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1賃貸住宅管理の意義・役割

堀川 寿和2021/12/21 10:35

賃貸住宅管理の意義と重要性

(1) 賃貸住宅管理をめぐる環境の変化・ニーズの変遷

① 多様な契約形態の選択

 定期借地制度や定期建物賃貸借制度の創設等、制度的側面において多様な賃貸借の形態が導入され、賃貸住宅の活用に当たり、いかなる契約形態を選択すべきか、専門的な知見に基づく判断が必要となってきた。


② 実物所有者から投資家への変遷に対する対応

 不動産ファンドの登場、不動産の証券化の進展等により、賃貸住宅管理の当事者である賃貸人が、必ずしも実物所有者ではなく、不特定多数の投資家である場合も想定する必要が生じてきた。


③ 専門知識の必要性

 情報化社会の進展により、賃貸住宅の管理に関する情報を、誰でも容易に入手できるようになったので、当事者が有する賃貸住宅をめぐる情報量が格段に充実してきており、賃貸住宅管理に関する専門的知識の重要性は、相対的に高まってきている。


④ 消費者保護の要請

 今日、あらゆる分野において消費者保護の要請が高まっているが、住宅の賃貸借を中心に、個人である賃借人を消費者と位置づけて、消費者保護の観点から不動産賃貸借をとらえようとする動きも活発化しており、賃貸住宅管理において、そのような観点にも留意する必要が生じてきた。


⑤ 賃借人の立場を重視した管理

 優良な賃借人に長く契約を継続してもらうというニーズが大きくなっており、賃借人の立場を重視した賃貸住宅の管理のあり方が要請されている。

(2) 賃貸住宅の管理は誰のために行うべきか

 もともと賃貸住宅の管理は、賃貸人からの委託に基づき賃料収納等を行うことを出発点としていたため、賃貸人の賃貸住宅経営のためという視点が強調されてきたが、その後の環境変化に伴い、投資家を含めた賃貸人の収益安定が最大限求められる時代の中で形成されてきた賃貸住宅管理の概念を踏まえれば、投資家を含めた賃貸人の賃貸住宅経営のためという視点を基本にすえるべきである。

 また、賃貸住宅の適切な利用が促進されることは、入居者・利用者の利益でもあるので、賃貸人の利益のみならず、入居者・利用者にも配慮した賃貸住宅管理を行うべきである。さらに、賃貸住宅は、不動産として、その周辺の環境や街並み形成等に資するものとして、広く公共の福祉にも貢献するものであるので、賃貸人の利益だけでなく、地域社会との関係にも配慮した賃貸住宅管理を行うべきである。


Point 賃貸住宅の管理を行う上で配慮すべき入居者、利用者とは、当該賃貸住宅の賃借人であり、賃貸人との契約関係にある者に限られず、例えば、その賃貸住宅に賃借人と同居する家族なども含まれる。


(3) コンプライアンス

 賃貸住宅管理業者は、法令等のコンプライアンスを重視するとともに、賃貸人や賃借人との信頼関係を構築し、これを維持することに最大限の配慮をしなければならない。コンプライアンスの観点からみると、賃貸住宅管理業者は、賃貸人や賃借人との関係において、契約で禁じられた行為をするなどの契約違反があってはならないことはもちろんであるが、もっぱら契約に明示的に規定された事項を遵守するだけではなく、契約の趣旨から見て不適切な行為をしないような管理業務の遂行に努めなければならない。


賃貸住宅管理業者の社会的責務と役割

(1) 賃貸住宅管理業者の社会的責務

① 資産運営のプロとしての役割

 資産運営のプロとしての役割を果たすためには、賃貸人の自主管理や一部委託管理といった伝統的な管理体制だけではなく、賃貸人の賃貸住宅経営を総合的に代行する専門家としての体制を備えることが要請される。


② 循環型社会への移行への貢献

 賃貸住宅を良質な状態で長く利用するためには、その所在する環境も重要な要素となることから、賃貸住宅管理業者は、街並み景観の維持を含むまちづくりにも貢献していく社会的責務を負っている。


③ 業務に関する専門知識の研鑽と人材育成

 賃貸住宅管理業者は、従事者の、賃貸住宅の管理業務に係るさまざまな専門知識の研鑽に努め、専門的知識と能力を身につけた人材を育成することが求められている。


(2) 賃貸住宅管理業者に求められる役割

① 依頼者の資産有効活用の促進、安全維持と最大限の収益確保

 依頼者の資産有効活用の促進、安全維持と最大限の収益確保を実現するために、専門家としての賃貸住宅管理業者の役割が極めて大きくなっている。


② 賃借人保持と快適な環境整備

 賃貸住宅管理業者は、賃借人の保持と快適な環境整備という大きな役割を担っている。


Point 賃借人保持と快適な環境整備に関しては、昨今の借り手市場のもとでは、できるだけ優良な賃借人に長く借りてもらうことが大切である。


③ 透明性の高い説明と報告

 不動産証券化においてアセットマネージャーが説明・情報開示責任を果たすために必要な情報は、賃貸住宅管理業者の情報を基礎とするので、賃貸住宅管理業者としては、依頼者である賃貸人や投資家のために、透明性の高い説明と報告をする役割を担っている。


