• 適正化法ー5.マンション建替え円滑化法
  • 3.マンション敷地売却制度および団地における敷地分割制度
  • マンション敷地売却制度および団地における敷地分割制度
  • Sec.1

1マンション敷地売却制度および団地における敷地分割制度

堀川 寿和2021/12/14 12:59

マンション敷地売却制度および団地における敷地分割制度とは

① マンション敷地売却制度

 マンションに耐震性不足や外壁の剥落等により危険が生ずるおそれがある場合、その後の選択肢としては、(a)耐震改修・維持修繕を行う、(b)マンションを建て替える、(c)マンションと敷地をともに売却してしまう、などが考えられる。マンション敷地売却制度は、このうち、(c)のマンションおよびその敷地を売却しようとする場合に、その売却を円滑に行えるようにするために設けられたものである。

 マンションの敷地は区分所有者の共有とされているため、民法の原則通りであれば、共有者である区分所有者全員の同意がなければ、敷地を売却することができない。しかし、敷地の売却について全員の同意を得ることは、現実問題として困難である。そこで、マンション建替え円滑化法は、除却の必要性に係る認定を受けたマンションについては、特別多数決による「マンション敷地売却決議」があれば、マンションとその敷地を売却することができる旨を定めている。また、敷地売却事業を円滑に行うため、これを実施する法人として、マンション敷地売却組合の設立も認めている。


② 団地における敷地分割制度

 団地において一部の棟に耐震性不足や外壁の剥落等により危害が生ずるおそれのある場合は、他の棟はそのままに、その一部の棟についてのみ建替え・敷地売却を行う場合がある。このような場合に、敷地分割が必要となることがあるが、団地において敷地分割を行おうとする場合、民法の原則では、敷地の共有者である団地建物所有者全員の同意が必要になる。そこで、マンション建替え円滑化法は、敷地の分割を円滑に行えるよう、除却の必要性に係る認定を受けたマンションを含む団地については、全員の合意によらず、特別多数決による「敷地分割決議」があれば敷地の分割ができる旨を定めている。また、敷地分割事業を円滑に行うため、これを実施する法人として、敷地分割組合の設立も認めている。


除却する必要のあるマンションに係る特別の措置

(1) マンションの要除却認定

 マンションの管理者等は、特定行政庁に対し、当該マンションを除却する必要がある旨の認定を申請することができる。

 特定行政庁は、当該申請に係るマンションが次のいずれかに該当するときは、マンションを除却する必要がある旨の認定〔要除却認定〕を行わなければならない。


① 当該申請に係るマンションが地震に対する安全性に係る建築基準法またはこれに基づく命令もしくは条例の規定に準ずるものとして国土交通大臣が定める基準に適合していないと認められるとき。
② 当該申請に係るマンションが火災に対する安全性に係る建築基準法またはこれに基づく命令もしくは条例の規定に準ずるものとして国土交通大臣が定める基準に適合していないと認められるとき。
③ 当該申請に係るマンションが「外壁等」〔外壁、外装材その他これらに類する建物の部分〕が剝離し、落下することにより周辺に危害を生ずるおそれがあるものとして国土交通大臣が定める基準に該当すると認められるとき。
④ 当該申請に係るマンションが給水、排水その他の配管設備(その改修に関する工事を行うことが著しく困難なものとして国土交通省令で定めるものに限る。)の損傷、腐食その他の劣化により著しく衛生上有害となるおそれがあるものとして国土交通大臣が定める基準に該当すると認められるとき。
⑤ 当該申請に係るマンションが高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律〔バリアフリー法〕に規定する建築物移動等円滑化基準に準ずるものとして国土交通大臣が定める基準に適合していないと認められるとき。

 この認定を受けたマンションを「要除却認定マンション」といい、その区分所有者は、当該要除却認定マンションについて除却を行うよう努めなければならない。なお、要除却認定マンションを除却した後、建替えにより新たにマンションを建築する場合は、容積率制限の緩和〔下記(2)〕の対象となる。

