• 民法ー2.総則
  • 5.時効
  • 時効
  • Sec.1

1時効

堀川 寿和2021/12/10 09:41

 時効とは、一定の期間、一定の事実状態が継続すると、権利を得たり(取得時効)または権利が消滅してしまったり(消滅時効)する制度である。つまり真実の権利関係と事実状態とが違っていた場合に、法律は長い間続いていた事実状態を保護することにしたのである。

取得時効

(1) 所有権の取得時効

 一定期間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得することができる。

 以下が、所有権の取得時効を主張するのに必要な占有期間である。

占有開始時の占有者の状態占有期間
善意かつ無過失
(自分の物と信じ、かつ、それについて落ち度がない)
10年間
悪意(他人の物と知っている)または
善意有過失(落ち度があって知らない)
20年間





Point1 占有とは、自己のためにする意思をもって物を所持すること、つまり物理的に物を支配することである。


Point2 所有の意思のある占有は自主占有、所有の意思のない占有は他主占有と呼ばれる。占有における所有の意思の有無は、占有者の内心の意思によってではなく、占有取得の原因たる事実によって客観的に定められる。

自主占有不動産の買主受贈者の占有
他主占有不動産の賃借人預かり主の占有

Point3 共有者の1人が単独で共有物の占有を継続したとしても、他人の共有持分部分については所有の意思があるとはいえない。したがって、区分所有者がマンションの共用部分の占有を継続したとしても、所有の意思がないため、その所有権を時効取得することはできない。


Point4 占有者は、「所有の意思をもって」、「善意で」、「平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定される。したがって、所有者が取得時効の成立を否定するためには、占有者に所有の意思がないこと(他主占有であること)を証明しなければならない。


(2) 所有権以外の財産権の取得時効

 所有権以外の財産権(地上権、永小作権、地役権、不動産賃借権)を、自己のためにする意思をもって、平穏に、かつ、公然と行使する者は、所有権の取得時効の場合と同様に、20年または10年を経過した後、その権利を取得することができる。


Point 地上権や地役権などの所有権以外の財産権も、時効によって取得することができる。


消滅時効

(1)消滅時効とは

 一定期間権利を行使しなければ権利が消滅してしまうのが消滅時効である。


Point 所有権消滅時効によって消滅することはない(取得時効によって奪われることはある)。


(2)債権の消滅時効(原則)

 債権は、次の場合に、時効によって消滅する(①または②いずれか早いほう)。

① 債権者が権利を行使することができることを知った時(主観的起算点)から5年間行使しないとき。
② 権利を行使することができる時(客観的起算点)から10年間行使しないとき。

 契約から生じた債権は、不確定期限付き債権など一定の債権を除いて、債権者は権利を行使することができる時に権利を行使できることを知っていたといえるので、時効期間は原則として5年となる。


Point1 契約から生じた確定期限付き債権は、原則として、期限が到来した時から5年間行使しないと、時効により消滅する。

 「確定期限」とは、到来することは確実であり、いつ到来するか確定している期限である。たとえば、AがBに100万円を貸し、「今年の4月1日に返済してもらう」と約束すれば、確定期限である。期限が到来した時(4月1日)にAはBに対し貸金の返還を請求できるのと同時に、この時(4月1日)にこの日が到来すればBに貸金の返還を請求できるということもAは知っているので、期限が到来した時から5年の消滅時効も進行するのである。


Point2 契約から生じた不確定期限付き債権は、原則として、債権者が期限の到来を現実に知った時から5年間または期限が到来した時から10年間行使しないと、時効により消滅する。

 「不確定期限」とは、到来することは確実であるが、それがいつ到来するのか確定していない期限をいう。たとえば、AがBに100万円を貸し、「Bの父が亡くなったら返済してもらう」と約束すれば、不確定期限である。期限が到来した時(Bの父が亡くなった時)にAはBに対し貸金の返還を請求できるが、この時(Bの父が亡くなった時)に必ずしもAが期限の到来(Bの父の死亡)を知っているとは限らない。したがって、この場合は、債権者が期限の到来を現実に知った時(AがBの父の死亡を知った時)から5年の消滅時効が開始し、期限が到来した時(Bの父が死亡した時)から10年の消滅時効が開始する。そして、いずれか早いほうの期間が経過することにより、債権は時効により消滅する。


Point3 契約から生じた期限の定めがない債権は、原則として、契約が成立した時(債権が成立した時)から5年間権利を行使しないと、時効により消滅する。

 「期限の定めがない」とは、いつ債務を履行するかを定めていないことをいう。たとえばAがBからB所有の土地を購入し、いつ土地を引渡してもらうのかを定めない場合である。この場合、契約が成立(債権が成立)すれば直ちにAはBに対し土地の引渡しを請求できるのと同時に、この時(契約成立時)にBに土地の引渡しを請求できるということもAは知っているので、契約が成立した時から5年の消滅時効も進行するのである。 


Point4 「債権者が権利を行使することができることを知ったとき」は債務者を知ったことも含む。


(2)人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効

 人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権は、次の場合に、時効によって消滅する(①または②いずれか早いほう)。

① 債権者が権利を行使することができることを知った時(主観的起算点)から5年間行使しないとき。
② 権利を行使することができる時(客観的起算点)から20年間行使しないとき。


