- 民法ー11.区分所有法③(復旧および建替え)
- 1.復旧
- 復旧
- Sec.1
1復旧
区分所有建物の一部が地震等により滅失した場合、「復旧を望む区分所有者」や「建替えを望む区分所有者」あるいは「復旧も建替えも望まない区分所有者」などの利害が衝突することになる。そこでこれら利害を調整するための区分所有法上のルールを学習する。
なお、建物が全部滅失した場合は、区分所有関係が消滅するので、区分所有法は適用されなくなる。このような場合は「民法」または「被災区分所有法」が適用されることになる。
■復旧
「復旧」とは、区分所有建物の一部が火災や地震などで滅失した場合に、その滅失した部分を原状回復(滅失前の状態に復旧)させることをいう。
一部滅失の程度に応じて小規模滅失と大規模滅失に分けられ、共用部分の復旧の手続が異なる。
(1) 専有部分の復旧
小規模滅失であるか大規模滅失であるかにかかわらず、各区分所有者は、滅失した自己の専有部分を単独で復旧することができる。
(2) 共用部分の復旧(小規模滅失)
「小規模滅失」とは、建物の価格の2分の1以下に相当する部分が滅失した場合をいう。
小規模滅失の場合は、各区分所有者は、滅失した共用部分を単独で復旧することができる。これについては、規約で別段の定めをすることができる。また、単独での復旧以外に、復旧決議(区分所有者および議決権の各過半数)による復旧も認めている。復旧決議があった場合は、各区分所有者が単独で復旧することはできなくなる。
Point1 共用部分を単独で復旧した区分所有者は、他の区分所有者に対し、復旧に要した金額(復旧費用)を共用部分の持分の割合に応じて償還請求できる。この場合、裁判所は、償還の請求を受けた区分所有者の請求により、償還金の支払いにつき相当の期限を許与することができる。
Point2 復旧決議については、規約で別段の定めをすることができる(「集会に出席した区分所有者の議決権の過半数」など)。
Point3 小規模滅失の場合であっても、復旧をしないで、建替え決議をすることができる。
(3) 共用部分の復旧(大規模滅失)
「大規模滅失」とは、建物の価格の2分の1を超える部分が滅失した場合をいう。
大規模滅失の場合は、各区分所有者による単独での復旧はできず、復旧決議による復旧しか認められていない。ただし、小規模滅失の場合と異なり、特別決議(区分所有者および議決権の各4分の3以上の賛成)が必要となる。
Point1 大規模滅失があった場合、各区分所有者が共用部分を単独で復旧しても、その復旧に要した金額(復旧費用)の償還請求することは認められない。
Point2 上記の復旧決議があった場合には、「買取請求をした者」以外のすべての区分所有者が、復旧に参加し、復旧に要した費用について、共用部分の持分の割合により負担しなければならない。なお、この復旧費用の支払いにつき、裁判所に相当の期限の許与を請求することはできないものとされている。
Point3 大規模滅失の場合に、復旧の決議をしないで、建替え決議をすることができる。
(4) 買取請求
Point1 大規模滅失の復旧決議があった場合、その決議から2週間を経過したときは、決議賛成者以外の区分所有者は、以下の①または②に対して、建物および敷地に関する権利を時価で買い取るべきことを請求することができる。
① 買取指定者が指定されていない場合は、決議賛成者の全部または一部
② 買取指定者が指定されている場合は、買取指定者
Point2 「決議賛成者」とは、復旧決議に賛成した区分所有者(その承継人を含む)をいう。「決議賛成者以外の区分所有者」とは、次の者をいう。
・復旧決議に反対した区分所有者
・復旧決議に出席したが、議決権を行使しなかった(棄権)区分所有者
・復旧決議に欠席した区分所有者
Point3 「買取指定者」とは、大規模滅失の日から2週間以内に、決議賛成者全員の合意により建物およびその敷地に関する権利を買い取ることができる者として指定されたものをいう。買取指定者が、買取指定者として指定された旨を決議賛成者以外の区分所有者に書面で通知をしたときは、その通知を受けた区分所有者は買取指定者に対してのみ買取請求をすることができる。
Point4 買取指定者は、書面による通知〔上記Point3〕に代えて、この通知を受けるべき区分所有者の承諾を得て、電磁的方法により買取指定者の指定がされた旨を通知することができる。この方法で通知した場合は、本来の書面による通知をしたものとみなされる。
Point1 買取請求を受けた決議賛成者は、請求を受けた日から2月以内に、他の決議賛成者の全部または一部に対し、決議賛成者以外の区分所有者を除いて算定した共用部分の持分の割合に応じて、建物および敷地に関する権利を時価で買い取るべきことを請求することができる。
Point2 買取指定者が債務の全部または一部を弁済しないときは、決議に賛成した区分所有者が連帯してその債務の全部または一部を弁済する責任を負うことになる。
Point3 裁判所は、買取請求を受けた区分所有者または買取指定者の請求により、買取代金の支払いにつき相当の期限を許与することができる。また、裁判所は、買取指定者が弁済しない場合の債務につき履行の請求を受けた決議賛成者の請求により、その支払につき相当の期限を許与することができる。