 また、上記①~③に該当する場合の要除却認定を「特定用除却認定」といい、これを受けたマンションを「特定用除却認定マンション」という。「特定用除却認定マンション」の敷地が、マンション敷地売却制度の対象となり、団地内建物を構成する「特定用除却認定マンション」の敷地が、団地における敷地分割制度の対象となる。


(2) 容積率制限の緩和

 その敷地面積が一定規模以上であるマンションのうち、要除却認定マンションに係るマンションの建替えにより新たに建築されるマンションで、特定行政庁が交通上、安全上、防火上および衛生上支障がなく、かつ、その建蔽率、容積率および各部分の高さについて総合的な配慮がなされていることにより市街地の環境の整備改善に資すると認めて許可したものについては、その容積率の制限が、許可の範囲内で緩和される。この特例により、マンションを除却したあとのマンション再建のインセンティブが高められている。


(3) マンション敷地売却決議

 特定要除却認定を受けた場合は、特定要除却認定マンションの区分所有者は、区分所有者集会において、区分所有者、議決権および当該敷地利用権の持分の価格の各5分の4以上の多数で、当該特定要除却認定マンションおよびその敷地(敷地利用権が借地権であるときはその借地権)を売却する旨の決議(マンション敷地売却決議)をすることができる。

 マンション敷地売却決議においては、次の事項を定めなければならない。

① 買受人となるべき者の氏名または名称
② 売却による代金の見込額
③ 売却により各区分所有者が取得することができる金銭(分配金)の額の算定方法に関する事項

 マンション敷地売却決議に賛成した各区分所有者、決議後にマンション敷地売却決議の内容によりマンション敷地売却に参加する旨を回答した各区分所有者および区分所有権または敷地利用権を買い受けた各買受指定者(これらの者の承継人を含む。)は、マンション敷地売却決議の内容によりマンション敷地売却を行う旨の合意をしたものとみなされ、「マンション敷地売却合意者」という。


(4) 買受人の決定および買受計画の認定

 マンション敷地売却決議をしようとする場合は、まず、敷地の買受人が決定されている必要がある。

 マンション敷地売却決議が予定されている特定要除却認定マンションについて、マンション敷地売却決議があった場合にこれを買い受けようとする者(買受人)は、当該決議が行われる前に、当該マンションに関する買受計画を作成し、都道府県知事等の認定を受けなければならない。

 買受計画とは、マンション敷地売却決議がされた特定要除却認定マンションの買受けおよび除却ならびに代替建築物の提供等〔特定要除却認定マンションに代わるべき建築物等の提供またはあっせん〕に関する計画をいう。買受計画には、マンションを除却した後の土地の利用に関する事項も記載しなければならない。しかし、マンションを除却した後の敷地の利用について制限はなく、買受人にマンションの再建が義務付けられているわけではない。


(5) 敷地分割決議

 特定要除却認定を受けた場合は、団地建物所有者集会において、特定団地建物所有者および議決権の各5分の4以上の多数で、当該特定団地建物所有者の共有に属する団地内建物の敷地またはその借地権を分割する旨の決議〔敷地分割決議〕をすることができる。なお、団地建物所有者集会における各特定団地建物所有者の議決権は、規約に別段の定めがある場合であっても、当該団地内建物の敷地またはその借地権の共有持分の割合による。

 敷地分割決議においては、次の事項を定めなければならない。

① 除却マンション敷地〔敷地分割後の特定要除却認定マンション(敷地分割決議に係るものに限る。)の存する敷地をいう。〕となるべき土地の区域および非除却マンション敷地〔敷地分割後の除却マンション敷地以外の敷地をいう。〕となるべき土地の区域
② 敷地分割後の土地またはその借地権の帰属に関する事項
③ 敷地分割後の団地共用部分の共有持分の帰属に関する事項
④ 敷地分割に要する費用の概算額
⑤ 敷地分割に要する費用の分担に関する事項
⑥ 団地内の駐車場、集会所その他の生活に必要な共同利用施設の敷地分割後の管理および使用に関する事項

 敷地分割決議に賛成した各特定団地建物所有者(その承継人を含む。)は、敷地分割決議の内容により敷地分割を行う旨の合意をしたものとみなされる。


* 「特定団地建物所有者」とは、団地内建物を構成する特定要除却認定マンションの敷地(当該特定要除却認定マンションの敷地利用権が借地権であるときは、その借地権)の共有者である当該団地内建物の団地建物所有者をいう。