Point1 人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権については、損害を受けた者(被害者)を保護するために、客観的起算点からの時効期間を10年から20年に延長するということである。


Point2 人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権は、債務不履行を理由とするものか、不法行為を理由とするものかは問われない。


(3) 判決で確定した権利の消滅時効

 確定判決(または確定判決と同一の効力を有するもの)によって確定した権利については、10年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は、10年とされる。

 ただし、上記の時効期間は、確定の時に弁済期の到来していない債権については、適用されない。


(4) 債権または所有権以外の財産権の消滅時効

 債権または所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から20年間行使しないときは、時効によって消滅する。



消滅時効の対象時効期間
債権①②いずれか早いほう
① 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年
② 権利を行使することができる時から10年
人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権①②いずれか早いほう
① 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年
② 権利を行使することができる時から20年
確定判決または確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利10年
(10年より短い時効期間の定めがあるものであっても)
債権または所有権以外の財産権権利を行使することができる時から20年




時効の完成猶予および更新

(1)時効の完成猶予・更新

①時効の完成猶予

 時効の完成猶予とは、一定の事由が生じている場合に、その事由の終了(または一定期間の経過)までは時効が完成しないことをいう。

 原則として、時効の進行期間中に権利者の権利行使意思が明らかにされた場合に、時効の完成が猶予されることになる。


②時効の更新

 時効の更新とは、それまでの時効期間の進行を振り出しに戻して、新たに時効期間の進行が開始することをいう。

 原則として、権利者に確実に権利が存在することが確認された場合に、時効が更新される。


(2) 裁判上の請求等による時効の完成猶予および更新

①時効の完成猶予

 次のイ)~ニ)いずれかの事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決または確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合は、その終了の時から6か月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。

イ)裁判上の請求
ロ)支払督促
ハ)民事訴訟法の和解または民事調停法による調停
ニ)破産手続参加、再生手続参加または更生手続参加


Point 「少額訴訟」の提起も裁判上の請求に含まれる。


②時効の更新

 確定判決または確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、上記イ)~ニ)の事由が終了した時から新たにその進行を始める。


Point1 裁判上の請求をしても、その訴えが却下・棄却された場合や訴えが取り下げられた場合は、時効の更新の効力を生じない。


Point2 支払督促は、所定の期間内に仮執行の宣言の申立てをしないことによりその効力を失うと、時効の更新の効力を生じない。


Point3 破産手続開始の決定や再生手続開始の決定自体には、時効の完成猶予および更新の効力はない。


(3) 強制執行等による時効の完成猶予および更新

① 時効の完成猶予

 次のイ)~ニ)いずれかの事由がある場合には、その事由が終了する(申立ての取下げまたは法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合は、その終了の時から6か月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。

イ)強制執行
ロ)担保権の実行
ハ)民事執行法に規定する担保権の実行としての競売の例による競売
ニ)民事執行法に規定する財産開示手続または情報取得手続


② 時効の更新

 時効は、上記イ)~ニ)の事由が終了した時から新たにその進行を始める。ただし、申立ての取下げまたは法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合は、時効は更新されない。


(4)仮差押え等による時効の完成猶予

 次のイ)またはロ)の事由がある場合には、その事由が終了した時から6か月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。

イ)仮差押え
ロ)仮処分


(5)催告による時効の完成猶予

 催告があったときは、その時から6か月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。

 なお、催告によって時効の完成が猶予されている間に再度催告をしても、さらに時効の完成は猶予されない。


Point 催告には時効の完成猶予の効果があるだけで、催告をしても時効は更新されない。



(6)協議を行う旨の合意による時効の完成猶予

①時効の完成猶予

 権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、次のイ)~ハ)のいずれか早い時までの間は、時効は、完成しない。

イ)その合意があった時から1年を経過した時
ロ)その合意において当事者が協議を行う期間(1年に満たないものに限る。)を定めたときは、その期間を経過した時
ハ)当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から6箇月を経過した時

 協議を行う旨の合意により時効の完成が猶予されている間に改めて協議を行う旨の合意をすることができ、この再度の合意も、同様に、時効の完成猶予の効力を有する。ただし、その効力は、時効の完成が猶予されなかったとすれば時効が完成すべき時から通じて5年を超えることができない。


②催告による時効の完成猶予との関係

 催告によって時効の完成が猶予されている間に権利についての協議を行う旨の合意をしても、その合意は時効の完成猶予の効力を有しない。また、協議を行う旨の合意により時効の完成が猶予されている間に催告をしても、その催告は時効の完成猶予の効力を有しない。


(7)承認による時効の更新

 時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。


Point1 マンション管理費の滞納者が、滞納の事実を認める承諾書を管理組合あてに提出したときは、債権者の権利を承認したことになるので、時効は更新される。


Point2 マンション管理費の滞納者が、管理組合あてに滞納の事実を認め、滞納管理費の一部の弁済であることを明示して滞納額の一部を支払った場合、債権者の権利を承認したことになるので、その残額についても消滅時効が更新される。


Point3 管理費の滞納者が「必ず支払う」旨を約束した場合も、債権者の権利の承認にあたる。