Point 透明性の高い説明と報告に関しては、賃貸人だけでなく投資家に対しても行わなければならない場合がある。


④ 経営基盤の強化、経営者と従事者の品位、品質、知識と業務遂行能力

 社会的にも貴重な財産である不動産資産の管理に当たる管理業者には、社会的信用が求められる。社会的信用性の確立のためには、経済的な信用性の確立とあわせ、実際に管理業務を行う経営者および従業者について、高い品位、資質、知識と業務遂行能力が求められている。 


⑤ 新たな経営管理手法の研究と提案等

 不動産投資の分野では、今後も様々な経営管理手法が開発、導入されることが予想されるため、賃貸住宅管理業者には、新たな経営管理手法を研究し、使いこなす高度な賃貸住宅管理が求められている。


Point 新たな経営管理手法の研究と提案は、賃貸住宅管理業者の役割である。


⑥ 能動的、体系的管理の継続

 管理業務では、物件の維持管理から契約管理、収益分析等を総合的体系的に行うことが求められる。そのために、賃貸住宅管理業者には、一定の業務のみ行ったり、一時的な対応にとどまるのではなく、能動的、体系的管理の継続が求められる。


⑦ 善管注意義務の遂行、公共の福祉と社会貢献

イ)善管注意義務の遂行

 賃貸住宅管理業者は委任者との関係では善良なる管理者としての注意義務が課せられる。


ロ)利用者保護の役割・賃貸借当事者の間での利害調整の役割

 その一方で、賃貸住宅管理業者は、投資家や賃貸人の意向に追随するだけの存在ではなく、賃貸人と賃借人との間、または投資家その他の利害関係人との間に入り、専門的知識とノウハウを駆使して中立公平に利害調整を行って、不動産の適切な活用を促進する存在であることが求められる。


ハ)良質な不動産ストックを維持保全する役割

 さらに、賃貸住宅管理業者は、不動産の適切な管理を通じてその価値を維持・保全することで良質な不動産ストックの形成に資する役割を担っている。


⑧ 入居者の快適な生活空間の作出と非常事態におけるそのサポート

 賃貸住宅管理業者は、入居者との関係においては、その快適な生活空間の作出に責任を持つ立場にあるので、入居者のニーズを的確に把握し、時宜を得た管理サービスを提供することが、賃貸住宅管理業者の基本的な役割である。

 また、これまで行われていた管理の継続が困難になるという非常事態が発生したようなときには、入居者の安全で安心な賃貸住宅での生活を継続できるように配慮することは、賃貸住宅管理業者全般の杜会的責務である。


賃貸住宅を取り巻く社会情勢等

(1) 賃貸住宅ストックの状況

 「平成30年住宅・土地統計調査」(総務省公表)によれば、平成30年10月1日現在における我が国の総住宅数は6,241万戸で、平成25年と比較すると、178万戸の増加で、増加率は2.9%となった。

 持ち家住宅数は3,280万戸で、住宅全体に占める割合は、61.2%と平成25年に比べて0.5ポイント低下した。


【全国の所有関係別住宅数の推移(平成25年~平成30年)】                         (単位:%)

年次総数持ち家借家
総数公営借家UR・公社民営借家給与住宅
平成25年10061.735.53.81.628.02.2
平成30年10061.235.63.61.428.52.1


Point 全国の所有関係別住宅数の中では、持ち家が最も多く、次に多いのが民営借家である。


(2) 賃貸住宅着工の動向

 「住宅着工統計」(国土交通省公表)で貸家の新設住宅着工戸数の推移を見ると、平成23年を底に、6年連続で増加していたが、平成30年に再び減少に転じ、令和2年は30.7万戸で3年連続の減少となっている。


(3) 人口の減少

 平成27年(2015年)国勢調査によれば、日本の総人口は1億2,709万人であるが、国立社会保障・人口問題研究所の推計(出生中位・死亡中位)によれば、令和35年(2053年)には1億人を割って9,924万人となり、令和47年(2065年)には、8,808万人まで減少するものと推計されている。


(4) 賃貸住宅に関する消費生活相談の状況

 平成26年度に全国の消費生活センター等が受け付けた消費生活相談のうち、商品・役務等別相談件数では、「賃貸アパート・マンション」の相談は、6番目に多く、依然として高水準にある。そして、賃貸住宅に関する相談内容の中で傾向的に最も多いのは、原状回復に関するものである。