マンション敷地売却事業

(1) マンション敷地売却組合の設立

 マンション敷地売却合意者は、5人以上共同して、定款および資金計画を定め、都道府県知事等の認可(設立の認可)を受けて、マンション敷地売却組合を設立することができる。

 設立の認可を申請しようとするマンション敷地売却合意者は、組合の設立について、マンション敷地売却合意者の4分の3以上の同意を得なければならない。その際、同意した者の議決権の合計がマンション敷地売却合意者の議決権の合計の4分の3以上であり、かつ、同意した者の敷地利用権の持分の価格の合計がマンション敷地売却合意者の敷地利用権の持分の価格の合計の4分の3以上である必要がある。

 マンション敷地売却組合は、設立の認可によって成立する。都道府県知事等は、設立の認可をしたときは、遅滞なく、一定事項を公告しなければならない(認可の公告)。

 マンション敷地売却組合は、この法律の規定により、当然に法人とされる。組合は、その名称中に「マンション敷地売却組合」という文字を用いなければならない。


(2) 売渡請求

 マンション敷地売却組合は、認可の公告の日から2か月以内に、マンション敷地売却に参加しない旨を回答した区分所有者に対し、区分所有権および敷地利用権を時価で売り渡すべきことを請求することができる。この請求は、正当な理由がある場合を除き、マンション敷地売却決議の日から1年以内にしなければならない。


(3) 分配金取得手続等

 マンション敷地売却組合は、認可の公告があったときは、遅滞なく、登記所に、売却マンションの区分所有権および敷地利用権について、分配金取得手続開始の登記を申請するとともに、分配金取得計画を定めて都道府県知事等の認可(分配金取得計画の認可)を受けなければならない。

 分配金取得計画の認可を申請するにあたり、組合は、分配金取得計画について、あらかじめ、総会の議決(過半数の普通決議)を経なければならず、売却マンションの敷地利用権が賃借権であるときは、売却マンションの敷地の所有者の同意も得ておかなければならない。

 分配金取得計画においては、次の事項を定めなければならない。

① 組合員の氏名または名称および住所
② 組合員が売却マンションについて有する区分所有権または敷地利用権
③ 組合員が取得することとなる分配金の価額
④ 売却マンションまたはその敷地に関する権利(組合員の有する区分所有権および敷地利用権を除く)を有する者で、この法律の規定により、権利消滅期日において当該権利を失うものの氏名または名称および住所、失われる売却マンションまたはその敷地について有する権利ならびにその価額
⑤ 売却マンションまたはその敷地の明渡しにより④に掲げる者(売却マンションまたはその敷地を占有している者に限る)が受ける損失の額
⑥ 補償金の支払に係る利子またはその決定方法
⑦ 権利消滅期日
⑧ その他国土交通省令で定める事項


(4) マンションおよび敷地利用権等の帰属

 分配金取得計画に定められた権利消滅期日に、売却マンションはマンション敷地売却組合に帰属し、区分所有建物ではなくなる。そして、売却マンションを目的とする所有権以外の権利(借家権、抵当権など)は消滅する。

 同様に、権利消滅期日に、売却マンションの敷地利用権も組合に帰属する。そして、売却マンションの敷地利用権が所有権のときは、その敷地を目的とする所有権、地役権および地上権以外の権利は消滅し、敷地利用権が借地権のときは、その借地権を目的とする権利は消滅する。

 このように、権利消滅期日に、売却マンションおよびその敷地利用権を、組合が取得し、このあと、組合から買受人に対して、マンションとその敷地が売却され、買受人によってマンションが除却されることになる。


(5) 分配金および補償金の支払い

 マンション敷地売却組合は、組合員に対して、権利消滅期日までに、分配金を支払わなければならない。また、組合は、売却マンションまたはその敷地に関する権利を有する者(借家権者など)で、権利消滅期日に当該権利を失うものに対し、その補償として、権利消滅期日までに補償金を支払わなければならない。