• 民法ー5.債権各論
  • 7.不法行為
  • 不法行為
  • Sec.1

1不法行為

堀川 寿和2021/12/10 15:06

 民法では、故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負うと規定している。つまり他人によって損害を受けた被害者は、損害賠償請求によって救済が図られるということである。

不法行為

(1)不法行為とは

 不法行為とは、故意または過失によって、他人の権利・利益を侵害することにより、他人に損害を生じさせる行為をいう。

 不法行為により損害を生じさせた者を加害者といい、損害を受けた者を被害者という。



(2)不法行為の成立要件

① 加害者に故意または過失があること
② 加害行為が違法であること
③ 被害者に損害が発生していること
④ 加害行為と損害との間に因果関係があること
⑤ 加害者に責任能力があること


Point1 故意とは「わざと」、過失とは「うっかり」のことをいう。故意・過失があることについては被害者が立証しなければならない。


Point2 他人の不法行為に対し、自己または第三者の権利・利益を防衛するため、やむを得ずする加害行為を正当防衛という。このような場合は、加害行為に違法性が認められない。


Point3 「損害」には、財産的損害だけではなく、精神的損害も含む。精神的損害に対する賠償を慰謝料という。


Point4 「因果関係」とは、加害行為が原因となって損害の発生という結果が生じている関係である。因果関係があることについては、被害者が立証しなければならない。


Point5 「責任能力」とは、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能をいう。一般的には12歳程度の知能と解されている(判例)。


不法行為の効果

(1)損害賠償請求権の発生

 不法行為が成立すると、被害者は加害者に対してその損害の賠償を請求することができる。

 損害賠償は、原則として、金銭賠償である。


Point1 被害者の損害賠償請求権は、不法行為により損害が発生した時に発生する。


Point2 加害者の損害賠償債務は、なんらの催告を要することなく、不法行為により損害が発生した時から遅滞となる。被害者が加害者に対して損害賠償を請求した時からではない。


Poin3 胎児は、損害賠償の請求権については、既に生まれたものとみなされる。したがって、出生後、胎児にも損害賠償請求権が認められる


Point4 被害者の損害賠償請求権は、被害者の死亡により相続される。精神的損害に対する損害賠償である慰謝料請求権も、その損害の発生と同時に発生するので、被害者が死亡した場合に、被害者が生前に請求の意思を表明していなくても(即死のような場合であっても)、慰謝料請求権は相続される


Point5 不法行為責任と債務不履行責任はそれぞれ別個の責任であるので、債務者が債務不履行を行った場合に、不法行為の要件も満たしているのであれば、債権者は債務者に対して不法行為の責任を追及することも可能である。


(2)不法行為による損害賠償請求権の消滅時効

 次の①または②に該当する場合は、不法行為による損害賠償の請求権は、時効によって消滅する。

① 被害者またはその法定代理人が損害および加害者を知った時から3年間行使しないとき
② 不法行為の時から20年間行使しないとき


Point 人の生命または身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効については、上記の①が「被害者またはその法定代理人が損害および加害者を知った時から5年間行使しないとき」となる。



特殊の不法行為

 民法は一般の不法行為以外に特殊の不法行為を規定している。


(1)使用者責任

 ある事業のために他人を使用する者(使用者)は、被用者が、その事業の執行について、不法行為によって第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。この責任を、使用者責任という。

 使用者がこのような責任を負うのは、使用者は他人を使用することによって利益を得ているので、その利益を得る過程で生じた損害についても責任を負わせるべきだからである。




Point 使用者責任が成立しても、被用者の責任を免除するものではないので、被害者は使用者・被用者のいずれに対しても、損害賠償を請求することができる。


①使用者責任の要件

イ)使用者・被用者の関係があること

 使用者と被用者との間に雇用関係があることが多いが、雇用関係がなくとも、事実上の指揮監督関係が認められれば、使用者責任が成立する。


Point1 たとえば、マンション管理業者から再委託を受けた清掃業者の従業員が、マンション管理業者の事業の執行について他人に損害を与えた場合は、マンション管理業者が使用者責任を負うことがある。


