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1消費者契約法

堀川 寿和2021/12/16 09:46

 消費者契約法・個人情報保護法は、管理業務主任者試験では、ほぼ毎年(たいていは、どちらかから1問)出題されている。マンション管理士試験では、たまに、出題されることがある。

消費者契約法の目的

  「消費者」が「事業者」と契約をするとき、両者の間には「情報の質および量ならびに交渉力の格差」があるために、消費者が不当な勧誘によって契約を締結してしまったり、消費者が自分にとって不当に不利となる内容の契約を締結してしまったりする可能性がある。そこで、このような状況から消費者を守るために、消費者契約法という法律がある。


(1) 消費者契約法の目的

 消費者契約法は、その目的を、次のように規定している。

この法律〔消費者契約法〕は、消費者と事業者との間の情報の質および量ならびに交渉力の格差に鑑み、事業者の一定の行為により消費者が誤認し、または困惑した場合等について契約の申込みまたはその承諾の意思表示を取り消すことができることとするとともに、事業者の損害賠償の責任を免除する条項その他の消費者の利益を不当に害することとなる条項の全部または一部を無効とするほか、消費者の被害の発生または拡大を防止するため適格消費者団体が事業者等に対し差止請求をすることができることとすることにより、消費者の利益の擁護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。


(2) 消費者契約法の内容

 消費者契約法の主な内容は以下のとおり。

① 不当な勧誘による契約の取消し
② 不当な契約条項の無効等
③ 消費者団体訴訟制度



消費者契約法の適用範囲

 消費者契約法は、あらゆる取引分野における「消費者契約」に適用される。消費者契約の範囲を決めるに当たっては、「消費者」と「事業者」の範囲を定める必要がある。


(1) 消費者

「消費者」とは、個人をいう。
ただし、事業としてまたは事業のために契約の当事者となる場合における個人を除く。

  個人は、原則として、消費者であるが、例外的に、個人が事業としてまたは事業のために契約の当事者となる場合は、事業者として扱われる。


(2) 事業者

「事業者」とは、法人その他の団体および事業としてまたは事業のために契約の当事者となる場合における個人をいう。

 「法人その他の団体」は、必ず事業者となる。

 管理組合は、法人格があってもなくても「法人その他の団体」に該当するため、常に事業者となる。

 「個人」であっても、「事業として」または「事業のために」契約の当事者となる場合は消費者ではなく、事業者となる。たとえば、賃貸マンションを経営する個人が当該マンションの1室を賃貸する場合は、「事業として」契約の当事者となっているので、消費者ではなく、事業者である。また、個人事業主である個人が賃貸マンションの1室を、その事業に用いるための事務所用として賃借する場合も、「事業のために」契約の当事者となっているので、消費者ではなく、事業者である。それに対して、個人事業主である個人であっても、自己の居住用として賃貸マンションの1室を賃借する場合は、「事業として」または「事業のために」とはいえないので、消費者である。


(3) 消費者契約

「消費者契約」とは、消費者事業者との間で締結される契約をいう。

 「消費者間」の契約や「事業者間」の契約は消費者契約ではないので、消費者契約法は適用されない。


【消費者契約】



Point1 「消費者間」の契約は、消費者契約ではない。したがって、売主と買主双方が消費者であれば、たとえば、マンションの1室の売買契約を宅地建物取引業者が媒介する場合であっても、その売買契約は消費者契約ではなく、消費者契約法は適用されない


Point2 株式会社は法人なので、常に事業者となる。したがって、株式会社が株式会社にマンションの1室を売却する契約は、それが居住用のものであっても、「事業者間」の契約となるため、消費者契約法は適用されない。


Point3 マンションの1室を販売目的で購入する個人や、業務用として使用するために購入する個人事業者となるため、株式会社がマンションの1室をこれらの個人に売却する契約(事業者間の契約)には、消費者契約法は適用されない。それに対して、マンションの1室を自己の居住用として購入する個人は、その者がたとえ個人事業主であっても消費者となるため、株式会社がマンションの1室を販売する契約(消費者契約)には、消費者契約法が適用される。


Point4 マンションの管理規約は、消費者契約法の適用対象とならない〔分譲業者が作成した原始規約であっても同様である〕。管理規約は、対等当事者で構成された団体の自治規範であり、非対等な契約当事者間の消費者契約とは異なるからである。


