• 民法ー13.被災区分所有法
  • 1.被災区分所有法
  • 被災区分所有法
  • Sec.1

1被災区分所有法

堀川 寿和2021/12/13 11:47

被災区分所有法


 この法律は、大規模な火災、震災その他の災害により滅失した区分所有建物の再建等を容易にするための規定である。




Point1 大規模な火災・震災等で区分所有建物が全部滅失すると区分所有関係は消滅し、敷地の共有関係だけが残る。この場合、区分所有法は適用されず、民法が適用されるため、建物を再建するためには、共有物の変更行為として敷地共有者の全員の合意が必要となる。つまり、敷地共有者の一人でも再建に反対すると、再建はできなくなる。そこで、一定の場合に、敷地共有者の全員の合意がなくても建物の再建を認めようというのが、この被災区分所有法である。


Point2 大規模な火災、震災その他の災害で政令で定めるもの(政令指定災害)により、区分所有建物が全部滅失した場合に、再建築に関する敷地共有者間の利害調整を図るために平成7年3月24日に制定された。また、近年大震災の発生等を背景として平成25年6月に改正法が制定された。

(1) 敷地共有者等集会

 「政令指定災害」により区分所有建物の全部が滅失した場合に、その建物に係る敷地利用権が数人で有する所有権その他の権利であったときは、その権利(敷地共有持分等)を有する者(敷地共有者等)は、その政令施行日から起算して3年が経過する日までの間は、集会(敷地共有者等集会)を開き、管理者を置くことができる。


Point ここでいう「全部が滅失した場合」には、政令指定災害によって大規模滅失した場合に、区分所有建物が、「取壊し決議」または「区分所有者全員の同意」に基づいて取り壊されたときを含む。


■敷地共有者等集会の開催要件

 敷地共有持分等を有する者は、以下の要件を満たすときは、敷地共有者等集会を開くことができる。


① 政令指定災害により、区分所有建物の全部が滅失したこと

(政令指定災害による大規模滅失の場合に、取壊し決議または区分所有者全員の同意に基づき取り壊されたときを含む)


② 区分所有建物の敷地利用権が数人で有する所有権その他の権利であること。


※ 敷地共有持分等とは、②の権利のことをいい、敷地共有持分を有する者を「敷地共有者等」という。

(2) 再建決議

 政令指定災害によって区分所有建物の全部が滅失した場合は、敷地共有者等集会において、敷地共有者等の議決権の5分の4以上の多数で、滅失した区分所有建物に係る建物の敷地もしくはその一部の土地または当該建物の敷地の全部もしくは一部を含む土地に建物を建築する旨の決議(再建決議)をすることができる。

 この場合の議決権は敷地共有持分等の価格の割合による。


Point1 建物が全部滅失した場合は、建替え決議をすることができないが、再建決議をすることができる。


Point2 再建決議においては、次の事項を定めなければならない。

① 新たに建築する再建建物の設計の概要
② 再建建物の建築に要する費用の概算額
③ ②の費用の分担に関する事項
④ 再建建物の区分所有権の帰属に関する事項


① 再建決議を目的とする敷地共有者等集会の召集権者



 原則として管理者が招集する。

 管理者がいない場合は、議決権の5分の1以上を有する敷地共有者が招集する。この場合の議決権は、各敷地共有者の敷地共有持分等の価格の割合による(区分所有建物が消滅しているので、専有部分の床面積の割合では計算できないことになる)。


② 再建決議を目的とする敷地共有者等集会の召集手続

・集会の召集の通知は、会日より少なくとも2カ月前に、発しなければならない。

・専有部分の共有者であった者に対する通知は、議決権を行使すべき者(その者がいなときは共有者の1人)にすれば足りる。

・議案の要領のほか、再建を必要とする理由をも通知しなければならない。

・敷地共有者等全員の同意があるときは、召集の手続きを経ないで開くことができる。


Point 区分所有法では、集会の通知に代えて建物内の見やすい場所への掲示による通知の方法を認めているが、被災区分所有法では、この規定は準用されず(そもそも建物は滅失して存在しない)、掲示の方法により召集通知を行うことはできない。

(3) 敷地売却決議

 政令指定災害によって区分所有建物の全部が滅失した場合に、敷地共有者等集会において、敷地共有者等の議決権の5分の4以上の多数で、敷地共有持分等に係る土地を売却する旨の決議(敷地売却決議)をすることができる。


(4) 敷地の分割禁止(共有物分割請求の禁止)

 民法のルールでは、共有者はいつでも共有物を分割する請求をすることができる。しかし、政令指定災害でマンションが全部滅失した場合に、敷地の分割請求を認めると再建が不可能となってしまう。そこで、敷地共有者等は、「政令指定災害の政令施行日から起算して1カ月を経過する日の翌日」から「政令施行日から起算して3年を経過した日」までの間は、敷地の分割を請求することができない。

 ただし、5分の1を超える議決権を有する敷地共有者等が分割請求をする場合は、敷地の分割を請求することができる。




Point 政令指定災害があった場合に、区分所有建物が一部滅失にとどまる場合には、区分所有関係は存続するので、区分所有法の規定が適用される。

区分所有法では、大規模滅失の場合には、復旧または建替え決議が、大規模滅失があったときから6月以内に行われない場合に、「買取請求」を認めているが、被災区分所有法では、この期間が「政令施行日から起算して1年以内に」と修正されている。

(5) 区分所有建物が一部滅失した場合の措置

① 区分所有者集会の特例

 政令指定災害により区分所有建物が大規模滅失した場合に、区分所有者は、その政令の施行の日から起算して1年を経過する日までの間は、被災区分所有法および区分所有法の定めるところにより、集会(区分所有者集会)を開くことができる。


② 建物敷地売却決議

 政令指定災害により区分所有建物が大規模滅失した場合に、区分所有者集会において、区分所有者、議決権および当該敷地利用権の持分の価格の各5分の4以上の多数で、当該区分所有建物およびその敷地を売却する旨の決議(建物敷地売却決議)をすることができる。


③ 建物取壊し敷地売却決議

 政令指定災害により区分所有建物が大規模滅失した場合に、区分所有者集会において、区分所有者、議決権および敷地利用権の持分の価格の各5分の4以上の多数で、当該区分所有建物を取り壊し、かつ、これに係る建物の敷地を売却する旨の決議(建物取壊し敷地売却決議)をすることができる。


④ 取壊し決議

 政令指定災害により区分所有建物が大規模滅失した場合に、区分所有者集会において、区分所有者および議決権の各5分の4以上の多数で、当該区分所有建物を取り壊す旨の決議(取壊し決議)をすることができる。


Point 「建物敷地売却決議」および「建物取壊し敷地売却決議」では、敷地の処分も伴うため、「敷地利用権の持分の価格の5分の4以上」も決議要件とされる。それに対して、「取り壊し決議」では、敷地の処分は伴わないため、「敷地利用権の持分の価格」は決議要件に含まれない。