貸住宅管理業者が行うこれらの業務についても管理及び監督をし、又は自らが実施する役割を担うことが求められる。

 具体的な業務としては、次のようなものがある。

(a) 家賃等の収納に係る業務
(b) 家賃等の改訂への対応業務
(c) 家賃等の未収納の場合の対応業務
(d) 賃貸借契約の更新に係る業務
(e) 定期建物賃貸借契約の再契約業務
(f) 契約終了時の債務の額及び敷金の精算等の業務
(g) 原状回復の範囲の決定に係る業務
(h) 明渡しの実現に係る業務


② 転貸借契約時の適正な手続を確保するための業務及び役割

 賃貸住宅管理業法は、特定転貸事業者と入居者(転借人)との間の転貸借契約については、規制の対象外としている。転貸借契約では特定転貸事業者が賃貸人となるため、特定転貸事業者には宅地建物取引業法は適用されず、宅地建物取引法上の「契約締結前の重要事項説明義務」や「契約締結時の書面の交付義務」は生じないが、これらは入居者保護の観点からは重要な手続である。そこで、転貸借契約を宅地建物取引業者が媒介又は代理をしない場合は、賃貸不動産経営管理士には、転貸借契約の適正な手続を確保して入居者保護を図る観点から、次のような業務を行うことが期待される。

(a) 転貸借契約締結前の重要事項説明
(b) 転貸借契約成立時の書面の交付


(3) 新たな政策課題への積極的な取組みに係る業務及び役割(発展業務)

 賃貸不動産経営管理士は、「住宅セーフティーネットの整備」や「空家問題対策」などの不動産をめぐる新たな政策課題や、「住宅宿泊事業」などの新たな賃貸不動産の活用方式の普及等に積極的に協力をし、取り組みことによって、我が国の不動産政策の推進と、それに伴う国民生活の安定向上に貢献することが求められる。


賃貸不動産経営管理士に求められるコンプライアンス

 賃貸不動産経営管理士は、賃貸住宅管理業者の従業員であったとしても、プロフェッションとしての独立したポジションでのコンプライアンスが求められるから、所属する賃貸住宅管理業者が、賃貸不動産経営管理士としては取るべきではない管理業務の手法を取ろうとしたときには、コンプライアンスに従った対応を取るように、求めなければならない。