- 民法ー3.物権(担保物権を除く)
- 1.不動産物権変動と登記
- 不動産物権変動と登記
- Sec.1
1不動産物権変動と登記
この章では物権という具体的な権利の内容について学習する。物権変動(所有権移転など)は、当事者の意思表示のみによって起こる。しかし、その変動した権利関係を第三者に対抗するためには、「登記」を必要とする。この登記を対抗要件という。
■不動産物権変動
(1)不動産の物権変動
建物を建てればその建物に所有権が発生し、この建物を売却すれば所有権が移転し、また、この建物が火災で焼失すれば所有権は消滅する。このような所有権の発生・移転・消滅を物権変動という。
物権変動は、契約や相続、時効などによって生じる。
(2)契約による物権変動
物権の設定および移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。
Point 売買契約によって売主から買主に所有権が移転する時期は、所有権の移転時期に関する特約がない限り、売買契約成立時である。
■不動産物権変動の対抗要件(登記)
(1)不動産物権変動の対抗要件
不動産に関する物権の得喪および変更(不動産物権変動)は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
例えば、不動産売買において所有権が売主から買主に移転するのは売買契約成立時であるので、売買契約が成立すれば買主は売主に対して自分の所有権を主張することができるが、登記を備えていないと、買主は当事者間で生じた自分への所有権の移転を第三者に対しては対抗することができないということである。
このように、登記を備えると第三者に不動産物権変動を対抗できるようになる。登記のこの効力を対抗力といい、登記のことを不動産物権変動の対抗要件という。
(2)不動産の二重譲渡と登記
対抗要件が問題となる典型的な事例が、不動産の二重譲渡があった場合である。
事例 Aは自己所有地をBに売却し、さらに、その土地を、すでにAB間の売買契約が存在していることを知っている悪意のCにも売却した。
Point 登記がないと、第三者が悪意の場合であっても、物権変動を対抗することはできない。
■登記なしに対抗できる者(登記がないと対抗できない「第三者」でない者)
(1)詐欺または強迫によって登記の申請を妨げた者・他人のために登記を申請する義務を負う者
詐欺または強迫によって登記の申請を妨げた者および他人のために登記を申請する義務を負う者は、その登記がないことを主張することができない。したがって、これらの者に対しては、登記がなくても、所有権の移転を対抗することができる。
事例 Aは自己所有地をBに売却したが、Bはまだ登記をしていない。この場合、以下の①②においては、Bは自己に登記がなくても、登記を有するCに対して、その土地の所有権を主張することができる。
① Cは強迫によりBに登記を断念させ、C名義に登記を行った。
② ABから登記手続きの委任を受けたCが、その立場を利用してC名義に登記を行った。
(2)背信的悪意者
背信的悪意者とは、単なる悪意の者(物権変動があった事実を知る者)ではなく、物権変動の事実を知りながら、加害の意図など悪質な動機・目的で登記を得た者のことである。背信的悪意者は、登記がないことを主張する正当の利益を有しないため、「第三者」にはあたらない。これは、登記を得た経緯に照らすと、このような主張は信義則に反することになるからである。したがって、背信的悪意者に対しては、登記がなくても、所有権の取得を対抗することができる。
事例 BはAから土地を購入し、その土地を20数年間占有している。Cはその事実を知っていたが、Bがまだ登記をしていないのに乗じて、Bに高値で売りつけて利益を得る目的でAからその土地を購入し登記を備えた。このようなCを「背信的悪意者」といい、Bは自己に登記がなくても、登記を有するCに対して、その土地の所有権を主張することができる。
(3)無権利者
登記簿上所有者として表示されていても、その登記が架空のものである場合は、その登記名義人は無権利者であり、真の所有者は、無権利者に対して、登記がなくても所有権を主張することができる。
事例1 A所有の土地を、Bが文書偽造により自己名義に登記し、さらにその土地を自己所有地としてCに売却し、移転登記した。この場合、Bは「無権利者」であり、そのBから土地を買い受けたCも「無権利者」であるため、Aは自己に登記がなくても、Cに対して、その土地の所有権を主張できる。
事例2 Aが死亡し、Aが所有していた甲土地をAの子であるBとCの2人が共有持分を各2分の1として共同相続をしたが、CがBに無断でCの単独所有名義の登記をし、さらに甲土地の全部をDに売却し所有権移転登記もした。
この場合、Bは登記がなくても、自分の持分をDに対して対抗することができる。なぜなら、Cによる単独で相続した旨の登記は、Bの持分については無権利の登記であり、DもBの持分については無権利だからである。
Point 共同相続人は、他の共同相続人が単独で相続したように所有権移転登記をし、さらに第三者に所有権移転登記をした場合であっても、第三者に対して、自己の持分を登記なくして対抗することができる。
(4)不法占有者
何らの権原なく他人所有の土地・建物を不法に占有する者(不法占有者)に対しては、登記がなくても所有権の取得を対抗することができる。
事例 Aは自己所有の建物をBに売却したが、その建物を不法に占有しているCがいる。この場合、Bは、自己に登記がなくても、「不法占有者」Cに対して、その建物の所有権を主張し、建物の明渡しを請求できる。