不当な勧誘による消費者契約の申込みまたは承諾の意思表示の取消し

 民法では詐欺または強迫による意思表示の取消しを定めているが、要件が厳格であるため証明が困難である。そこで、消費者契約法は、民法の要件を緩和し、詐欺または強迫にあたらなくても、事業者の「不当な勧誘行為」によって「誤認」または「困惑」した消費者が消費者契約の申込みまたは承諾の意思表示をした場合に、その申込みまたは承諾の意思表示を、消費者が取り消すことを認めている。


(1) 誤認による意思表示の取消し

 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して意思決定に必要な情報の提供を適切に行わなかった(具体的には「不実告知」、「断定的判断の提供」、「不利益事実の不告知」のいずれかをした)ことにより「誤認」をし、それによって当該消費者契約の申込みまたはその承諾の意思表示をしたときは、民法の詐欺が成立しない場合でも、これを取り消すことができる。

 意思表示を取り消すことができる場合は、以下のとおり。


① 不実告知

事業者が「重要事項について事実と異なることを告げること」により、「当該告げられた内容が事実であるとの誤認」した場合

 たとえば、中古住宅を新築であると説明し誤認させることなどがこれにあたる。


② 断定的判断の提供

事業者が「物品、権利、役務その他の消費者契約の目的となるものに関し、将来におけるその価額、将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供すること」により、「その提供された断定的判断の内容が確実であるとの誤認」した場合

 たとえば、土地価格が将来確実に値上がりすると断言し誤認させることなどがこれにあたる。


③ 不利益事実の不告知

事業者が「ある重要事項またはその重要事項に関連する事項について当該消費者の利益となる旨を告げ、かつ、その重要事項について消費者の不利益となる事実(その告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る)を故意または重大な過失によって告げなかったこと」により、「当該事実が存在しないとの誤認」をした場合

 たとえば、マンションを販売する際に日あたりや眺望がよいことを伝えながら、半年後に隣にマンションが建てられる計画があったにもかかわらず、これにより眺望が悪くなる可能性を伝えず誤認させることなどがこれにあたる。


【参考】「重要事項」

 「不実告知」、「不利益事実の不告知」による取消しの対象となる「重要事項」は以下のとおり。


重要事項不実告知不利益事実の不告知
(a)物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容であって、消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの
(b)物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの対価その他の取引条件であって、消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの
(c)(a)(b)のほか、物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものが当該消費者の生命、身体、財産その他の重要な利益についての損害または危険を回避するために通常必要であると判断される事情

○:重要事項〔(c)は、「不実告知」についてのみ重要事項となるということ〕


(2) 困惑による意思表示の取消し

 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して「不適切な勧誘行為」をしたことにより「困惑」し、それによって当該消費者契約の申込みまたはその承諾の意思表示をしたときは、民法の強迫が成立しない場合でも、これを取り消すことができる。

 「不適切な勧誘行為」には、「不退去」、「退去妨害」、「社会生活上の経験不足を不当に利用した不安をあおる告知」、「社会生活上の経験不足を不当に利用した人間関係の濫用」、「判断力の低下を不当に利用した不安をあおる告知」、「霊感等による知見を用いた不安をあおる告知」、「契約締結前に債務の内容を実施等の強引な勧誘」の7つがある。


① 不退去

当該事業者に対し、当該消費者が、その住居またはその業務を行っている場所から退去すべき旨の意思を示したにもかかわらず、それらの場所から退去しないこと

 たとえば、事業者が消費者宅を訪問し、帰ってほしいといっているにもかかわらず、そのまま契約を締結するまで居座りつづける行為などがこれにあたる。


② 退去妨害

当該事業者が消費者契約の締結について勧誘をしている場所から当該消費者が退去する旨の意思を示したにもかかわらず、その場所から当該消費者を退去させないこと

 たとえば、消費者が事業者の営業所で勧誘を受け、帰りたいといっているにもかかわらず、契約を締結するまで帰らせないような行為などがこれにあたる。


③ 社会生活上の経験不足を不当に利用した不安をあおる告知

当該消費者が、社会生活上の経験が乏しいことから、次に掲げる事項に対する願望の実現に過大な不安を抱いていることを知りながら、その不安をあおり、裏付けとなる合理的な根拠がある場合その他の正当な理由がある場合でないのに、物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものが当該願望を実現するために必要である旨を告げること。
(a) 進学、就職、結婚、生計その他の社会生活上の重要な事項
(b) 容姿、体型その他の身体の特徴または状況に関する重要な事項