Point2 短期間だけ臨時に雇用された者も被用者である。


Point3 法人の代表者は、法人の被用者ではないので、その職務上、不法行為により第三者に損害を加えても、使用者責任は成立しない。ただし、法人の代表者の行為は法人自身の行為として扱われるので、法人の代表者が、その職務上、不法行為により第三者に損害を加えた場合は、法人自身に不法行為責任(損害賠償責任)が生じる。

ロ)被用者が不法行為をしたこと

 使用者責任が成立するためには、被用者の行為が一般の不法行為の成立要件を満たす(被用者に一般の不法行為責任が発生する)必要がある。


Point 被用者に一般の不法行為が成立しないのに、使用者に責任が発生することはない。


ハ)不法行為が事業の執行についてなされたこと

 事業の執行は事業そのものに限られず、事業に関する行為も含んでいる。また、事業の執行にあたるかどうかは、行為の外形から判断される。


Point たとえば、従業員の行為であっても、それがその従業員の職務とは全く関係のない私生活上の行為によって第三者に損害が発生したような場合は、「事業の執行について」とはいえないので、使用者責任は成立しない


ニ)免責事由の証明がないこと

使用者が被用者の選任およびその事業の監督について相当の注意をしたとき(過失がないとき)、または相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、使用者責任を負わなくてよい。これを使用者が証明した場合は、使用者は免責される。


②使用者に代わって事業を監督する者の責任

 使用者に代わって事業を監督する者も使用者責任と同様の責任を負う。


Point たとえば、Aの従業者Yが、Aの事業の執行について、不法行為によりXに損害を加えた場合に、Aに代わって事業を監督するBがいるときは、Xは、使用者責任を追及して、AだけでなくBに対しても損害賠償を請求することができる(当然Yに対しても損害賠償を請求することができる)。


③求償権

 損害を賠償した使用者は、被用者に求償することができる。ただし、判例では、使用者は、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対して求償することができるとして、求償権の制限を認めており、必ずしも全額求償できるとは限らない。

 なお、損害を賠償した被用者は、使用者に求償することはできない。

(2)共同不法行為

①共同不法行為

イ)狭義の共同不法行為

 数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。

事例 AとBが共同してCに暴力を加えたため、Cが重傷を負った。



Point 共同不法行為が成立する場合、被害者は、各行為者のいずれに対しても、全額の損害賠償請求をすることができる。


ロ)加害者不明の共同不法行為

 共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、共同行為者は各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。


②求償権

 共同不法行為者の1人が加害者に損害を賠償したときは、他の共同不法行為者に対して、それぞれの過失割合に応じて求償することができる。


(3)注文者の責任

 請負人がその仕事について、不法行為により第三者に損害を加えた場合、請負人のみが損害を賠償する責任を負い、注文者は責任を負わない。

 ただし、注文または指図についてその注文者に過失があったときは、注文者も損害賠償責任を負う。


Point 注文者は、その注文・指図に過失がないのであれば、損害賠償責任を負わない。 


(4)土地の工作物の占有者および所有者の責任(土地工作物責任)

 土地の工作物の設置または保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。この所有者の責任は、無過失責任であり、所有者は損害の発生について無過失であったことを証明しても、責任を免れることができない。

 この場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者または所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。


Point1 土地の工作物から生じた損害については、第1次的には「占有者」が、第2次的には「所有者」が、その損害賠償責任を負う。


Point2 損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者または所有者はその者に対して求償権を行使することができるのであって、責任を免れることができるわけではない。


Point3 竹木の栽植または支持に瑕疵がある場合にも、土地工作物責任のルールが準用される。


事例 B所有の建物をAが賃借していたところ、その建物の設置に瑕疵があり、瓦が落下して通行人のCが重傷を負ってしまった。

 まず、①建物の賃借人Aが被害者Cに対して損害賠償責任を負う。②賃借人Aが損害の発生を防止するために必要な措置をしていたときは、Aは責任を免れ、建物の所有者Bが被害者Cに対して損害賠償責任を負う(無過失責任)。そして、③建物の屋根に欠陥があったことの原因が、建物の建築工事を請け負った建築会社の欠陥工事にあったときは、Cに損害を賠償したAまたはBは、建築会社に求償することができる。



(5)動物の占有者等の責任

 動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類および性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、責任を免れる。

 占有者に代わって動物を管理する者も、占有者と同様の責任を負う。