(5) 復旧決議等がなかった場合の買取請求
大規模滅失があった場合において、建物の一部が滅失した日から6月以内に「復旧決議」、「建替え決議」等なにもないときは、各区分所有者(復旧も建替えも望まない者)は、他の区分所有者(復旧または建替えを望む者)に対し、建物および敷地に関する権利を時価で買い取るべきことを請求することができる。
■建替え
(1) 建替え決議
① 建替え
建替えとは、建物を取り壊し、かつ、次のイ)~ニ)のいずれかの土地に新たに建物を建築することである。
イ)当該建物の敷地
ロ)当該建物の敷地の一部の土地 ハ)当該建物の敷地の全部を含む土地 ニ)当該建物の敷地の一部を含む土地 |
Point1 建替えとは、既存建物を取り壊して、取り壊した建物が建っていた敷地と重複する土地に、再建建物を建築することである。したがって、取り壊した建物が建っていた敷地と異なる土地(重複しない土地)に、再建建物を建築することは、建替えではない。
Point2 「再建建物」は既存建物とその利用目的が同一である必要はない。
Point3 区分所有建物が全部滅失した場合には、この規定は適用されない。
② 建替え決議
建替え決議とは、上記の「建替え」を行う旨の決議である。
区分所有者および議決権の各5分の4以上の多数で、建替え決議をすることができる。なお、建替え決議に関する規定について、規約で別段の定めをすることはできない。
Point 建替え決議においては、次の事項を定めなければならない
① 新たに建築する建物(再建建物)の設計の概要
② 建物の取壊しおよび再建建物の建築に要する費用の概算額 ③ ②に規定する費用の分担に関する事項 ④ 再建建物の区分所有権の帰属に関する事項 |
(2) 集会の召集および説明会の開催
① 集会の召集
建替え決議を行う集会の召集通知は、会日の少なくとも2月前に区分所有者に発しなければならない。この期間は、規約で伸長することができる。
Point 召集通知をするときは議案の要領のほか、以下の事項をも併せて通知しなければならない。
① 建替えを必要とする理由
② 建替えをしないとした場合における建物の効用の維持または回復を要する費用の額およびその内訳 ③ 建物の修繕に関する計画が定められているときは、その計画の内容 ④ 建物につき修繕積立金として積み立てられている金額 |
② 説明会の開催
集会を招集した者は、集会の会日より少なくとも1月前までに、召集通知の事項について区分所有者に対し説明を行うための説明会を開催しなければならない。
説明会の召集通知は、開催日より少なくとも1週間前に、各区分所有者に発しなければならない。この期間は規約で伸長することができる。
説明会は、区分所有者全員の同意があるときは、招集の手続きを経ないで開催することができる。
(3) 売渡請求
ポイントの整理
大規模滅失の復旧決議で、決議に賛成しなかった者から賛成した者へ「買取請求」ができるが、
建替え決議の場合は、反対に建替え参加者から不参加者に「売渡請求」ができる。 |
① 建替え参加の旨の催告
建替決議があったときは、集会を召集した者は、遅滞なく、建替え決議に賛成し なかった区分所有者に対し、建替え決議の内容により建替えに参加するか否かを回答すべき旨を書面で催告しなければならない。
催告を受けた区分所有者は、催告を受けた日から2月以内に回答しなければならない。もし、2月以内に回答しなかった区分所有者は、建替え決議に参加しない旨を回答したものとみなされる。
Point 集会を招集した者は、上記の書面による催告に代えて、建替え決議に賛成しなかった区分所有者の承諾を得て、電磁的方法により建替え決議の内容により建替えに参加するか否かを解答すべき旨を催告することができる。この方法で催告した場合は、本来の書面による催告をしたものとみなされる。
② 売渡請求
催告を受けた日から2月が経過したときは、以下のイ)~ハ)の者は、催告を受けた日から2月を経過した日から2月以内に、建替えに参加しない旨を回答した区分所有者に対し、「区分所有権」および「敷地利用権」を時価で売り渡すべきことを請求することができる。
イ)建替え決議に賛成した区分所有者
ロ)建替えに参加する旨を回答した区分所有者
ハ)買取指定者
(4) 再売渡請求(買戻し請求)
建替え決議の日から2年以内に、正当な理由なく建替えのための取壊し工事に着手しないときは、売渡請求により区分所有権および敷地利用権を売渡した者は、建替え決議の日から2年の満了の日から6月以内に、その区分所有権を現在所有している者に対し、買主が支払った代金を提供してその権利を売り渡すよう請求することができる。
ただし、取壊し工事の未着手について正当な理由があるときには、この買戻請求はできない。
(5) 建替えに関する合意
建替え決議に賛成した区分所有者、建替えに参加する旨を回答した区分所有者、買受指定者およびこれらの承継人は、建替え決議の内容により建替えを行う旨の合意したものとみなす。
これにより、区分所有関係は解消され、管理組合(または管理組合法人)は消滅し、新たに建替え参加者の組合が形成されることになる。この組合のことをマンション建替え等円滑法にいうところの「マンション建替組合」という。