 たとえば、就労経験のない就職活動中の学生の不安を知りつつ、「あなたは一生成功しない」と告げて就職セミナーに勧誘する行為(就職セミナー商法)などがこれにあたる。


④ 社会生活上の経験不足を不当に利用した人間関係の濫用

当該消費者が、社会生活上の経験が乏しいことから、当該消費者契約の締結について勧誘を行う者に対して恋愛感情その他の好意の感情を抱き、かつ、当該勧誘を行う者も当該消費者に対して同様の感情を抱いているものと誤信していることを知りながら、これに乗じ、当該消費者契約を締結しなければ当該勧誘を行う者との関係が破綻することになる旨を告げること。

 たとえば、消費者に対して、勧誘者が恋愛感情を抱かせたうえで、それを知りつつ「契約してくれないと、今までの関係を続けられない」と告げて、高額な宝石を売りつける行為(デート商法)などがこれにあたる。


⑤ 判断力の低下を不当に利用した不安をあおる告知

当該消費者が、加齢または心身の故障によりその判断力が著しく低下していることから、生計、健康その他の事項に関しその現在の生活の維持に過大な不安を抱いていることを知りながら、その不安をあおり、裏付けとなる合理的な根拠がある場合その他の正当な理由がある場合でないのに、当該消費者契約を締結しなければその現在の生活の維持が困難となる旨を告げること。

 たとえば、認知症で判断力が著しく低下した消費者の不安を知りつつ「この食品を買って食べなければ、今の健康は維持できない」と告げて勧誘する行為などがこれにあたる。


⑥ 霊感等による知見を用いた不安をあおる告知

当該消費者に対し、霊感その他の合理的に実証することが困難な特別な能力による知見として、そのままでは当該消費者に重大な不利益を与える事態が生ずる旨を示してその不安をあおり、当該消費者契約を締結することにより確実にその重大な不利益を回避することができる旨を告げること。

 たとえば、霊能者を名のる事業者が、「私は霊が見える。あなたには悪霊がついておりその

ままでは病状が悪化する。この数珠を買えば悪霊が去る」と告げて勧誘する行為(霊感商法)などがこれにあたる。

⑦ 契約締結前に債務の内容を実施する等の強引な勧誘行為

(a) 当該消費者が当該消費者契約の申込みまたはその承諾の意思表示をする前に、当該消費者契約を締結したならば負うこととなる義務の内容の全部または一部を実施し、その実施前の原状の回復を著しく困難にすること。
(b) 当該消費者が当該消費者契約の申込みまたはその承諾の意思表示をする前に、当該事業者が調査、情報の提供、物品の調達その他の当該消費者契約の締結を目指した事業活動を実施した場合において、当該事業活動が当該消費者からの特別の求めに応じたものであったことその他の取引上の社会通念に照らして正当な理由がある場合でないのに、当該事業活動が当該消費者のために特に実施したものである旨および当該事業活動の実施により生じた損失の補償を請求する旨を告げること。

 たとえば、(a)さお竹屋(事業者)が、注文を受ける前に、消費者の自宅の物干し台の寸法に合わせてさお竹を切断し、代金を請求する行為や、(b)不動産販売の勧誘をする際に、事業者が、「あなたのためにここまで来た、断るなら交通費を支払え」と告げて勧誘する行為などが、これにあたる。


(3) 過量な内容の意思表示の取消し

消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの分量、回数または期間(以下「分量等」という。)が当該消費者にとっての通常の分量等を著しく超えるものであることを知っていた場合において、その勧誘により当該消費者契約の申込みまたはその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。

 たとえば、事業者が、ひとり暮らしで身寄りがない消費者であることを知りながら、賞味期限が1年の健康食品を数年分購入させる行為などがこれにあたる。


(4) 取消しの第三者への対抗の可否

誤認または困惑による消費者契約の申込みまたはその承諾の意思表示の取消しは、これをもって善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

 この場合の善意とは、取消しの対象となった消費者契約に係る消費者の意思表示が、事業者の不適切な行為による誤認や困惑によるものであることを知らなかったという意味である。善意でかつ過失がない第三者がいる場合は、誤認や困惑によって契約の申込みまたは承諾の意思表示をしてしまった消費者にも落ち度があるので、消費者よりも善意でかつ過失がない第三者のほうが保護されるということである。


(5) 取消権の行使期間

取消権は、追認をすることができる時から1年間行わないときは、時効によって消滅する。当該消費者契約の締結の時から5年を経過したときも、同様とする。

 これは、民法が規定する取消権の行使期間である、追認をすることができる時から5年間、または、行為の時から20年を短縮するものである。